第56話 笑った彼女は魔王よりも恐ろしい
そして遂に最終回生放送当日。
この日の放送はいつものスタジオではなくイベントホールを貸し切っての公開生放送となった。
イベント参加のチケットは即日完売。しかもこのチケットは一枚も転売に出される事は無く奇跡のプレミアムチケットと呼ばれ話題を攫った。
イベント会場は多くの子供達の声で埋め尽くされていた。
「チケット貰ったから仕方なく来てやったけど騒がしいなぁ……」
「ねぇダーリン、こんな場所じゃなくてもっといい所行こうよ〜」
「そうだなぁ〜」
子供達溢れるこの場で明らかに場違いな格好をした勇者とそれにベタつくギャル風な女。
「だったら帰れ」
背後から2人の頭軽く叩く魔王。
「おい、せっかく来てやったのになんだよその態度は〜」
「あ、このおにいさん私見たことある!えっと〜確かギャルのおにいさん」
「誰がギャルのおにいさんだ。コイツと一緒にするでない」
「アハハッ!おにいさんめちゃめちゃくちゃノリいいじゃん!!サイコー!」
我の体にベタベタ触りながらとにかく騒ぐギャル風の女。
「なんなんだコイツは……」
「カワイイだろ。今の俺の彼女」
「2度と元の世界に帰れないと分かって随分振り切ったみたいだなぁ。楽しんでるようで何よりだ」
室内なのにサングラスをつけ、これ見よがしに高級ブランドのロゴが入った服を身に纏う。
つまり完全にコイツは浮かれてる。だからこの恐ろしい気配にも気付かずいられるんだ。
「それはこっちのセリフだ。魔王のお前が子供番組に出てると聞いた時は度肝を抜かれたが今はめちゃくちゃハマり役で安心してるよ。だか忘れるな。俺とお前の決着はまだついてない」
「当たり前だ。我とてやられっぱなしは性に合わんからな。少しはやり返さなきゃ気が済まん」
勇者の額に軽くデコピンする。
「っ、何のつもりだ」
「気にするでない。ちょっとした宣戦布告と哀悼の意を込めただけだ」
「は?」
「同じ世界のよしみとして最初に忠告はしたからな。……まぁ、ゆっくりと楽しんでけ。ゆっくりとな」
魔王は不敵な笑みを浮かべながらこの場を後にした。
「ったく魔王め。なんなんだ意味のわからないことを。せっかくのデートを邪魔しやがって」
「ねぇねぇ、見るなら見るで早く席着こうよ〜。私立ってるの疲れた〜〜」
「そうだな、行こっか!」
ニヤニヤデレデレしながら会場に向かう勇者達。
「…随分楽しそうね?」
「そりゃ楽しいに決まってるだろ〜!!……え、」
背後から女性の声が聞こえて思わず返してしまったがなんだか違和感が残る。
絶対に聞こえない筈の聴き覚えのある声がすぐ側から聞こえる。
「へぇーー、それは良かったわねーーーー」
声色こそ優しいが完全にキレてるのが直ぐに分かる。
「まさか……」
今から起こる全てが夢であることを祈りながら恐る恐る後ろを振り返る。
「久しぶりね。ダーリン」
「えぇぇ、エレン!!ど、どうしてここに……!!」
そこには笑顔でキレるエレンの姿があった。
「あら、来ちゃ悪かったかしら?」
「いやそんな事ないけど。でもどうやってこの世界に……」
「私を誰だと思ってんの。私は泣く子も黙る大魔法使いよ!!世界を跨ぐ魔法が無いなら作ればいい。それだけの話よ」
「さ、流石はエレン!俺が認めた大魔法使いだ!!」
とにかく媚びへつらいエレンのご機嫌を取ろうとる勇者。
「褒めてくれるのねありがとう。でもせっかく苦労してこの世界に来たっていうのに、いや、来てあげたっていうのにこの仕打ちは一体なんなのかしら〜」
笑顔でキレる人間程怖いものは無い。それを身を持って思い知る勇者。
「そ、それはだなー」
「ねぇ、このコスプレおばさんダーリンの知り合い?」
そしてギャルの辞書に空気を読むという文字はないらしい。
「おばさん?……随分口の悪い言葉が達者なゴブリンがいたものね〜」
「は、ゴブリン?おばさんそれ私のこと言ってるわけ?」
「ええ。アナタ以外に他にゴブリンがいるわけ?」
「意味分かんないんだけど〜。でもしょうがないよね。いい歳こいてこんなコスプレしてるおばさんのの気持ちが若い私に分かるわけないんだから!」
「はぁ?……あんま生意気な事ばっか言ってると爆発させるわよ」
エレンはすぐさま手に持っていた杖を女に向けると魔法を発動しようとする。
「ちょ、ちょっと待った!!エレン落ち着け!君もだ!少しは黙ってくれ」
「「アンタは黙ってて!!」」
「ハイ……」
気の合わない筈の2人でもこういう時に限ってバッチリと気が合うんだから女ってのは恐ろしい。
「もういい!私帰る!!」
「え、ちょっと待って」
「離せよ、変態!!」
「!……」
帰ろうとする女を慌てて止めようとするが逆に女は勇者に張り手をお見舞いするとそのまま帰ってしまう。
「さあ、私達も帰るわよ」
「え、でもこの世界には魔王が」
「流石は勇者ね。でもこの世界の心配する前に自分の心配をしたらどう?」
「……」
そしてこの先に自らの身に起きるであろう恐怖を想像出来ぬまま勇者はエレンに連行されて行った。
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