第15話 大いに笑え!歌って踊って魔王の大魔法

 進藤を待つファンの声でスタジオ中は大騒ぎ。その影響で泣き出す子供達もちらほら。

 だが側にいる大人達は全くそれを気に留めようともしていない。


「泣くな少年。我を見ろ。すれば世界の半分より良いものをくれてやる」


 魔王は泣き喚く少年の前にやってくる。


「……おじさんだれ?」

「我か?我は魔王だ」


「魔王?」

「ああ。ここではまおおにいさんと呼ばれている。要するにこの番組の新メンバーだ」


「しんめんばー?」


 魔王と話しているうちに最初は泣き喚いていた少年が徐々に興味を向け落ち着きを見せてくる。


「そうだ。まだお披露目前だがな」

「ならさ、おもしろいことやってよ!」


「面白いこと?」

「うん。まえのいつララみたいに」


「前のか。今のは面白くないのか?」

「おもしろくないよ。いまはママがみてるだけだもん」


「なるほどな」

「ねぇ、はやくおもしろいことやってよ」


 突如現れた魔王と名乗る男に興味津々の少年は前のめりで魔王を急かしていく。


「面白いことか……。我はさほどそういうのは得意ではないのだがな、このくらいしか出来んぞ?」


 すると魔王は左手で炎を出すと、直ぐに右手から水を出し消化してみせる。


「やはりダメか……だよなぁ。この程度の事で人を笑わすことなど」


 それを見た少年の顔は微動だにしなかった。


「すっごいねー!!」

「え?」


「おにいさんすごいよ!!どうやってやったの!?」


 驚きのあまり硬直していた少年は少しすると興奮しながら魔王を質問攻めにする。


「凄いのか?これが?」

「すごいよー!!ねぇ、どうやってやったの?もっかいみせて!?」


 おじさんからおにいさん呼びに変わった。どうやら子供は正直らしい。


「そうか?…そうか!よかろう、ならばよく見ておけ」


 想定外のリアクションが魔王に火をつけた。

 テンションが上がった魔王はさっきよりも大きな炎を出し一瞬で消化してみせる。


「どうだ?面白かろう?」

「わぁぁ、すっごーーい!!」


 少年の周りは辺り一面水浸しで、少年が来ていた服もびしょ濡れだがそんな事は2人とも全く気にしていない。



「なんだアレ……」

「へぇーー、まおおにいさんって手品なんか出来たんですね。器用だとは思ったけどここまでとは、中々やりますね」

「あれ本当に手品かよ……」


 驚きの余り呆れる間宮と想定外の出来事に感心する青柳。


「ってかこんなの流していいのかよ!?」

「え?」


「だってヤバいだろ!いきなり子供の前で炎出したと思ったら水ぶっかけてんだぞ!?しかもこれ生放送だし」

「……それもしかしてコンプラに引っかかるってやつですか?」


「ああ。俗にいう不適切ってやつだな。こりゃ後でクレーム対応大変だぞ……」

「私知らなーい」


「俺も知るかよ。でいいんですよね、霧島さん」

「ええ。勿論」



「おにいさんってマジシャンだったんだね!」

「マジシャン?いーや我は魔王だ」


 さっきまで泣いていたことが嘘のように笑顔を見せる少年。


「でもいまの手品でしょ?どうやってやったの?教えてよ!」

「だから今のは手品などでもマジシャンでもないわ」


「ならまほうつかいだね!」

「魔法使いか……」


 そういえば勇者の仲間にもそんな風に呼ばれていた女がいたな。

 今頃何をしておるのだろう?

 勇者の仲間は女だらけだったからなぁ、我を倒したと思い込み今頃仲間達と……。

 うらやましい……。

 いやそんなことはない!!断じてない!

