剣、立つ時
レイザという新たな仲間を加えて、晴天の下を歩くアニール一行。その中で、アニールの胸には新たな決意が燃えている。
「なぁ、イヴイレス。一応質問だが、イーズゲニア島は外れだった。我々は後ろ盾を得るためにこれ以上どこに行けばいい?」
「……分からない。しかしアルトさんなら知っているかもしれない。一旦戻って話をしよう」
アニールは漫然としない気持ちのままラバルタ氏の待つ船に乗り、潮風を感じる。
(それぞれの島が遠い。そのくせに上陸しても何もなさそうな感じだ)
海の上に島が点々と存在している。それらには広がりも多様性もなく、アニールの興味をそそらない。
(今のソルドラス大陸もそうだ。人々は点々と存在するばかりで、皆か弱い。強き者は昔に心身ともに潰れ、あとに残ったのはかつての思い出を抱えるばかりの人しかいない。……どこに行ったとしても結局同じなら)
アニールの視視線がひとつの島に留まる。
(一度立ち止まって、ひとつの島を大きくするのが良いかな)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「着いたぞ〜!」
イーズゲニア島から再び5日間かけた船はティール港町の港に接舷した。アニール達が船を降りると、そこには光り輝くような笑顔で町人たちがアニール達を出迎えている。その町人たちのなかからアルメジアがアニール達を出迎える。
「エルベン様たちが待っております。どうぞこちらへ」
町の中で一番大きい建物に案内される途中で、アルメジアが話し始める。
「この町を解放してくださったあとすぐにアニール様たちが島へ出ていかれたでしょう。なので、お祝いのパーティーはアニール様たちが戻ってからにしようと町の人と話していたんです。ところでそちらの銀髪の方はどなたでしょうか?」
「この人は島で仲間になったレイザさんだ。パーティーを開いてくれるのは嬉しいな。……町の人がみんな集まるなら、私たちからも発表があるかもしれない」
アニールの少々力の入った言葉にアルメジアが立ち止まり、イヴイレスが怪訝な表情をする。
「アニール様、その発表とは?」
「まだ言えない。仲間にまだ相談してないんで、私一人で言うわけにはいかないからな」
「……分かりました。待っています」
集会場だろうか、町で一番大きな建物。石造りの建物に案内され、アルメジアは町の仕事があるからと何処かへ行った。
「お疲れ様、アニール」
入口でエルベンが出迎える。奥ではユーアが料理を作っているらしく、今にもよだれが垂れそうな匂いが鼻を刺激する。アニール達は装備を脱ぎ、身軽な姿になって一番近い部屋の椅子に腰掛ける。
「あ、レイザじゃん。何故彼女がここに?」
エルベンがレイザに気づく。
「丁度いい。みんな集めて。ユーアの料理が終わったら改めて話す」
「おう。話終わったらちゃんと休めよな」
エルベンがその場を離れる。エルベンがみんなを集めて戻ってくるまでのしばしの間に休息を取ろうと溜まった息を吐こうとするアニールだが、イヴイレスの言葉に邪魔される。
「アニール。 さっきアルメジアに話したことはなんだ? 我々は聞いてないが……」
改めて、アニールは彼女と同じく椅子に腰掛ける者たちの眼を見る。イヴイレスは怪訝な眼で、ウインダムスとデボは好奇に満ちた目、レイザは覚悟の決まった目をしている。アニールが口を噤んで答えないでいると、ウインダムスがアニールを急かす。
「なんですか? アニールさん、僕も聞きたいです!」
「……後で話す。みんなで聞いてほしい内容だから」
ちょうどその頃、エルベンが皆を引き連れて部屋に入ってくる。ユーアはフードを被って翼を隠している。
「アニール、連れてきたぞ」
「ああ、ありがとう。ではみんな、椅子についてくれないか」
皆が椅子につき、アニールが話し始める。
「話す要件は二つある。1つ目はこのレイザ・ティアーラ氏が我々の仲間になる。イーズゲニア島の洞穴族の洞窟で会って、色々あったけど仲間になってくれた。光の民としての任務を行うときもあるかもしれないが、基本的には我々と行動を共にする」
レイザが立ち、辺りを見回す。ひとりひとりの顔を覚えるようにゆっくりと見回す。ーーーその途中でアルトと目があったが、レイザは逃げずに視線を合わせた。
「レイザ・ティアーラ、種族はメレスだ。あなたたちの言うところの光の民だ。光の里出身で、激しい肉弾戦にも耐えるように特殊な訓練を施された。だから魔法と肉弾戦の両方ともこなせる。強い敵が現れた時は私を頼りにしてくれ」
一同が拍手する。その音の中でレイザは席に座り、皆の視線が再びアニールに集まる。
「二つ目だが、実はもうこのティール港町に腰を据えて騎士団の活動を始めたいと思う」
イヴイレスの腕を組む指が、ピク、と動く。
エルベンが拳を強く握る。
ウインダムスの背筋が、ピン、とまっすぐに伸びる。
ユーアは気持ちが上ずって動きそうになる翼をフードで抑える。
アルトは鼻から息を深く吐いて瞑目する。
キーラは目の周りの血管が一段と浮き出て、瞳が赤くなる。
レイザはまっすぐに私の眼を見据えて歯を噛み締める。
少し遅れてウインダムスに翻訳してもらったデボは、『どういう活動をするんだろう?』と言いたげに首を傾ける。
イヴイレスが、ガタッ、と立ち上がり、机に手をつきながらアニールに強い眼差しを向ける。
「イヴイレス? 何か言いたいのか?」
「……いや、流石に人数が少ないというか、もう少し後ろ盾を探してからのほうがいいんじゃないのか?」
「後ろ盾? 旅をして散々探した。でも見つからない。あるのは、滅びの跡と弱き人々だけだ。これ以上時間をかければかけるほど、もっと人が死んで人の生きていられる範囲が狭くなる。魔獣の時代が本当に来てしまうのだぞ」
「……それもそうだな」
遂に反論することができず、イヴイレスは再び座ってしまった。
「私は賢明な判断だと思う」
そう言ったのはアルトだ。老兵なりの奥の知れない瞳がアニールに向けられる。
「確かにこのソルドラス大陸の荒廃ぶりは想像以上にひどい。他の助けはもう望めないだろう。我々は現状弱い。人数もあからさまに少ない。だが、他はもっと酷い。あるかどうかもわからない後ろ盾を無闇に探すよりは我々で一度、騎士団と言わずに国を建国する位の覚悟で立ち上がっていかないといかないのだろうな」
アルトの言葉にその場のほとんどが頷く。
「国、か。だとしたら平和と秩序を重んじる我々の価値観が後世にもずっと伝わっていくかもしれないな。なあ、アニール!」
エルベンの向日葵のような笑顔がアニールの頬をほころばせる。
「ふっ、そうかもな。ーーーみんな、どうだろう? ここから秩序の為の騎士団国の建国を目指すのは」
「「「「「「「「「応!!!」」」」」」」」」
ーーーここに8つの掌が重なり合い、ここから騎士団国の物語が始まる。
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