第9話 幽霊写真の真相

 小学校の文化祭が終わったある日のことだった。智也たちの教室に、驚きの声が響き渡った。

「ねえねえ、見て!この写真、おかしくない?」

「え?どこが...うわっ!」

教室の後ろの掲示板に貼られた文化祭の集合写真を、生徒たちが取り囲んでいた。その中に、見知らぬ少女の姿が写り込んでいたのだ。長い黒髪を後ろで結び、少し寂しげな表情を浮かべた少女は、どこか懐かしさを感じさせる古めかしい制服を着ていた。

智也が黒縁メガネを直しながら、写真を覗き込んだ。彼の眉間にしわが寄る。

「確かに...この子、うちのクラスにいない子だよね」

美咲が首を傾げながら言った。彼女の長いポニーテールが揺れる。

「でも、どうして知らない子が写ってるの?撮影の時、気づかなかったよね?私、写真部の子の隣にいたけど、こんな子見てないよ」

颯が興奮気味に叫んだ。彼の目は好奇心で輝いていた。

「これって...幽霊写真じゃないか!俺、こういうの本で読んだことあるぞ。カメラが霊を捉えることがあるんだって!」

香織は冷静に観察しながら言った。彼女の細い指が写真の表面をなぞる。

「でも、写り方は他の生徒と変わらないわ。光の具合も自然だし、合成や二重露光のようには見えないわね。不思議ね...」

太郎は既にスマートフォンで写真を撮影し、拡大して確認していた。彼の眉が寄る。

「うーん、デジタル処理の跡も見当たらないな。画素の乱れもない。これは本物の現象かもしれない。でも、科学的な説明がつかないのは困るな...」

5人は顔を見合わせ、怪異解明団としてこの謎に挑むことを決意した。教室の喧騒をよそに、彼らの心には既に探究心が芽生えていた。

放課後、5人は図書室に集まり、調査の方針を立てた。夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、本棚の影を長く伸ばしている。

智也が言った。彼の声には、いつもの落ち着きがあった。

「まずは、写真を撮影した時の状況を詳しく調べよう。それから、この少女に関する情報も集めないと。僕は先生方に聞き込みをしてみるよ」

美咲が頷いて答えた。彼女の目には決意の色が宿っていた。

「私、写真部の友達に聞いてみるね。撮影の時の様子を覚えてるかもしれない。それに、現像の過程で何か変わったことがなかったか、確認してみる」

颯は目を輝かせながら言った。彼の声には興奮が滲んでいた。

「俺は校内の噂を集めてくる!きっと面白い情報が見つかるはずさ。それに、近所のお年寄りにも聞いてみるよ。昔の学校の話とか、知ってるかもしれない」

香織は静かに提案した。彼女の声は、図書室の静寂にぴったりと溶け込んでいた。

「私は図書室で学校の歴史を調べてみるわ。過去に似たような出来事がなかったか、確認する必要があるわね。古い新聞記事も探してみるつもり」

太郎は鞄から小型のカメラと奇妙な機械を取り出しながら言った。彼の目には、発明家特有の好奇心が宿っていた。

「よし、俺は写真が貼られてる場所の電磁波や温度変化を測定してみるよ。何か異常があるかもしれない。それに、赤外線カメラでも撮影してみる。目に見えない何かが写るかもしれないしな」

5人は手分けして調査を始めた。それぞれが自分の得意分野を生かし、謎の解明に向けて動き出した。


数日後、再び図書室に集まった5人は、それぞれの発見を共有した。外では秋の雨が静かに降り、窓ガラスを伝う雫が、彼らの緊張感を高めているようだった。

美咲が報告を始めた。彼女の声には、少し戸惑いの色が混じっていた。

「写真部の友達に聞いたんだけど、撮影時は特に変わったことはなかったって。でも、現像する時に少し違和感があったらしいの。プリントアウトした時、最初はぼんやりとしか写っていなかった部分が、だんだとはっきりしてきたんだって」