 我は何を考えておるのだ。

 だが、今度勇者に会った時は思いっきり殴れそうだ。


「おにいさんもっとやってよ!!」


 少年の声で我に返る魔王。


「そうだなー。ならせっかくだ。もっと面白い事をやってやろう」

「ほんとに!?」


「ああ。我は魔王だからな嘘は吐かん」


 興味津々な少年。それをカメラは映し続ける。


「少年よ、空を飛びたいと思ったことはあるか?」

「うん。もちろん!でもむりだよ。にんげんはそらをとべないもん」 


「いや飛べるさ」

「うそだね」


「嘘じゃない。飛べるさ、我にそう望むならな」

「本当にとべるの?……」


 半信半疑な様子で魔王を見つめる少年。


「我を信じろ。そして望め」

「ぼくは…とんでみたーーい!!」


 キラキラと目を輝かせながら発した少年の声はここにいる誰よりもよりも大きくこだました。

 周囲の目がこちらに集中する。


「よくぞ言った」


 魔王は指を鳴らす。

 すると少年の体が宙に浮き始める。


「わっ、わぁぁーーー!?」


「そう固くなるな。落ちはせん。もっと自由に空を飛んでみろ。ま、ここは室内だがな」

「すっごーーい!!ぼくそらとんでる!!」


 そんなことは気にせず少年は鳥のように自由に羽ばたきスタジオ内を駆け巡る。



「なっ!!あの子本当に空飛んでるよ……どうなってんだあれ?」

「まおおにいさんすごいですね〜。いつの間にワイヤーなんて仕掛けたんでしょう?」


「あ、あれワイヤーか!」

「じゃなきゃあんなこと出来るわけないじゃないですか」


「それはそうだが……俺にはどうしてもアレがマジックとは思えないんだよなぁ」


 青柳は納得したが間宮は何か腑に落ちない。


 スタジオを一周すると魔王は少年を地面へ着地させる。


「どうだった?」

「おもしろかった。すごかったよ!!」


「そうか。いい顔だ」

「うん!だって面白いもん!!」


 笑顔で答える少年。


「ねぇ、ぼくもやって!!」

「わたしもおそらとびたい!」


 空飛ぶ様子を見ていた子供達が魔王にせがむ。 


「そうだな〜」


 魔王はチラッとモニター側にある時計を見る。


「(番組終了まで残り5分。このまま子供達を飛ばすのもいいがそれでは何か物足りないな。それに、)」


 さっきまで熱心に神道を待ち侘びていた大人達も子供達を気にし始めた。

 自分の子供が急に空を飛んだのだ。心配するのも無理はない。


「(それにこのままでは我が目立てない。どうせならここは子供番組らしく盛り上げるか!)後でいくらでも空へ飛ばしてやる。その前にステージに集まれ!」


 我は子供達を誘導してステージに集める。


「なにするのー?」

「台本通りやるのさ。さあ、共に歌って踊ろうぞ!ミュージックスタート!!」


「台本通りって、そんなのこっちは聞いてないぞ!」

「歌うってなに歌うんでしょうか!?」


「そうだよ!知らないんだからこっちは曲が流せねぇ。そもそも曲の用意も無いのにどうするつもりだ!?」

「え、間宮さん!」


 間宮のインカムにスタッフの声が響く。


「今度はなんだ!?」

「機材が勝手に動いてます!!」


「あぁ!?どういうことだ!」

「分かりません、でも勝手に」


 するとスタジオに本来かかるはずのない童謡が流れ始める。


「これって……」


 誰もが一度は聞いた事のある童謡が聞こえる。


 魔王はそれをアドリブだけで歌って踊ってみせる。


「あのバカ……」

「ある意味天才?」

「だからってなんであんなに踊りはキレキレなのに肝心の歌はめちゃくちゃ音痴なんだよー!!これじゃただの放送事故じゃねえか!!」


 あまりの酷さに耳を塞ぎながらキレる間宮。


「でも逆に凄くないですか?あれであんな堂々と歌えるなんて」

「感心してる場合か。これは流石にダメだろ。誰でもいいから早く止めろよー!」


 途中から他人任せだった間宮も魔王の歌声で目が覚めたのか仕事を全うしようとする。


「ダメよ。絶対に止めちゃダメ」


 再び霧島がそれを止める。


「どうしてですか!!このままじゃ本当に番組が!」

「番組として正しいことも出来ないなら終わった方がマシ。あれ見てよ」


 霧島は魔王達の側に笑顔で笑ってる子供達を指さす。


「笑ってる……この番組やっててあんな笑顔初めて見たかも」


 青柳が呟く。


「この番組は演者が主役の番組じゃない。子供達が主役の番組じゃなきゃいけないのよ!」

「でも……でもそれだけじゃ番組は続けられない。貴方もそれを分かってるでしょ」

「だとしても!私達にあんな風に楽しそうに笑ってる子供達を止める権利なんかないのよ」



「あはは!!変なの〜」

「おにいさんおもしろい!」


 堂々とする魔王の歌声に笑い転げる子供達。


「そんなに面白いか?」

「おもしろーーい!!」


「私もうたう!」

「ぼくも!!」


 魔王につられるように子供達も一緒に歌を合唱しはじめる。

 子供達の歌はお世辞にも上手いとは言えないし、各々バラバラに歌っていてリズムもめちゃくちゃだ。

 だけどここにいる全員が笑顔でとにかく楽しそうだった。


「いいぞ!!そうだ笑え!!この世に笑顔程良いものは存在しない。一度きりの生涯楽しまないでどうする!!我のようにもっと笑え!!!ワハハハハハッ!!」

「ワハハハハハ!!!」


 子供達の笑いは響き合いスタジオ中が笑いで埋め作られていた。

 最初は動揺していた大人達も今では楽しそうしている子供達を見て微笑んでいる。


「アハハハハハハ!!!」


 大人には怖い、不気味と言われた魔王の笑顔。そんな魔王の不適に微笑む笑顔は子供達にとって軽蔑の対象では無かったのだ。


 こうして我は魔王でありながら華々しくうたのおにいさんデビューを果たした。。

 そしてこの回は色々な意味で伝説となり大きな話題となった。

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