第23話
「先生、私振られちゃった」
放課後の美術室の片隅で
文月菜々はソファに寝転びながら言った
俺は美術の教師になって早数年
学校にも馴染み
生徒からも慕われ
順調な日々を送っている
イケメンでも無い
普通のダメな30過ぎた独身男
生徒たちからは友達のように慕われてはいたが
文月菜々は最初から特別距離が近い気がした
「振られたかーざまぁだな」
「ちょっと教師ーー言葉選んで!」
「はいはい」
「傷つきやすい年頃なんだから」
文月菜々は
1年生のある日の放課後
突然美術室に現れた
放課後、美術室の鍵を締めに向かうと
半分空いたドアから
人の気配を感じた
美術室の片隅にあるソファの上で
ちょこんと体育座りをして
ソファを占領している文月菜々が居た
「おーい早く帰らないと鍵締めちゃうぞ」
菜々は足音と声にハッとして顔を上げ
捨てられた子犬のような悲しい目で
こちらを見た
「友達が幸せになるのに...悲しくて」
ポツンと呟く子犬の頭を
俺は黙って撫でていた
それから
時々こうして俺と話に来るようになった
甘ったれた美少女かと思っていたが
人の気持ちを優先して考える事が出来る
自分の考えや正しさをちゃんと持っている
完璧美少女だった
「彼氏出来たって喜んで、久々に来たかと思えば今度は別れたか、忙しいな若者は」
「大人の方が忙しいよ」
「大人はわりと暇だよ」
「暇なら慰めて」
「...何食べたいんだ?」
菜々はにっこり微笑むと
海の見えるカフェのパフェを強請ってきた
マズいよなぁ…と思いながら
その笑顔には逆らえない
「まだ海はきっと寒いね、向井先生」
無邪気な笑顔につられて
俺も控えめに微笑んだ
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