推させて下さい!4【白居珠子】

見知らぬ女性に声をかけられ、カフェに連れ込まれた珠子はこの世の終わりのような表情を浮かべていた


これは宗教かねずみ講の勧誘なのだろうか、もしかするとこのまま誘拐されて身代金の要求をされたりするかもしれない、最悪の場合は、死

珠子は恐怖のあまり目に涙を浮かべてただ震えるだけだった


「ごめんなさい急に、ホントに怪しい者とかじゃなくて、改めて、これを」


差し出された名刺を珠子は涙を拭って受け取った

名刺には「ビートアッププロダクション 安時 梨奈」と表記されている


「私ビートアッププロダクションの者なんですが、ビートアッププロダクションって聞いたことあります?」


珠子は首を横に振る


「そっか、じゃあハチミツドリップってアイドルグループは分かります?」


ハチミツドリップ、女子4人組のアイドルグループでバラエティー番組や歌番組に引っ張りだこだった人気アイドルグループだ

2年前に解散し、引退したメンバーを除いて今は其々女優やタレントとして活動している

テレビでよく見かけた事もあって、珠子はハチミツドリップのメンバーの名前や有名な曲くらいは知っている


「は、はい、分かります...」


珠子は消えそうな声で答えた


「そのハチミツドリップが所属していた事務所がこのビートアッププロダクションです。いや、今も残ってるメンバーは所属しているんですが」


「え?」


珠子は驚いて目を丸くした


「そして、改めて本題なのですが、私はアナタをスカウトする為い声をかけました。是非ウチの事務所でアイドルとして活動しませんか?」


「え?え?え?え?」


どうしてそんな有名芸能事務の人が自分なんかをスカウトしているのだろう?これは夢か幻か、あまりに突然の事が続きすぎて珠子は頭の中で今起きている事を処理しきれずパンク寸前になり、目を回しながらフラフラと頭を揺らす


「えっと、今すぐに決めて欲しいって訳じゃないので、もし未成年なのであれば保護者の方の同意も必要ですし、一度持ち帰ってもらってゆっくり考えていただければ大丈夫です。

もし受けてくれるのであればこの名刺に書かれた連絡先に連絡してくれれば、私、いつまでも待つんで、いつまでに連絡して欲しいとかもないんでゆっくり考えて貰って全然大丈夫なんで!」


そう言うと彼女は頼んでいたカフェオレをグッと飲み干した

これはもう話が終わったので店を出るという合図だろうと思い、珠子も彼女が頼んでくれていたオレンジジュースを一気に飲み干した


店を出た2人はその場で解散し、珠子は電車に乗り帰宅した


自宅についた珠子は自室のベッドに横たわり、先程の出来事を思い返した


自分がアイドル?どう考えても現実味がない、珠子はスマホで動画サイトを開いてハチミツドリップえお検索した、ヒットした動画の中から公式アカウントがあげているライブのダイジェスト映像を再生してみた

沢山の観客が詰めかけた大きなアリーナで常に笑顔を絶やさず、歌って踊る彼女達を見て、自分がこんな風に出来る訳がないと、動画を閉じて深いため息をついた


(あぁ、そういえば結局、本を買う忘れてたなぁ)


珠子はゆっくりと目を閉じた



「...まこ~、たまこ~」


ドアをノックする音と母の声が聞こえ、珠子はハッと目を開いた


「はいー?」


「晩御飯出来たわよ~」


「うん、すぐ行くー」


どうやら眠ってしまったようだ、珠子は目をこすりながらベッドから出て立ち上がった


『もし未成年なのであれば保護者の方の同意も必要ですし、一度持ち帰ってもらってゆっくり考えていただければ大丈夫です。』


カフェでの言葉がふと脳裏に浮かび、珠子はリュックの中から名刺を取り出した


(うぅ~、どうしよう...お父さんとお母さんに相談するべきだよね...でも、恥ずかしくて言えないよ~!)


珠子は名刺を見つめ、深いため息をついた




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