第4話 山の中の不思議な村 その2

翌朝、5人は早くに目覚め、昨夜の出来事について話し合った。彼らは宿泊先の年配女性の家の縁側に集まり、これからの行動計画を立て始めた。

智也が地面に簡単な村の見取り図を描きながら言った。

「昨夜の儀式の場所や、これまでに見つけた手がかりの位置関係をまとめてみよう。村の全体像を把握することで、この謎の構造が見えてくるかもしれない」

4人は頷くと智也がこう言った。

「よし、決まりだ。村の外周から歩き始めて、徐々に中心部へと調査範囲を狭めていこう。それぞれの専門分野に注目しながら、気づいたことはすぐに共有しよう」

5人は朝食後、調査を開始した。しかし、村の外周を歩き始めてすぐ、不思議なことに気づいた。どの道を進んでも、いつの間にか村の中心部に戻ってきてしまうのだ。

太郎は困惑した様子で言った。

「おかしい...コンパスが完全に機能停止してる。こんなことって、あり得るのか?」

香織も驚いた様子で言った。

「私が持ってきた本も...中身が空白になってる!まるで、この村が私たちの持ち物まで変えてしまったみたい」

智也は冷静に状況を分析した。

「どうやら、この村には何か特別な力が働いているようだ。僕たちは、単なる空間だけでなく、もしかしたら時間さえも超えて来てしまったのかもしれない」

5人は、この不思議な村に閉じ込められてしまったことを実感し、互いに不安な表情を浮かべた。しかし同時に、この謎を解き明かす決意も新たにした。

そして智也は深呼吸をして、仲間たちに向かって言った。

「よし、みんな。これまでの情報を整理しよう。この村には大きな秘密があるんだ」

5人は集会所の一角に集まり、それぞれが得た情報を共有し始めた。

香織が古文書を広げながら説明を始めた。

「この文書によると、村では毎年『子供たちの成長を祝う祭り』が行われていたの。その祭りによって、山の神の加護を得ていたみたい」

智也が頷きながら付け加えた。

「そう、でも60年前に何かが起きて、その祭りが中止になったんだ。年配の女性から聞いた話では、その頃から村に霧がかかり始めたそうだ」

美咲が驚いた表情で言った。

「それで子供たちが生まれなくなったの?だから村に子供の姿が見えなかったんだね」

颯が興奮気味に言った。

「僕が見つけた祠の近くの石板、子供の手形が押されてたんだ。きっとその祭りに使われていたんだよ」

太郎も自分の発見を語った。

「村の技術は古いようで実は洗練されている。きっと山の神の知恵を借りて発展してきたんだろう」

そしてそこへ、昨日彼らに親切にしてくれた年配の女性が近づいてきた。彼女の表情には、何か言いたげな様子が浮かんでいた。

智也が女性に気づき、優しく声をかけた。

「何かお話しがありますか?」

女性はためらいがちに口を開いた。

「実は...あなたたちに話しておかなければならないことがあるの」

5人は興味深そうに女性の話に耳を傾けた。

女性は深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。

「60年前、この村では毎年、子供たちの成長を祝う祭りが行われていたの。その祭りは村の繁栄と、山の神様の加護を受けるための大切な儀式だったわ」

美咲が尋ねた。

「でも、なぜその祭りが中止になってしまったんですか?」

女性の目に悲しみの色が浮かんだ。

「あれは、祭りの前夜のことだった。村長の息子と、祭りの中心となる巫女を務める予定だった娘が...」

女性は言葉を詰まらせた。颯が優しく促した。

「二人に何があったんですか?」

女性は続けた。

「二人は恋に落ちていたの。でも、巫女は純潔を保つ必要があった。二人は村から逃げ出そうとしたわ。村長はそれを知り、息子を祠に閉じ込めてしまった。娘は悲しみのあまり、崖から身を投げてしまったの」

5人は息を呑んだ。香織が震える声で聞いた。

「それで、祭りは...」

女性は頷いた。

「ええ、祭りは中止になった。村長は息子を失い、巫女もいなくなってしまった。それ以来、村は霧に閉ざされ、村の子供たちは眠りついたまま起きず子供も生まれなくなってしまった。私たちは山の神様の怒りを買ってしまったのよ」

