球技大会も手を抜きたい

 女子が撮った写真が出回っているらしいことを、りょうは夕食時にせいから聞かされた。

「もっと愛想良く写ってよね」星は呆れていた。

「見たのか?」

「学園サイトのSNSでもアップされてるわよ」

「なんだかな」

「遼、ひそかに人気あるんだから」

 それはせいの方だとりょうは思ったが口には出さなかった。

「でもさすがにりょう本人に向かって写真撮らせてって言えないじゃない。渋谷しぶや君と一緒だから撮りやすかったのよ」

「ふうん……」

「渋谷君、こんなにかっこ良く写ってるのに、遼ったら眠そうな目」

「実際疲れてたからな」

「手を抜いてた癖に」

「見てたのか?」

「見なくてもわかるよ、それくらい」

「家事をしなくちゃいけないからな」

「それは言わないで、片付けはするから」星は畏まった。

 星も料理をすることがあるが遼の方が断然うまく、二人暮らしになってからは遼が料理担当になっていた。

「お前は、学校で忙しいからな。それくらいするさ」

 学年五指に入る美少女のためには裏方に徹する。それが遼の生き方だった。

「ところで球技大会はどうするの?」

 五月下旬に恒例の球技大会がある。今年はバスケットボールかフットサルで全員が最低でも三分の出場が義務づけられていた。

「形だけだろ。オレは裏方の進行係をするよ」

 実は審判だとか運営にたくさんの人手を必要としていた。そうした業務も含めての球技大会なのだ。

「私、フットサルにしようかな、メンバーが集まらないみたいで」

「良いんじゃね」

「遼もそうしなよ、対戦できたら良いね」

「三分しか出ないから、無理だろな」

「はあ……」星はため息をついた。

 球技大会はかつては熱心に行われた時期もあったようだが、最近は形だけの行事になっていた。その年の生徒会や球技大会委員会のやる気次第で活発になったりならなかったりする。

 多くのクラスが適当にお茶を濁すようだった。

 A組のホームルームでバスケットボールとフットサルのチーム分けがなされた。学級委員の高原が栗原を中心とする精鋭を集めてバスケットボールチームを組んだ。残りがフットサルチームになり、遼もその中に入れられた。

 御堂藤学園の球技大会は共学になってから男女混合で球技大会を行っている。男子生徒の比率が四割弱であったこともあり、試合には男子は同時に二名までしか出られなかった。しかもフットサルの場合男子のゴールは得点として認められず、バスケットボールでも一点にしかならないため男子はあくまでサポートの位置づけだ。いかにもこの学園の校風を表すルールだった。

「バスケットは優勝目指すみたいだよ。そのためにフットサルは予選リーグ敗退で良いみたい」小山内おさないが小声で言った。「平均的に運動能力で劣る中、A組の存在感を見せつけたい。だからバスケットに精鋭を集めたってところかな」

「それでいい。こっちはその方がありがたい」遼は言った。

香月かづき君はいつも冷めてるねえ」小山内は笑った。

 小山内もまたフットサルチーム。少なくとも男子のフットサルチームはやる気が無いメンバーばかりで.遼は安心した。

 ホームルームが終わった。のんびりと帰り支度をしていた遼のところへ高原たかはらが来た。「ほんとは香月君にもバスケットチームに入って欲しかったんだけどね、男子の人数調整もあってできなかった、ごめんね」

「いやオレはバスケットしたくないから、運動苦手だし」

「相変わらずの能力隠しだなあ」

「隠しているつもりはないよ。やる気がないのも含めての運動能力だろ」

「うは、身も蓋もない……」

 高原はわずかに残念そうな顔を見せたがすぐにいつもの笑顔になって「じゃあね」と去っていった。他にも声をかける生徒がいる。顔が広くて忙しい学級委員だと遼は思った。

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