第50話 嫌味な同期の大芝居

「…………」

「どうしてこうもお前は俺が来るたびに落ち込んでんだよ。それを見てたらこっちまで嫌な気分になっちまう」


 スタッフルームで下を向いたまま塞ぎ込む霧島を揶揄いにやってきた同期のプロデューサー辻。


「だったら見なきゃいいでしょ。ほっといて……」

「悪あがきも無駄に終わって、番組も終わり、スタッフ達からも見限られて逃げられた。本当散々な結果に終わったよな」


「しょうがないでしょ。私、運も才能も人望もアンタと違ってないのよ……」

「そうだな」


「認めんな」


 こちらを見ずに缶コーヒーの空き缶を辻にぶつける。


「おい、俺に八つ当たりするなよ!」

「悪かったわね。こっちはアンタと違って何もないから何も分からないのよ」


 悪態つく辻に嫌味で開き直る霧島。


「かもな。だけどお前は俺に作れない番組が作れる」

「は?」


「上の人間に好かれて視聴率取れる番組を作るだけがやり手のプロデューサーの仕事じゃないってことだ」

「アンタが言うと一々鼻につくのよ…」


「悪かったな。鼻につくやり手プロデューサーで」


 するとようやく下を向いたままだった霧島が顔を上げる。


「ようやくこっち見たな。…酷い顔だ。やっぱ見てらんねぇよ」


 暫く寝ていないのか霧島の目はくまだらけで肌も荒れていた。


「相変わらずアンタは口が減らないわね。ちょっとは乙女の気持ちを考えなさいよ」

「乙女ってそんな年齢かよ。俺と同い同士だろうが」


「そんなんだからいつまで経っても奥さんどころか彼女すらできないのよ。ちょっとは危機感持ったらどう?」

「だからどの口が言ってんだよ。お前も俺と一緒だろう」


「残念でした。私結婚してるし」

「はあぁ!?」


 これ見よがしに左手薬指で輝きを放っている指輪を自慢げに見せる。


「おまっ、い、いつの間に……」

「アンタが1番忙しくてこっちに顔も見せなかった頃にこっそりとね。これでもまだ新婚よ」


「マジかよ……まさかお前が俺より先に結婚するなんてな。裏切られた気分だ…」

「ご愁傷様」


 言葉とは裏腹に笑顔で答える霧島。


「…もういい。見たいもんは見れたからな」


 その様子を見た辻も何故か満足気に部屋を後にしようとする。


「ちょっと何しにきたわけ?」

「別に……ん?」


 机の上に意味深に重ねられた段ボールが目に止まり足を止める。


「なぁ、これなんなんだ?」

「ああこれ?。プレゼント…。本当は渡さなきゃいけなかったんだけど渡すタイミング見失っちゃってさ。もうきっとそんなタイミングも来ないだろうし、かと言って内容も内容だから捨てるわけにも行かなくてね……」


 墓の中身をチラッと見て全てを察した辻はニヤリと笑う。


「どうしたの?」

「じゃあ、御祝儀代わりに捨てられないお前に変わって俺が捨ててやるよ」


 複数重ねられた段ボールを器用に持ち上げるとそのまま部屋を出ていく。


「あ、ちょっと……!!どいうつもりよアイツは……」

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