大学生
杉 司浪
言葉足らず。
大学生になると、皆恋愛脳になる。あの子がかっこいいとかあの子と付き合ってたとか。いつの間にか仲良しグループがてぎて、いつの間にかグループの中で誰かが恋をして失恋をする。そしてグループはグループではなくなる。私も恋愛脳になっていたのかもしれない。
大学二年生の冬、私は恋をした。今思えば、何で彼は私と付き合ってくれたんだろう。ただ、彼のお陰で私の人生はちょっと変わった。
彼は別にイケメンではなかった。優しくて面白くて一緒にいて楽しかった。私達はバイト先で知り合った。彼は誰にでも好かれて、バイト先では友達が多かった。
いつの間にか仲良くなって、私の家でお酒を飲むのが彼と私の日課になっていた。いつも通りバイト先のおばさんの文句を言いながらお酒を飲んでいた。私はずっと不安に思っていたことを彼に尋ねた。
「ねぇ、私達の関係って何なのかな。」
彼は黙り込んだ。私は彼のことが好きだった。彼も同じだと思っていた。しかし、彼の顔を見ると友達だと思っていたのかもしれない。
「何が?」
やっと彼の口から言葉がでた。何がってどういうこと。
「私達、お互いに家に行って一緒に寝たりしてるじゃん。でも一線は越えてないからセフレじゃないでしょ。なら、何なのってこと。」
私は彼と付き合いたかった。彼は一度も私のことを好きだと言ったことはない。これは私の一か八かの賭けだった。
「ソフレなんじゃない?添い寝フレンド。」
彼の口からでた言葉は思いがけないものだった。そんな風に思っていたんだ。好きなのは私だけなのかな。でも、君が私を見つめるときの顔はいつも恋をしている顔だった。私は煙草を吸って冷静を装った。
「私達、付き合おうか。」
彼の顔は驚いていた。私からその言葉が出るとは思っていない顔だった。
「今の何が不満なの?僕達、このままでも楽しくやっていけるよ。」
ばか。私は彼の返事が気に食わなくて、彼に向かって煙草の煙を吹きかけた。
「私は君と名前のある関係になりたいんだよ。」
彼は私の告白が受け入れられないようだった。私はあまり男性経験も多くないし恋愛経験も少ない。私の告白は間違っていたのだろうか。
「ねぇ、私達付き合おうよ。私のこと好きでしょ?」
彼は少しだけ嬉しそうな顔をしていた。吸い追えた煙草の火を消して、彼の首にキスをした。彼は私を強く抱きしめて、私にキスをした。
彼は付き合った後も会いたいとも好きだとも言わず、私が連絡したときだけ会ってくれた。私はそれが寂しかった。好きなのは私だけだった、彼は私のことをそんなに好きじゃなかった、付き合いたかったのは私だけ。たまに彼が誘ってくれた日は、私がゼミで忙しい日ばかりで悔やんだ。一緒に寝る時、彼は壁側を向いてしまう。私は寂しくて彼の背中にすり寄った。彼はその時しか私の方を向いてくれなかった。彼と私の共通点は出身地が近いこと、好きな服屋さんが同じこと、センスの傾向が似ていること、お酒が好きなこと、たくさんあって一緒にいるのが楽しかった。
彼と恋人になってから一ヶ月が過ぎた頃、たまたま前の恋人に会ってしまった。前の恋人は私のことをまだ好きだとか私の好きなところとか私が好きだったものを全部覚えていた。彼は私のことを前の恋人以上に知っているのだろうか。彼から私の好きなもの、好きな色、趣味、特技、聞かれたことは何もなかった。やはり、彼は私のことを好きではない。私は胸が苦しくなって、彼に無理をさせていることに気づいて、すぐに連絡した。
「最寄り駅にきて。話したいことがあるの。」
私は彼との関係が終わってしまうこと、彼に付き合わせてしまったこと、色々な感情が混ざって泣いてしまった。改札前のベンチに座っていると、遠くからいつもの歩き方でいつものサンダルの彼が向かってきた。
「急にごめん。近くの公園に行こう。」
私達は無言で公園に行き、互いにブランコに座った。
「泣くなよ。話したいことあるんでしょ。」
私が泣いていると彼は背中を擦った。優しい中にどこか悲しみが混ざった声だった。
「昨日ね、好きだった人に会って、君じゃないなって思っちゃった。君の口から好きって言われたことない。可愛いしか言わない。私のことそんなに好きじゃなかったんでしょ。」
私は頭がぐちゃぐちゃで上手く言葉をまとめることができなかった。喉に大きな石が挟まっている様で、伝えたいこと、知ってほしいこと、大好きだってことが言えなかった。
「ごめん。」
彼の一言は私の罪悪感を倍増させた。謝りたいのは私の方だ。それから一時間程、私は泣き続けた。気がつくと、日が沈み夜がきていた。私は落ち着いて、彼との最後の準備をした。
「君の家に私の荷物は傘しかないよね。傘取りに帰ってから私の家に君の荷物取りにきて。」
彼はよく私の家に来てくれた。彼の荷物は私の家にたくさんあった。
「わかった。」
私たちは解散した。私は自分の家に帰る間、人生で一番泣いた。彼は私のことをどう思っていたのだろう。もっと話していれば、もっと彼を知っていれば、もっともっと好きって伝えていれば、そんなことばかりが込み上げた。
自分の家に着く頃には涙は渇れていた。彼の荷物は私の部屋の隅にまとめられていた。いつでも別れるようにしていたのかな。彼の荷物を好きな服屋さんの紙袋にいれた。
インターフォンが鳴り、私はドアを開けた。癖で鍵を閉めるのを忘れていたことに気づいた。
「私ね、いつでも君が来れるようにずっと鍵開けてたんだよ。でも、君は呼んだときしかきてくれなかった。」
彼は無言で傘を渡し、私は彼に荷物を渡した。彼の目は少し赤くて、泣いていた様にも見えた。何で泣いたのかな。
彼は去り際にぎこちない笑顔で言った。
「君のこと本当に大好きだったよ。」
ドアが閉まる瞬間、私は大粒の涙を流していた。遅いよ。どうしてさっきの公園で言ってくれなかったの。私も君が本当に大好きだよ。
大学生 杉 司浪 @sugisirou
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