第43話 魔王らしく救ってやる
結婚式当日。
式場に集められた多くの参列者達。
参列者達の多くは新郎側の関係者が多く、警備会社に勤める人とは思えないほどガタイもよく強面な人が多数目立っていた。
その圧倒的な空気感に押され席の隅っこで萎縮する間宮達。
「なぁ、会場ここで合ってるよな?……」
「ええ。その筈ですよ…」
自信なさげに答える青柳。
「こんな事言うのは良くないのかもしれないが、とてもカタギの人は思えないぞ」
周りにいる男達の姿を見てビビり散らかす間宮。
「堂々としてれば大丈夫ですよ。仮にカタギじゃなくても私達カタギの人間にちょっかいを出してるわけがありません!」
今度は分かった口調で堂々と答えてみせる青柳。
「まぁ、言われてみればそうか」
「でもそれはこっちが手を出さなかったらの話です。もし私達が何かやらかしでもしたら……」
間宮の周りにいた全員の背筋がゾッと凍る。
「何騒いでんのよアンタ達。もうすぐ始まるわよ」
コソコソと騒いでいた間宮達を見かねて霧島がやって来る。
「ス、スミマセン。ちょっと俺たちこうう場所が久々で、雰囲気に呑まれちゃって」
「そ。ならいいけど。……あれ、そういえばアイツはどこにいんのよ?」
「え、」
霧島に言われ思い出したように魔王の姿を探すが近くにその姿は見当たらない。
「そういやいませんね。こんな大事な時にあのバカどこ行ったんだ」
「言われてみれば確かに今日見かけてないかも」
「は!?それ本当……?」
式開始直前というのに一向に魔王は現れる気配がない。
「アイツ何してんのよ!もしかして寝坊!?」
霧島はあからさまにイライラしだす。
「でも今日に限っては逆に良かったかもな…」
間宮は小声で青柳に話す。
「なんでです?」
「俺達の中で何か問題を起こすとしたらアイツしかいないだろ」
「ああ、なるほど……」
間宮の言葉に何かを察する青柳。
「どうせならこの際最後まで来てくれない事を願いたいが」
「だからこそ無理な気がしますね……」
「な。大事にならない事を願うしかない」
「ええ」
天に向かって手を合わせる間宮達。
鐘の音が聞こえると新婦の入場が始まった。
全員が暖かい拍手で新婦達を祝うと新郎の横に。
「新郎。あなたはここにいる奈緒美を、病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
凛とした表情で神父の問いかけに答える。
「新婦。あなたは、病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も夫として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
続くように奈緒美は答えるがそこに笑顔はなかった。
「それでは指輪の交換を」
新郎が新婦の指に指輪を通す。そして新婦も新郎の指に指輪を通そうとした瞬間、
バリバリバリッ!!!
突然近くに雷が落ちて大きな音が聞こえた。
今日の天気は曇り一つない快晴。空気が読めないとしかいいようのない自然現象に周囲もざわつき始める。
「ゴホン……」
神父の咳払いが再び周囲の視線を2人に集めさせ式を続ける。
「では誓いのキスを」
見守る全員がその瞬間を見逃がすものかとカメラを向ける。
新郎は少し緊張しながら徐々に新婦の元へ唇を近づけていく。
そして唇と唇が重なろうとした時、
「待った!!!」
怒鳴りつけるような男の声が会場に響き渡る。
「魔王である我の許可も得ず誓いなど笑わせてくれる!!」
扉が勢いよくこじ開けられる。そこには番組衣装を身に纏い堂々と仁王立ちする魔王の姿があった。
「やっぱ来やがった。しかもよりにもよってこのタイミングかよ……」
「でも面白くなりそうですよ…いけいけーー」
騒然とする場の空気にも呑まれず小声で勝手に楽しみはじめる間宮と青柳。
「噂には聞いていたから結婚とはいいものらしいな」
式場の警備員や観客達が魔王を取り押さえようとするが、目にもくれず堂々とバージンロードを歩いて行く。
「なんなんだお前は!!」
奈緒美の前に立つ新郎。
「邪魔だ。頭が高い、立場を弁えろ」
「!!……」
魔王が指を鳴らすと、まるで新郎の周りだけ重力が重くなったかのように体勢が低くなり跪く。
「悔しかったら立ち上がってみるがいい。我の前に立つならそのくらいはしてもらわなければ困る」
「……何しにきたの」
唖然としながら魔王の様子を見守る奈緒美。
「魔王が花嫁にすること言ったら決まってる。お前を攫いにきた」
「え!……」
「なっ…!!(アイツ、何考えてんのよ。これじゃ番組が…。でも、奈緒美の顔笑ってる……?)」
それを見ていた霧島も思わず声を抑えきれなかった。
「やっぱりそうきたか。嫌な予感的中だな」
「ドラマみたい!!でもあの2人いつの間にそんな仲に?」
数百人いる観衆の中で未だにこの状況を楽しんで勝手に盛り上がっている間宮達。
「……それ本気?意味分かってる?」
「バカにするな。じゃなきゃこんな登場するわけなかろうが」
魔王はそっと手を差しだす。
「ふふっ。困った魔王様だこと。いいわ、なら黙って攫われてあげる」
新婦は笑顔で魔王の手を握る。
「奈緒美さん!?……」
新婦がとったまさかの行動に戸惑う新郎。
「そういうことだ、新郎よ。文句があるなら取り返しに来い。この魔王相手に敵うと思うならな。ハハハハハ!!」
不気味に高笑う魔王。そんな魔王の様子をじっと笑顔で見守る新婦。
「さぁ行くぞ。さらばだ、哀れな愚民どもよ!!ガハハハ!!」
魔王は新婦の手を引きながら式場を後にする。
「間宮さん」
「ん?」
「こういう展開ってよくドラマとかでもあるじゃないですか〜」
「そうだな」
興味なさげにテンポよく青柳の質問に答えていく間宮。
「でもドラマでよく描かれるのは攫っていた側が多いじゃないですか。だからそっちはなんとなくこの後の展開も予想できるんですけどね」
「なんだよ」
「いやね、攫われた側ってこの後どうするのかな〜って。イメージ浮かびます?」
「そんなの決まってるだろ。この後ここの空気は地獄のような空気で鎮まりかえり様々な人に哀れみの目で見られた挙げ句、本来笑顔で払う筈だった費用をなんともいえない顔で払うことになるんだろうさ」
「それは最悪ですね……」
「だろ?でも、もう一つあるとしたら、」
魔王がいなくなったことで重力の縛りから解放された新郎は突然様子が一変しキレる。
「…テメェら!!!聞いてたな。聞いてたよな!!」
「押忍!!」
新郎側の客達が全員威勢よく立ち上がる。
「絶対にアイツを生きて返すな。生死は問わない。必ずここに連れて来い!!」
「押忍!!」
「魔王とかデタラメほざくあのバカを地獄に叩き落として来い。人の女奪ったこと後悔させてやれ。…行けーーーー!!」
号令と同時に一斉に駆け出して行くILSOKの社員達。
その様子はまるでヤクザがカチコミをかけに行くようしか見えなかった。
「こうなる」
新婦側の客達はその様子を見て完全に引いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます