第53話 いてもたってもいられない

「諦め切れるか……ここで諦めて何が魔王だ……。まだ別れも済んでないのだ。捨て台詞も吐かずに散るなどあっていいはずがない。魔王なら…諦めてなるものかぁぁ!!」


 子供達の想いに涙を拭い魔王は全力で走り出した。


 魔王が見た箱の中身それは……


「コレは……手紙?いや、ファンレターか!」


 段ボールギチギチに詰まっていたのは番組宛に届いていた大量のファンレターだった。 


「でもなんでこんなものが……」


 魔王は気になって目の前にあった手紙を一枚取る。


「どうせ捨てるのだ。誰宛か知らんが1枚くらい見たって別にいいだろ。まぁどうせ奈緒美か優菜に向けての手紙だろうな。それか今頃になって届いた神道の熱烈なファンからか?それなら間違いなくゴミだが。どれどれ……」


 封を開けて中身を取り出すと、紙一面にぐちゃぐちゃに描かれた落書きのような絵が一枚だけ入っていた。


「なんだコレは!?……イタズラか?それにしては随分短絡的だし意味もわからん。ん……?」


 見れば見るほど絵の内容はピンとこないが、絵の周りに殴り書きのように雑に書かれた拙い文字を見つけた。


「まお…う、さま……」


 書かれた文字は形を留めていないものも多かったが少しずつ解読していく。


「…だいす、きか。あとこの数字の1みたいなやつは多分ビックリマーク。…それを繋げて読むと<まおうさまだいすき>。なるほどやはり我宛てか。って、ええ!?」


 まさかまさかの自分宛ての手紙だった事が分かり驚愕する。


 告白!?いや、そういう意味じゃないのは分かってる。だけどこんな真っ正面に大好きって言われたのは人生初めてだ。

 奈緒美にも好きとしか言われてないからな。


「じゃあ、このぐちゃぐちゃに書かれた絵はまさか我なのか!確かにそう見れば見えないこともないか……?」


 魔王は更に手紙を手に取るとどんどんと封を開けていく。


「コレも。コレもだ……」


 開ければ開けるほど出てくるのは魔王を描いてあるであろうイラストや魔王に向けてのメッセージばかりだたった。

 他の出演者がこれを見たら嫉妬してもおかしくない程面白いくらい魔王宛ての手紙しか入っていなかったのだ。


「コレはまさか俗に言う……モテ期ってやつか!?」


 分かってる。


 そうじゃないのは頭で分かってる。

 だけどそうでも思わなきゃ覚悟が鈍ってしまいそうで。

 見れば見るほど手紙に書かれた内容に心を奪われていく。

 絵だって上手くないし文字だってギリギリ読める程度。書いてある内容だって、


「まおうさまだーーいすき!!やめないでっ」とか


「ぼくはまおうさまみたいになりたいです」とか


「またいっしょにあそびたい」なんていう誰でも書けそうな感想ばかり。まともに読める手紙なんか一枚もない。

 これはゴミだ。間違いない。

 それなのに今まで貰った物の中で1番嬉しいって思ってるのは何故だろう。

 頭に浮かぶのは見知らぬ子供達の喜ぶ顔だけ。

 その気持ちを否定すればするほど涙が溢れてくる。


「なぜ此奴らはこんなにも我を求めるのだ……」


 我は魔王だぞ。魔王を何故求める。

 こんな気持ち否定しなきゃいけない。否定しなきゃ元の世界には帰れない。勇者とだって決着をつけられない。

 魔王の使命として天秤に掛ける程でもない。

 それなのにどうしてこんなに。


「無理だな……」


 やっぱりそうか。こうなることは分かってた。迷ってるってことは既に答えは出てるようなものなんだから。


「辞めれるわけないよな……こんな所で辞めていいわけがない!!」


 そう思った時にはもう無我夢中で勇者の元へと走り出していた。



 そして物語は冒頭に戻る。


「後悔してももう遅い。腹を括れ。今の我は魔王であり魔王じゃない」


 必死な形相で走る魔王を見かけた子供達が思わず声援を飛ばす。


「あ、まおうだ!!」

「がんばってーー!!」


 その声援が改めて魔王に覚悟を決めさせた。


「上等だ。前代未聞、子供達にとって誇れる大魔王になってやるわ!!」


 国民達に愛され、全ての期待を一心に背負って我に戦いを挑んだかつての勇者のように。


 勇者ならば我がやるべき事は1つしかない。バラバラになった仲間を集める。冒険の始まりだ!!

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