智也が真剣な表情で尋ねた。

「それ以来、村人たちは毎晩あの儀式を...」

女性は悲しそうに答えた。

「そう、あれは許しを請うための儀式なの。でも、60年経っても山の神様の怒りは収まらない」

5人は互いに顔を見合わせた。これが村の秘密、そして彼らがここに導かれた理由だったのだ。

智也が決意を込めて言った。

「分かりました。私たちに何かできることはありませんか?この呪いを解く方法は...」

女性は希望の光を目に宿して答えた。

「あなたたち、外の世界から来た子供たち。もしかしたら、あなたたちなら...祭りを再現できるかもしれない」

智也が決意を込めて言った。

「みんな、分かったか?私たちがすべきことは、この失われた祭りを再現することだ。それが、村を救う唯一の方法なんだ」

5人は顔を見合わせ、頷いた。そして、それぞれの役割を決めて行動を開始した。

智也は村人たちを集め、祭りの再現について説得を始めた。

「皆さん、お聞きください。私たちは、あなたがたの村を救うためにここにいるのです。失われた祭りを再現しましょう」

初めは疑心暗鬼だった村人たちも、智也の熱意に次第に心を開いていった。

美咲は村の若者たちと協力して、祭りの準備を始めた。

「こっちの飾りつけ、手伝ってくれる?」と彼女が声をかけると、若者たちが笑顔で集まってきた。

颯は祠の周りを丹念に調べ、霊的なエネルギーを感じ取った。

「ここだ!祭りの鍵となる場所が特定できたぞ。この石の配置が重要なんだ」

香織は昼夜を問わず古文書を解読し続けた。

「祭りの正確な手順と呪文...やっと分かったわ。これを間違えずに唱えないと」

太郎は村にある材料を使って、祭りに必要な道具を次々と作成していった。


夜、村全体が神秘的な雰囲気に包まれていた。空には無数の星が瞬き、遠くでフクロウの鳴き声が響く。村の中央広場には、太郎が作った祭壇が設置され、颯が指定した場所には古い祭具が丁寧に配置されていた。村人たちは緊張した面持ちで集まり、60年ぶりの祭りの再現に胸を高鳴らせていた。

智也は深呼吸をして、仲間たちを見渡した。

「みんな、準備はいいかい?これが私たちにとって、そしてこの村にとって、最大の挑戦になるよ」

美咲は少し緊張した様子で頷いた。

「うん、大丈夫。私、歌の練習もたくさんしたし、村の人たちにも教えたよ」

香織は古い巻物を手に持ち、真剩な表情で言った。

「呪文は完璧に暗記したわ。間違えずに唱えられるはず」

颯は祠の周りを歩きながら、空気の変化を感じ取っていた。

「なんだか、霊的なエネルギーがどんどん強くなってきてる。これは間違いなく、何か大きなことが起こる前兆だよ」

太郎は最後の調整をしていた祭具を手に取りながら言った。

「よし、これで全部の準備が整った。あとは...」

彼の言葉が途切れたその時、突如として地面が大きく揺れ始めた。村人たちから驚きの声が上がる。

智也が叫んだ。

「みんな、慌てないで!これも儀式の一部かもしれない。予定通り進めよう!」

香織が古文書に記された呪文を唱え始めると、空気が変わり始めた。風が強くなり、木々がざわめき、まるで自然全体が呪文に呼応しているかのようだった。

美咲の澄んだ歌声が村中に響き渡る。その歌は、60年前に途切れた祭りの歌で、村人たちの記憶を呼び覚ました。お年寄りたちの目に涙が光り口ずさみ始めた。

そのとき、山の方から轟音が響いてきた。空が黒い雲に覆われ、その中から巨大な獣の姿が現れた。それは山の神の使いとも言うべき存在で、その姿は威厳に満ち、同時に恐ろしさも漂わせていた。

