まおうさまちょっとまったぁ!!!

第38話 デラックスモテ期

「おい魔王。ちょっといいか」

「なんだ勇者よ。今、いいところなのだ。話しかけるな」


 魔王は目の前に聳える5段に重なったホットケーキの上に盛大にメープルシロップをかける。

 真ん中からナイフを一気に刺しこみ半分に切り分けると、大きな口を開け一口で切り分けた半分を一度に頬張る。

 口の中に広がるバターの塩味とシロップの香り高い甘さが魔王の笑みを溢れさせる。


「…美味そうに食べるのはいいがもう少し落ち着いて食べたらどうなんだ。ケーキは逃げないぞ」

「別に良いではないか。食べ物くらい好きに食べさせろ」

「それが自分の金だったら文句も言わないさ。俺の金だから気に食わないんだ。大体なんで俺がお前とカフェでお茶しなきゃならないんだよ」


 文句を言いながらも、勇者はコーヒー片手にケーキちびちびと摘む。


「細かいことは気にするな。仲間ではないが今は敵でもない。同業者同士お茶をして何が悪い?それにお前の方が我より圧倒的に稼いでるのだから奢るのは当たり前だろう」

「確かに俺はお前より稼いでる。なんてたって俺は国民的スターだからな」


「自分で言うのか。我はお前のそういうところが嫌いだよ」

「お前が言うな。それに俺のことが嫌なら頼んであるデラックスパフェ、別にキャンセルしてもいいんだぞ。俺は余計な金を支払わずに済むんだからな」


 くっ……。勇者のくせにパフェを人質に取るなど卑怯な真似をしおって。


「待て。早まるな。それとこれとは別だ」

「何が別なんだよ」

「勇者としてお前の事は大っ嫌いだが、俳優で国民的スターとしては大好きな先輩だ。……頼む。キャンセルしないで。ずっとこの店のパフェを食べてみたかったのだ!」


 魔王は必死な様子で勇者に頼み込む。


「フッ……。その顔が見たかったんだ」

「なんだと、」


「キャンセルなんてするかよ。このタイミングでそんなことしたら迷惑だろ。俺はお前が苦しむ顔を見るのは好きだが、関係ない人が悲しむ姿は見たくない」

「やっぱり嫌いだ……」


 この性悪勇者めが。どっちが魔王か分かったもんじゃない。

 不貞腐れながら残りのパンケーキを平らげる。


「ちょっといい!?」

「ん?」


 背後から声をかけられる振り返るとそこにいたのは尋常じゃない様子で慌てている槇乃だった。


「どうしたそんな慌てて。まさかお前もこの店のパンケーキでも食べに来たのか?」

「違うわよ!」


「じゃあパフェか?」

「生憎私は甘い物が苦手なのよ。ってそうじゃない。私と付き合って!」


「は!?」


 いきなり告白!?こんな出来事長い生涯でそんなの生まれて初めてだ。

 今まで噂でしか聞いたことがなかったが、まさかそれがこんなタイミングで本当に訪れるとは。

 だが何かおかしな気もする。


「いいから来て!!」

「っ、待て。我にも心の準備というものが。それにもうすぐ頼んでいたデラックスパフェが来るはずなんだ」

「いいから!!」


 槇乃は我の手を無理矢理引っ張って行く。


「お待たせしました。こちらデラックスパフェでございます」


 すると案の定我が席を離れた瞬間お目当てのパフェが運ばれてきた。


「ああ、我のパフェが!」

「そんなのいいから早く!!」


 抵抗する我の努力も虚しくどんどんとパフェから遠ざかっていく。


「おいっ、どうすんだよこのパフェ!」

「っ、すぐに戻る!!だから絶対に食べるなよ。絶対だぞーー」


 我は叫びと共に遠くにある槇乃がいた席へと連れて行かれた。


「食べるなって言われてもなーー……」


 パフェの上に乗せられた巨大アイスを目にすると、勇者はニヤリと笑った。



 我は半ば強引に槇乃がいた席へ連れてこられると目の前には真面目そうな風貌の知らない男が座っていた。


「……誰だ此奴は」

「今は何も言わずとにかく私に話を合わせてくれればいいから」


 槇乃は我の疑問に小声で指示をする。

 色々と言いたいことはあるが今は我慢だ。ここでごねればごねるほどパフェから遠ざかってしまうからな。

 そういえばさっきの「付き合って」はこれに付き合えってことだったようだな。

 浮かれなくて正解だったが、ちょっとはもしやと期待してた自分が恥ずかしい。

 少々ショックを受けながら渋々我は首を縦に振った。


「あの、奈緒美さん。この方は?……」


 魔王を不審な目で見ながら男は尋ねた。


「ご紹介致します。この方は摩戒魔央さんと言いまして私の同業者ですわ」

「同業者、ですか……」

「ええ」


 現場では見たことないほど槇乃の清楚な格好と丁寧な言葉遣いに戸惑いながらも言われた通り我は話を合わせる。


「そして私の彼氏です」

「!?…………」

「ええ。。。……は!?」


 ちょっと待て。思わず聞き流すところだったが今なんと言った。

 我を指差し彼氏と言ったのは我の幻聴ではないだろうな。


「な、奈緒美さん。本当にこの方とお付き合いなされてるのですか?」


 見知らぬ男よ男いい質問だ。我もその答えが知りたい。


「ええ。結婚を前提にお付き合いさせていただいておりますわ」

「!……」

「!!(なんだとっ!!)」


 付き合ったこともない、経験もない我がいきなり結婚だと……話が、話が早すぎる!!

 色々と手順を飛ばし過ぎじゃないか!?いいのかこれで。

 我が知らないだけで恋愛ってそういうものなのかーー!?


 ダメだ、余りにもこの手の事に免疫が無さ過ぎて頭が回らん。

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