颯が続けて言った。彼の声は、興奮で少し震えていた。

「俺が集めた噂だと、40年前に失踪した女子生徒の話があったんだ。その子、写真の少女にそっくりらしいぜ。近所のおばあちゃんが教えてくれたんだ。その子、文化祭の日に姿を消したんだって」

香織が古い新聞記事のコピーを広げながら言った。彼女の表情は、真剣そのものだった。

「それに関連して、重要な情報を見つけたわ。40年前の文化祭で火災事故があったの。詳細はあまり書かれていないけど…。でもその後の記事では、火事のことはほとんど触れられていないの。何か、隠されているような...」

太郎は測定結果をノートに記しながら言った。彼の声には、科学者としての冷静さが感じられた。

「写真の周辺で、確かに微弱な電磁波の異常を検出したよ。通常の電子機器から出るものとは違う波長だ。それに、赤外線カメラでの撮影では、写真の少女の部分だけ、わずかに温度が低く映っていた。何かがあるのは間違いない」

智也は眉をひそめ、考え込んだ。彼の表情には、謎を解こうとする強い意志が現れていた。

「40年前の火災と失踪した少女...これは深く関係してるかもしれない。もっと詳しく調べる必要がありそうだ。みんな、もう少し踏み込んだ調査をしよう」

5人は更なる調査に乗り出した。古い新聞記事を丹念に読み、当時の教師や生徒たちへのインタビューを試みた。最初は誰も多くを語ろうとしなかったが、5人の真剣な態度に心を動かされ、少しずつ情報を提供してくれる人が現れ始めた。

そして、衝撃的な事実が明らかになっていった。

失踪したとされる少女、小田真奈美は、当時のクラスでいじめの標的になっていたという。彼女は成績優秀で、先生たちからの評判も良かったが、それがかえって同級生たちの妬みを買っていたのだ。文化祭の準備期間中、美咲は度々からかいの対象となり、準備の邪魔をされたりもしていた。

そして文化祭当日、真奈美の出し物のために用意していた小道具から火が出た。周囲の生徒たちの証言によると、それは明らかに人為的なものだったという。

問題は、それ以降、彼女の姿を見た者はいなかった。学校側は彼女が混乱して家に帰ったのだろうと考え、大きな捜索は行わなかった。しかし、彼女は家にも帰っておらず、結局行方不明として扱われることになったのだ。

この事実を知った5人は、言葉を失った。彼らの心には、悲しみと怒り、そして深い同情の念が渦巻いていた。


ある日の放課後、5人は重苦しい表情で集まった。図書室の隅、いつもの場所だ。外は既に暗くなりはじめ、図書室の蛍光灯が彼らの表情を青白く照らしていた。

智也が静かに口を開いた。彼の声には、普段の冷静さは感じられなかった。

「みんな...どうやら、事故の背景にいじめの問題があったみたいだ。小田真奈美さんは、クラスメイトたちから酷いいじめを受けていたんだ」

颯が拳を握りしめながら言った。彼の声には、怒りが滲んでいた。

「くそっ...いじめなんかで、人の命が...許せねぇよ。どうして大人たちは気づかなかったんだ?」

香織は冷静さを保とうと努めながら言った。しかし、彼女の声にも僅かな震えが感じられた。

「でも、それだけじゃないわ。事故の真相が隠蔽されていた可能性が高いの。学校側が事態を小さく見せようとした形跡がある」

太郎が驚いた声を上げた。彼の目は、信じられないという色を宿していた。

「隠蔽?それって...まさか、学校ぐるみで?」

智也が深刻な表情で説明した。彼の声は静かだったが、その言葉の重みは全員に伝わった。

「ああ...失踪したとされる小田真奈美さんは、実は火災で亡くなっていた可能性が高いんだ。でも、その事実は隠されてきた。学校の評判を守るため、そして関わった生徒たちを守るためだろう」

5人は沈黙に包まれた。教室の外から聞こえる部活動の声が、妙に遠く感じられた。しばらくして、美咲が小さな声で言った。

「私たち...この事実を明らかにするべきだと思う。小田真奈美さんの名誉のためにも...でも...」

颯が続けた。彼の声には、珍しく迷いが感じられた。

「でも、それで傷つく人もいるかもしれない。当時の生徒たちや、隠蔽に関わった先生たち...どうすればいいんだ...」

香織が静かに言った。彼女の目には、決意の色が宿っていた。

「簡単な答えはないわ。でも、真実を知ることは大切よ。それが、小田真奈美さんへの私たちにできる唯一のことかもしれない」

太郎も頷いて言った。彼の声には、科学者としての冷静さが戻っていた。

「そうだな。俺たちにできることは、事実を正しく伝えることだと思う。それが、未来のためにも必要なことじゃないか」

智也が決意を込めて言った。彼の目には、強い意志の光が宿っていた。

「みんな、僕も同じ意見だ。真実を公表し、小田真奈美さんの名誉を回復させよう。そして、二度とこんな悲しいことが起きないように、私たちにできることをしよう」

5人は固く握手を交わし、行動を起こすことを決めた。彼らの表情には、もはや迷いはなかった。


その後の数週間、5人は懸命に活動した。学校側との交渉、当時の関係者へのインタビュー、資料の収集と分析。彼らの真摯な態度に、多くの人々が心を動かされ、協力してくれるようになった。

そして、学校全体で追悼会を開くことが決まった。11月の肌寒い日、体育館には全校生徒と教職員、そして地域の人々が集まった。壇上には、40年前の小田真奈美さんの写真が飾られていた。

5人は壇上に立ち、自分たちの調査結果と、そこから学んだことを語った。

智也が話し始めた。彼の声は落ち着いていたが、聴衆の心に深く響いた。

「私たちは、40年前の悲しい出来事を知りました。小田真奈美さんという一人の生徒が、いじめによって追い詰められ、悲劇的な最期を迎えたこと。そして、その事実が長年隠されてきたことを。これは、私たち一人一人が真剣に向き合わなければならない問題です」

美咲が続けた。彼女の目には涙が光っていたが、声は力強かった。

「一人一人の命がどれだけ大切か、私たちは忘れてはいけません。彼女が経験した孤独や苦しみを、もう誰にも味わってほしくありません」

颯が力強く言った。彼の声には、怒りよりも強い決意が感じられた。

「二度と同じ過ちを繰り返さないために、僕たちにできることがあるはずです。いじめを見過ごさない勇気、困っている人に手を差し伸べる優しさ、そして何より、お互いを尊重し合う心。それらを私たちは持ち続けなければなりません」

香織が静かに語りかけた。彼女の落ち着いた口調は、聴衆の心に深く染み入った。

「過去から目を背けるのではなく、しっかりと向き合い、学ぶことが大切です。小田真奈美さんの悲劇を無駄にしないためにも、私たちは歴史から学び、より良い未来を作る責任があります」

太郎が最後にまとめた。彼の声には、科学者らしい冷静さと、人間らしい温かさが共存していた。

「そして、お互いを思いやる心を持ち続けることが、私たちにできる最も大切なことなのです。技術は進歩し、時代は変わっても、人の心の温かさは変わらないはずです。その温かさで、傷ついた心を癒し、新たな悲劇を防ぐことができるのです」

会場は静まり返り、やがて温かな拍手が沸き起こった。多くの生徒たちの目に、涙が光っていた。教職員たちも、深く頭を垂れ、反省と決意の表情を浮かべていた。

追悼会の後、学校は大きく変わり始めた。いじめ防止の取り組みが強化され、生徒たちの間でも、お互いを思いやる雰囲気が広がっていった。

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