天文学的確率をムダ遣いする男

無限の牢獄

とてつもなく暗い場所。

目が醒めると、私はそこに一人佇んでいた。

身体を動かすことはできるが、全身がまるで鎖で繋がれている感覚。

意識がまだ朦朧とはしているが、徐々に視界が戻ってくる。

相変わらず辺りは暗いのだが、うっすらと色を感じることができた。

その奥に、巨大なナニかが佇んでいる。

距離にして100メートルほどであろうか。

私の存在に気がついたのか、ソレからとてつもない強い視線を感じた。

（よう……客人とはまた珍しいな……かれこれ2万年ぶりかね？まあ、もう少し近寄れよ……）

頭の中へダイレクトにソレらしき者の声が反響してくる。

自分の意志に反して、足はソレに近づいていく。

前へ前へと歩むにつれて、声の主がかなり巨大な形（なり）をしているのがわかる。

数メートル手前まで歩んだところで、ソレの全貌が把握できてきた。

声の主が巨大なのではない。

玉座らしきモノがとてつもなく巨大なのだ。

おそらく500メートルはあろう玉座にソレは鎮座していた。

いや、玉座らしき模（シンボル）をしているバケモノであろうか。

更にいえば、声の主は鎮座ではなく両腕を鎖で繋がれており、下半身が玉座に取り込まれているように見えた。

腰ほどまでにある長く乱れた真紅のような燃える赤い髪の男。

全身にある無数の深い傷と、カルト宗教的な魔法陣のようなタトゥーがかなり特徴的だ。

彼のガタイはかなり良く、小さい頃によく読んだ絵本に出てきた狂暴な古の巨神（オベリスク）を彷彿とさせる。

（そうクサい顔すんなよ……この玉座（ヴィシュラヴァーナ）はそれこそバケモンみたいなモンだが、そんなに悪いヤツでもねえよ、あの神々（クソ）みてえなヤツらに比べりゃあな……）

ヴィシュラヴァーナ……あの玉座のような形をしたバケモノのことだろうか。

面を顰めたつもりはなかったのだが、つい顔に出てしまったのだ。

（オマエ、なんか違うな……いつも此処に連れて来られる奴らとは、匂いが違うぜ……）

いつも此処に連れて来られる？

自分以外にもこの場所に何者かがいるということか？

そういえば、此処はどこなのだろう？

（ああ、なんだオマエ……此処が、何も知らねえわからねえってツラだな……いいぜ、まあ折角なんだ……俺の昔話（サカナ）に付き合えよ……）

私の返答の有無を言わせず赤い髪の男は語り始める。

此処はオリュンポスの神々が創りし無限の牢獄（クロノ）

自由を奪われし者たちが神々に背き、未来永劫終わることのない大罪を償う……

かつての俺は、アポロンやらヘリオスなんて、まあご大層な太陽神（サンライザー）の肩書きで呼ばれたりもしていたがな……

無数ある名の中でも、そうだな……

もう気が遠くなるほどの過去、時の最果てで……

様々な時空（セカイ）を共に天翔（か）け抜けた仲間たち（あいつら）から……

偶然かそれとも因果か……

この無限の牢獄と同じく『クロノ』と呼ばれていたあの頃（じだい）よなあ……