50 昨日の敵は今日の友
「
「むしろ会長の方こそ理由を仰るべきです。伝統を覆してまで
この千冬さんの反対意見は
「私は意味を失っている伝統に価値を見出せなくてね」
「では、楪とリアンになる事には価値があると?」
「少なくとも私が伝統に縛られないという証明にはなる……それに」
すると羽金先輩はあたしの方に向けて、ウィンクしてくる。
な、なにゆえっ……。
「私は楪君の事が好きだからね」
「んなっ……!?」
今後はあたしの方が思わず声を上げてしまう。
そんな面と向かって言われたら、誰だってこうなると言いますか……!
「な、何を言ってるんですか会長!?」
遅れて声を荒らげるのは千冬さんも同じだった。
「ん? 別に変な事は言っていないよ、私は知的好奇心を刺激してくれる人は全員好きだからね」
あ……好きってそういう。
あたしはどうしても百合ゲーという予備知識があるので、その発言を勘繰ってしまった。
「それとも何か勘違いするような意味に感じたのかな? だとしたら、君にこそ隠し持っている劣情があるんじゃないのかな?」
「な、何を言って……!」
「他人は自分を映す鏡、ってね」
「馬鹿な事を言わないでください……!」
おおう……あの千冬さんも羽金先輩にはたじたじだ。
でも羽金先輩は自分のエロさをもうちょっと自覚した方がいいですよ。
誰でも勘違いしちゃいますって。
「よく分からない伝統に縛られるより、親しくなりたい人と繋がるリアンこそが私はあるべき形だと思うのだけれど。涼風君は違うのかな?」
「そ、それは……」
返答に詰まってしまう千冬さん。
悔しいけれど羽金先輩の論理は、あたしや千冬さんよりも正しいように聞こえてしまう。
彼女の意見を覆すほどの明確な論理をあたし達は提示出来ていない。
「ま、という訳さ。異論がないのなら楪君は部屋の荷物を持ってきてね?」
「きょ、きょきょ、今日からですか……!?」
話がトントン拍子に決まりすぎている……!
「うん? 荷物が運ぶのが大変なら手伝うよ」
「いや、そうじゃなくてですね……!」
「ああ、勝手に私の部屋と決めてしまったけれど、楪くんの部屋でもいいのか。私がそちらに行こうか?」
「いやいやいや! あたしが行きます!」
羽金先輩を一年生の階に招待してしまったら、他の生徒が浮き足立って収集がつかなくなるだろう。
あたしとしてもそんな居たたまれない空間に身を置くのはツライ。
「うん、来てくれると言ってくれたね。じゃあ決まりだ」
「……あ」
自然な会話の流れであたしも受け入れてしまっていた。
「それじゃあ、放課後を楽しみにしているよ」
こうして、あたしは見事に羽金先輩のリアンとなり、フルリスの主人公ポジションを不動のものにするのだった。
……笑えない!
◇◇◇
「「「「……」」」」
放課後の教室。
誰が言うでもなく皆が集まってくれたのだが。
あたしの席を中心に囲むように座ってくれているけれど、そこには重い沈黙の空気が流れていた。
「……あの、どうして会長さんに
沈黙を破ったのは明璃ちゃん。
しかし、その言葉に力はなく未だその理由を掴めていない状況に虚ろな瞳をしている。
「……そんなの決まってる、そこの口だけ副会長のせい」
答えるために口を開いたのはルナ。
しかし、脱力した言葉に対してその内容はかなり刺々しかった。
「……え、私が悪いの?」
うなだれるように生気が失われている千冬さん。
心なしか髪もいつもの艶を失っていて、生気が感じられない。
そして普段なら怒って言い返しそうな場面なのに、静かに聞き返している所も怖い。
「スズカゼに任せたのに、結果は散々」
「じゃあ自分で物申して来たら?」
「……権力を前に、ルナは無力」
ルナにはそういった肩書きはないため、仮に同等の発言したとしても羽金先輩の意見が優先されるだろう。
それをよく分かっているからこそ、ルナは千冬さんに託したのだ。
「あ、あのさ皆……あたしの事を心配してくれるのは嬉しいけど、なんかテンション下がりすぎじゃない?」
明璃ちゃんの事を裏切り、千冬さんのプライドを傷つけ、ルナの気持ちを無視した事は分かっている。
どれもあたしが原因で罪悪感は感じている。
だが、それにしてもだ。
それにしたって皆あまりにお通夜すぎない……?
「……聞きました、皆さん?」
「ええ、聞いたわ。本当にこれを無自覚で言っているのだから気に障るわ」
「ユズキは天然な所あるけど……ちょっと残念」
あれ、三人同時に溜め息を吐かれているよっ!?
あ、あたしが何か分かっていない的な空気が流れているっ。
「ここまで来て、どうしたらこんな反応になるんですかねぇ……」
「この子は他人には敏感な癖に、自分には鈍感なのよ」
「だからルナの為に頑張ってくれたりする所が可愛いんだけどね」
え、あたしに対する皆の評価……。
本人の前で全部言うじゃん。
「柚稀ちゃんはわたしの為にも頑張ってくれましたよっ!」
「生徒会選挙を一緒に戦った私ほどではないでしょ」
「皆プライベートのユズキ知らないでしょ? ふふ、ルナには敵わない」
なんであたしの話で、あたしを無視して話進めてるのかな。
「小さい頃の柚稀ちゃんは皆さん知りませんよねっ!」
「知らないけど……私の為に身を粉にしてくれた楪も知らないでしょ?」
「それで言ったら、皆ユズキの体は見た事ないよね。ルナはあるよ」
なんか段々恥ずかしくなってきたんだけど。
「か、体……!? で、でも、柚稀ちゃん、わたしのこと“もう離さない”って言ってくれました! わたしとは心で繋がってるんです!」
「貴女はそんな一言で済むのね、楪の私への応援演説を聞いていなかったの? 全校生徒の前であんな熱烈なスピーチ……これ以上の繋がりがあるのかしら」
「でもそれ会長の演説でフォローされるまで空気酷かったよね。そういう意味ではユズキと一緒にお出掛けしてるルナが一番繋がりが深い」
……あたしとの思い出コーナー?
「繋がりの深さなら幼馴染のわたしが一番だと思いますっ!」
「それ負けヒロインって言うらしいわよ」
「そして会長に負けてるスズカゼ……うん、やっぱり最後に勝つのはルナかな」
明璃ちゃんは主人公なんだから、悪女の繋がりの深さをアピールしちゃダメなのよ。
千冬さんは分からないだろうけど、明璃ちゃんは主人公だからヒロインには該当しないのよ。
ルナはさっき権力には勝てない発言してたよね……?
なんだろう、あたしの話をしてくれているのに皆バラバラの主張を誇示しあっているようにも聞こえる。
「ねえ皆、あたしそろそろ準備あるから行くね……?」
名残惜しいけど、あたしは旅立たねばならない。
時間は有限なのだ。
「え、許しませんよ」「どうしてこの流れで行けると思ったのかしら」「うん、絶対ダメ」
「……ああ」
なーんで、こういう所だけは息ピッタリなのかなぁ?
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