夢の世界で
いちごあじ
1話
それは前触れなんてなく、突然感じた異変だった。何となく頭に違和感があるような。それだけのことだったが、今まで無かった違和感だったので「講義が終わってからでも病院に行くか」と思い、その日はそのまま過ごすことにした。
大学の講義が終わり、友人に先に帰ることを伝えた後、病院に向かう途中で立っていられないほどの頭痛に襲われた。
周りの人が駆け寄って声をかけてくれたが、それに対して返事をする余裕もなく、今まで感じたことのない痛みに俺、
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物心ついたばかりの幼い時、ふと自分の意識が鮮明になった瞬間があった。
どうやら別の世界に城間怜という前世と同じ名前で生を受けたようだと気づいたのは、一体なにがきっかけだっただろう。
今の世界は前の世界に対して貞操観念が逆転しているのと男性の出生・人口が少ない。
そのためか男性だけの特権というものが多く、横暴的や高圧的と形容される男性が多い。
それでも男性というだけで注目の的になり、モテる世界に最初は夢を見ていた。
だが、なぜか俺は致命的なほどに女性に好意を向けられることがなかった。理由はなんとなく分かってはいたが、それは受け入れたくないことだった。
考えることのできた理由は顔だ。この世界の女性は全員美しいや可愛いと言える人しかいない。男性が少なくなった影響なのかはわからないが、見る人すべてが綺麗だった。
男性はどうかというと、こちらもまた格好が良いと言える人しかいない。特権を与えられ、横暴だからと太っていることはないし、運動をしないから体が細すぎるということもない。どうしてあんな生活をしていて、こうも見た目を維持できるのか不思議でならない。
そして俺の場合はというと、前の世界からあまり見た目が変わっていないと言っていい。この世界の基準で評価するなら良くて下の上。いや、そもそも今世において下を見たことがないが。
自己肯定感が低くて自分を正しく評価していないということは決してない。俺からしてみれば自分は普通なのだ。だが、この世界では普通ではなかった。このことを受け入れるのは中々難しかった。
だからというべきか、なるべく他者に対して優しく接するようにした。前の世界の価値観を持っている自分からすれば、人に対して高圧的になることは出来ない。それならば顔ではなく内面を見てもらおうとした。
「こんな世界なんだ。誰か一人くらい、自分を意識してくれる人がいてくれたらそれでいい。」
街で困ってるいる人がいたら男女関係なく手を差し伸べて、ボランティアや地域の活動にも積極的に参加した。男性が学校にあまり行かない世界で、真面目に毎日授業を受けて単位を取得した。俺は社交的でも明るい人柄でも無いが、学校ではクラスメイトや周りの人に対して積極的に話しかけた。
それでもだめだった。女性の友人は幾らか出来たが、彼女たちはあくまでも友人だ。告白などされたことないし、そんな素ぶりすらなかった。
結局俺は他の男性のように熱い視線を向けられることも、たまに学校に来ていた男性アイドルのような間宮くんのように人だかりができることもなかった。
「よこしまな考えをずっと持っていた俺が悪い。また与えられた人生なんだ、真面目生きよう…。」
現実を見るようになってから数年、俺は前の世界と同じ大学生になろうとしていた。
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