まおうさまとせいしゅん!!!
第28話 高飛車な天狗勇者
「師匠が死んだ!?…」
勇者として来るべき日に備え鍛錬を積んでいた俺の耳に聞こえてくる突然の訃報。
余りにも突然過ぎて俺は仲間にショックを隠しきれなかった。
「……誰だ、」
「え、」
「誰が師匠を殺したんだ!!教えろ」
俺は仲間の胸元を掴みかかり問いただす。
こんなのただの八つ当たりだ。何も出来なかった自分が恥ずかしくてどうしようもなくて、いてもたってもいられなかった。
「落ち着いて」
「誰だ、誰だ、誰なんだ!?」
「いいから一旦落ち着きなさい!…その癖直さなきゃとれる仇も取れないわよ」
「……っ」
俺の仲間であり幼馴染のエレンの一言が俺を正気に戻してくれた。
「ごめん……俺、」
「謝らないで。気持ちは私も一緒だから」
「エレン…ありがとう」
「ううん」
エレンの優しさが怒りで暴走しようとしていた俺の心を宥めてくれる。
「……師匠はアイツに殺されたのか?」
「多分ね。あの人を殺せる力を持った奴なんて私は2人しか知らないもの。1人は弟子で勇者の力を持ったアナタ」
「俺なんかまだまだだ……」
「謙遜しないで。今はそうでもいずれアナタは師匠を越える。それは間違いない事実なんだから。…で、もう1人は」
「魔王……」
勇者は拳を握り締める。
「うん。この世界のためにアナタが倒すべき相手で仇をとらなきゃいけない存在」
「…俺は絶対に魔王を倒す。師匠の想いと師匠が託してくれたこの剣に誓って!!」
「私も忘れないで。アナタは1人じゃない」
「エレン」
勇者はエレンに抱きつき押し倒した。
魔王という倒すべき相手、そして仲間の存在を再確認した最後の一夜となった。
そして現在。
「この剣を見ても思い出せないとは言わせないぞ」
慣れた手つきで剣を構える1人の男。それを見て驚く魔王の様子を見てニヤリと笑う勇者の姿を見て魔王は確信する。
「間違いない!あの男譲りの嫌味な笑いかた…。お前勇者だな?」
「……会いたかったぜ魔王!」
「どうして貴様がここにいる!?」
「それはこっちのセリフだよ魔王!!」
勢いよく切りかかってくる勇者。
「っ!!」
咄嗟に魔法で盾を作り防御するが、勇者が持つ剣の力により魔王は劣勢に立たされる。
「よくも俺を異世界に飛ばしてくれたな!魔王!」
「なんの話だ!」
「誤魔化すな。異世界なんて高度の魔法を使えるの魔族でもお前しかいないだろうが!!」
「買い被りすきだ」
「なに!?」
「別次元を跨げるほどの力など流石の我でも持ってはおらん。そもそもそんな力があるなら勇者のお前に我が負けるわけがなかろうが!!」
魔王は渾身の力で勇者を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた勇者だが軽い身のこなしで受け身を取る。
「勇者よ。ここにいるってことはお前も訳ありなのだろ。それなら少しは場をわきまえたらどうだ?」
「ふざけるな、そんなの気にしてられるか。俺は勇者だぞ!!」
「今のお前には勇者とは別の立場があるのではないか?」
飛びかかる勇者に動じず魔王は目の前にあったポスターを指差す。
「!!……」
急ブレーキがかかるように勇者は動きを止める。
「このポスターを見る限りどうやらお前はこの世界の国民的スターってやつらしいな。我は知らなかったが」
「…お前意外はみんな知ってる」
「流石は勇者様だな。どの世界でもお前は人気者だ。それならテレビ局で暴れるのはよした方がいいのではないのか?」
「っ……」
先程の騒ぎを聞きつけて少しずつ人の気配が近づいてきている。
こんなところ誰かに見られでもしたら大問題だ。
それに気づいたのか苦悶の表情を浮かべる勇者。
「立場があるのは我も一緒。この世界での我の居場所をようやく手に入れたばかりなんだ。ここまできて、また一からやり直しとなったなら遂には我も頭にきてこの世界を滅ぼそうとするかもしれんぞ?」
更に魔王はダメ押しをする。
「…魔王らしいな。勇者を脅すなんて」
「魔王だからな。…話は聞こう。戦いたいなら相手にもなってやる。だがそれをするのはここじゃない。勇者なら関係ない他人を巻き込むな」
「それをお前が言うのか…」
「勇者よ!!」
「……っ。分かった」
「それでこそ我が認めた相手だ」
勇者は渋々剣をしまう。
「魔王。…お前このあと暇か?」
「?」
「暇だと言え」
「ああ。今日の分の撮影は終わったからな。暇といえば暇だが……」
妙に口籠る魔王。
「なんだ何が言いたい。早くしろ」
「お前と付き合えば帰りに楽しみにしていたビールどころでは無くなってしまうと思ってな……」
まさかの一言に唖然とする勇者。
「なけなしの金で呑むビール。それ程この世界で幸せを感じる瞬間はないからな!」
「魔王がその程度の理由で勇者の誘いを断るな!」
「その程度とはなんだ!その程度とは!」
「そのくらい俺が奢ってやる。だから今日は俺に付き合え」
「なに!?……貴様、我をビールで懐柔しようとしているのか」
「いいから黙ってついて来い。俺に付き合う約束だろ。…焼き鳥もつけてやる」
「喜んで」
こうして魔王は勇者行きつけの居酒屋へ共に向かったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます