【統合版】終わる世界

キラキラとした白霧の先は、真っ黒な世界が広がっていた。

それには、太陽が…無かった。

地面すら真っ暗な空間。

白から黒に変わっただけか。

確か、ストレージカードの中にランタンがあった気がするが。

いや、今はいいか。

折角、出来るようになったのだから気配を追ってみよう。

うん、何かがいる気がする。

まあ、きっとマナスライムだろうな。

僕は、外套に手を入れながら進む。

近付いてくる気配があれば、投げナイフを投げよう。

此処も、音での感知は無理そうだ。

無音。

自分から発せられる音も感じない。

闇の中に、何かがいる。

それは、視覚としても見える。

僕は、投げナイフを投げる。

それに、投げナイフが突き刺さると白い煙が上がる。

その瞬間。何かが地面に落ちる。

真っ黒な地面。

そこに、赤い背表紙の本が落ちていた。

僕は、それを拾い上げるとウェストポーチに突っ込んだ。

まだ、気配を感じる。

僕は、外套の内ポケットに手を入れ構える。

右脚を少し前に歩を進める。

横薙ぎに、腕を振り投げナイフを投げる。

投げた先で、再び白い煙が上がる。

そして、再び1冊の本が地面に落ちる。

今度は、青い背表紙の本だ。

僕は、再び本を拾いウェストポーチに仕舞う。


『マナスライム【92/100】』


その文字が見える。

そう言えば、今はなんとなくでも視認で来ているんだった。

霧の中では、見ることが出来なかったけれど。

あと8体。

もうすぐ、このインスタンスダンジョンから外に出れるのか。

外の世界はどんなとこなのだろう。

というか、此処はどこなのだろうか。

記憶がほとんどないからよくわからない。

一部のゲーム知識のような物はある気はするんだけど。

それが、何のゲームだったかは分からない。

何か、関係しているような気はするけど。

僕は、考えつつも歩を進める。

闇の中にいるマナスライムは、どうやらダークネスマナスライムとは別物のようだ。

どちらかというと、無属性の透明なマナスライムに近しい。

ただ、透明度が昏い。

黒い墨汁を馴染ませたような透明度。

だから、真っ黒な地面と真っ暗な周囲に溶け込んでいる。

ただ、なんとなくだが背景との境目が分かるようになってきた。

目が慣れたのか、気配察知が鮮明になったのかは分からないが。

はぁ、分からないことだらけだ。


真っ暗な世界を超えた。

ここまでで、9冊の本を手に入れている。

僕の周りには、もう何もない真っ白の大地が広がっている。


『マナスライム【99/100】』


あと1体。

やっと、インスタンスダンジョンが終わる。


ポニョン

ズーン


マナスライムの足音と共に重たい振動がやってくる。

僕は、クロスボウを取り出した。

そして、構える。


ポニョン

ズズーン


さっきよりも大きな音と振動が襲う。

僕の視界にも見えてきた。

凄く大きい。

山とでもいえるほどの大きさだ。

僕は、すぐにクロスボウを撃つ。

クロスボウの矢は、マナスライムの身体に突き刺さる。が、今までと違って破裂することはなかった。

僕は、すかさず2射目を放つ。

その矢も突き刺さるが破裂することはなかった。

どうやら、矢自体がスライムのコアのようなものを貫くことができない為、破裂しないのかもしれない。

僕は、クロスボウをウェストポーチに収納する。

その代わりに、短剣片手剣を引き抜く。

そして、マナスライムに突きをする。

しかし、それでもマナスライムを破裂させることができない。

どうしたらいいのだろう。

僕は、短剣と片手剣を引き抜く。

そして、マナスライムから距離をとる。


「射程が短すぎるな」


片手剣の射程もクロスボウの射程も足りない。

そうだ。

僕は、短剣を鞘に戻してクロスボウを左手に持つ。

片手剣で切り込んで、クロスボウをゼロ距離から放ってば射程はのびるはずだ。 

僕は、マナスライムに突き刺さった矢に向けて一度クロスボウの矢を重ねるように撃つ。

そして、右手に持つ片手剣をその上から突き刺す。


ズブッ

ズブッ


奥へ奥へと2本の矢が、マナスライムの中へと入り込んでいく。

僕は、すかさず片手剣を抜いてその上からクロスボウを更に撃ち込んだ。


パンッ


乾いた音がして、マナスライムが破裂した。

僕は、前のめりに倒れ込んだ。

急に目の前がなくなってバランスを崩した。


コツンッ


僕の頭に、サッカーボールくらいの大きさの石が落ちてきた。


「いったぁ」


僕は、絶叫した。

ちょっと、涙が出てきた。

石は、血の色のように真っ赤な球体。

粗削りの表面があるから多面体かもしれない。

宝石?いや、魔石かな。

魔石の中央には、光が灯っている気がする。

魔石の光は、僕に何かを訴えるように瞬いている。


『???の心臓』


その文字だけが見えた。

心臓…と言っても贓物には見えない。

どう見ても魔石だ。

それでも特大サイズの。

…魔石なんて見たことあったかな。

変化の魔石があったか。

でも、あれってビー玉くらいの大きさだし、ほぼガラス玉のようなものだからなんだか魔石とは違うような気がするけど。

魔石を見ていると周りの風景に綻びが出始める。

砂嵐の中にいるかのように。

やがて、僕は大きな建物の前に立ち尽くしていることに気づいた。

上を見やる。

空に届きそうなほどに高いグレーのレンガが積まれた塔。


天空界塔アストリアトゥルスか」


ここは、世界各地に聳え立つ108本の塔の1つ。

朽ちた塔だ。

よく見ると、所々にレンガの空きが見える。

他の塔に比べて色が極端にない。

属性色が失われているとされている。


「あ、ご主人どこ行ってんですか?探したんですからね」


僕は、声のした方を向く。

そこには、白髪の整った顔立ちの美少女が立っていた。

その頭には、真っ白でもこもこした猫耳のような耳が付いている。

両肩を出すようなピンク色のセーターと赤くパステルカラーのキュロット、それに黒いタイツを履いている。

足元には、緑色の革のブーツを履いている。


「シトゥル?」

「はいはい、貴方の契約獣のシトゥルちゃんですよ」


彼女は、白縁眼鏡をクイッと上げる。

シトゥルは、僕と契約獣だ。

獣の姿は、白い猫竜。

真っ白な毛皮のドラゴンである。

見た目は、ドラゴンというよりもホワイトタイガーに近いかもしれない。

フルネームは、シトゥル・クワイエット・ドラクレア。


「探していた割には、両手いっぱいの串焼きはなにかな?」

「さあ、なんのことでしょうか」


シトゥルの両手には、20本ほどが入りそうな紙の袋が握られている。

その袋は、彼女が好きな刃鶏の串焼き屋台の物だ。

シトゥルは、袋から串焼きを取り出しモシャモシャと食べながら僕に近づいてきている。


「ていうか、ご主人様は変わった格好してますね。イメチャンですか?」


僕の恰好?

ふむ、服装はインスタンスダンジョン内での装備のままだ。

あー、なんとなく思い出してきた。

僕は、夜食を買おうとパジャマのまま家を出て朽ちたここに来たんだ。

そして、あそこに迷い込んだ。

それと、ここは僕が昔やっていたゲームの世界。


「ご主人様?お腹でも空いてますか?

しょうがないですね、1本恵んであげましょう」


シトゥルは、僕の口に串焼きを突っ込む。

香辛料が効きまくった辛みが口いっぱいに広がる。


「ねぇ、シトゥル…『???』は?」


僕は、ある名前を口にしようとした瞬間。

言葉が出なくなった。

そうして、やっと理解した。

僕が身に着けていた装備『???』の出所を。

ゲーム『ゴッド・クロニクル・オンライン』においてプレイヤーのパートナーである神の存在を思い出した。

そして、僕のパートナーである『???』。

もう、名前を言うことも姿を思い出すことのできない。

彼だったのか、彼女だったのかも分からない。


「大丈夫?ご主人様?」


心配そうに僕の顔を覗くシトゥル。

僕は、串を手で持ち串焼きを食べる。

ああ、辛いなぁ。

僕の頬をスーッと涙が伝う。


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序章終わりです。

『???』は、ヒジリの契約神です。

なぜ、邪神と呼ばれたのか。

『ゴッド・クロニクル・オンライン』とは?

第1章に続きます。

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宮前 聖


レベル1【封印】

HP 1010

MP 1010

攻撃 101+2(1)

防御 101+4

器用 101

敏捷 101

魔力 101

幸運 101


武器(左)???の牙 攻撃+1

武器(右) ???の角(脇差)

武器 ???のクロスボウ 攻撃+1


防具 ???のシャツ 防御+1

防具 ???のズボン 防御+1

防具 ???のアームブレイサー防御+1

防具 ???の外套 防御+1

防具 ???のブレストアーマー 防御+1

防具 ???のウェストバッグ 防御+1

防具 ???のブーツ 防御+1

防具 ???の手袋 防御+1

防具 ???のウェストポーチ(ベルト)防御+1

装飾 鑑定眼鏡(?)


称号 異世界人、邪神に呪われし者、帰還者


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