村人たちは恐怖で震え上がり、中には逃げ出そうとする者もいた。しかし、智也が大きな声で叫んだ。

「みんな、逃げないで!これこそが、私たちが招いた山の神の使いなんだ」

颯が叫んだ。

「智也、あの獣を祠まで誘導しなきゃ!そこでこそ、儀式の力が最大限に発揮されるはずだ!」

5人は素早く作戦を立て、村人たちの協力も得ながら、巨大な獣を祠へと導いていく。太郎が作った仕掛けを使って獣の注意を引き、美咲の歌声で獣の動きを緩め、颯と智也が松明を手に持って道を示した。

祠の前に到着すると、香織が最後の呪文を唱え始めた。その瞬間、祠から眩い光が放たれ、獣を包み込んだ。獣は激しく暴れたが、次第にその動きが穏やかになっていく。

村人全員が息を潜めて見守る中、獣の体が光に溶けていくような現象が起こった。そして突然、まばゆいばかりの光が辺りを包み込み、誰もが目を閉じざるを得なくなった。

光が収まり、人々が恐る恐る目を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。村を覆っていた霧が完全に晴れ、遠くには現代の町の明かりがはっきりと見えている。さらに驚いたことに、次々と子供たちが眠りから覚め始めた。

「パパ!ママ!」

「次郎!やっと起きた!」

60年間眠っていた子供たちと両親との再会。涙、抱擁、喜びの声が村中に響き渡った。

5人は呆然とその光景を見つめていた。美咲の目には涙が光り、太郎は感動で言葉を失い、颯は興奮で体を震わせていた。香織は安堵の表情を浮かべ、智也は静かに微笑んでいた。

村長が涙ながらに5人に近づいてきた。

「本当にありがとう。君たちは私たちの村を救ってくれた。60年もの間、私たちは過去の過ちに囚われ、前に進むことができなかった。しかし君たちのおかげで、私たちは再び希望を手に入れることができたのだ」

智也は深々と頭を下げて答えた。

「いいえ、私たちだけの力ではありません。村の皆さんの協力があってこそ、この奇跡は起こったのです」

村長は5人に、「山の恵みの証」と呼ばれる不思議な力を持つお守りを渡した。

「これは代々、村の守護者が持っていたものじゃ」

美咲は目を輝かせながらお守りを受け取った。

「わあ、なんて美しいんでしょう。大切にします。これからも、よく遊びに来てもいいですか?」

村長は優しく微笑んで答えた。

「もちろんじゃ。いつでも来るがよい。君たちは、もうこの村の大切な一員なのだから。そして、これからも世界中の不思議を解明し続けてほしい。君たちには、その力がある」

夜が明け、新しい朝日が村を照らし始めた。村人たちは、外の世界とつながりを取り戻した喜びと、急激な変化への不安が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。

智也は村人たちに向かって言った。

「これからは、伝統を大切にしながらも、少しずつ現代化を進めていけばいいんです。私たちが定期的に訪れて、その橋渡しをさせていただきます」

颯が興奮気味に付け加えた。

「そうだよ!この村の素晴らしい伝統と技術を、外の世界にも伝えていかなきゃ。きっと多くの人が興味を持つはずだ」

香織は静かに言った。

「私は、この村の歴史や文化をもっと詳しく調べたいわ。きっとまだ、たくさんの学ぶべきことがあるはず」

太郎は目を輝かせながら言った。

「俺は、この村の伝統技術と現代技術を融合させた新しいものづくりにチャレンジしてみたい。村の人たちと一緒に」

美咲は村の子供たちに囲まれながら、笑顔で言った。

「私は、この村の歌や踊りをもっと多くの人に広めたいな。音楽には、人々の心をつなぐ力があるから」

こうして、怪異解明団の5人は、驚くべき冒険を終え、新たな使命を見出した。彼らは村を後にしながら、これからも世界中の不思議を解明し、人々の絆を深める役割を果たしていく決意を新たにしたのだった。

山道を下りながら、5人は振り返って村を見つめた。かつての霧に包まれた神秘的な姿は消え、代わりに生き生きとした活気に満ちた村の姿があった。

そして、彼らの胸に掛けられた「山の恵みの証」のお守りが、かすかに輝きを放ったのだ。

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