2章 移ろう環境

第7話 バズ恐怖症

高校の一室。いつもの通りの日常──

と、いう訳には行かないらしい。


「あはは、超バズったね」


まだ朝も早く。葵はスマホをポチポチしながら画面を見せてくる。登録者4万人。つぶやいたーにあげられていた切り抜き動画は1000万再生。更に助けたのが登録者200万人の有名配信者。

これだけ話題になれば、高校でも誰かが発見するわけで、次の日学校に来た俺達は周りの有名人を見るような目を感じながら、居心地の悪そうに話していた。

しかし、これだけ話題になっても話かけてくる奴はほとんどいない。

奏斗は自分から話しかけるのは大の苦手だ。本当は佳奈に話しかける時だってめちゃくちゃ緊張していたのである。本人は本気を出せば話せると言っているが。

葵に関しては、人にベタベタされるのが嫌いなのである。中学時代、白髪青目で低身長という愛らしさから、学校の女子に毎休み時間追いかけ回されていたのだ。それ以来過度に人からベタベタされることが嫌になり、現在近づくなオーラをガンガン出しているのである。

ちなみに周りの人達は、


「あいつが話題の?」

「葵ちゃん可愛い…」

「リア充タヒね」

「奏斗くん良くみるとかっこいいかも…」「話しかけてみたいけど、近くに行くと寒気がするんだよな」

「さっき話しかけてた命知らずが塩対応で受け流されて凹んでたぞ…」


という感じで好き勝手言っている。

奏斗は割と五感が鋭いため、教室で誰が何を話しているか聞き分けることが出来る。果たして探索者としての能力なのか、はたまた陰の者としての能力なのか。そんな力があるからこそ、奏斗は聞こえてくる声に耳を塞ぎながらガクブルと震えていた。


「怖い、人間が怖い。昨日まで誰も俺に話しかけて来なかったのに、急に向けられる視線…死ぬ!ストレスで干からびる!」

「これは重症だね。奏斗はもうちょっと人と話した方が良いよ。その方がこれからの高校生活楽しいよ?」

「うるせー…話し相手なら葵がいるし、俺は満足してるし…」

「でもこれから毎日皆から視線を向けられるよ?大丈夫?死んじゃわない?」

「死ぬ」

「食い気味だね〜。ま、奏斗のことだしその内慣れるか。じゃあ今日からのこと話そうか。」

「慣れる気しね〜…てか今日も配信すんのか?昨日何人か配信者見た感じだと多い人でも週1とか月2とかだったぞ?」

「それは、メンタルを整える時間だね〜。探索者って命を賭けた職業じゃん?毎日そんなことしてたら普通の人は参っちゃうんだよね〜。でも、私らってそういう常識から割と逸脱してるじゃん?だから週4とかでも行けると思ったんだよね。」

「…確かに。俺達は命のやりとりなんて茶飯事だし、下層くらいなら余裕あるな。」

「でしょ。だからそれが出来れば強みとして売れると思うんだよね〜。但し、無理は禁物、無理して怪我したら本末転倒だし、配信は楽しくやるものだしね!」


葵の意見にもっともだと頷きながらチラチラ周りを見る。

(めちゃくちゃ見られてる…って、お?なんかざわざわしてる……ガタイ良いのが近づいて来てるな…目的は俺達…じゃないよな?)

ガタイの良い男と取り巻きの男女2人。皆揃ってガラの悪いヤンキーって感じだ。話しかけてくるなよと祈っていると…


「お前らが話題の奴らか?」

「えーっと、どちら様で何用でしょうか。」


案の定話しかけられた。お約束である。内心(あ、これ進◯ゼミでやったところだ!)とかふざけつつ、とりあえず下手に出てみる。

するととりあえず脅したかったのか、それとも心の内で考えていたことが漏れていたのか、ヤンキー君はドンッと机に手を叩きつけ


「てめぇらあんま調子乗ってんじゃねえぞ」


なんて使い古された脅し文句を吐いてきた。

どちら様?何用って聞いてるのに答えが調子乗るな。会話になってない。めんどくせーなんて内心考えつつ、絡んできた目的を探る。いや、何となく分かってるんだけどね?


「あの、俺達あなたに何かしましたか?」

「あ?何かしましたか?じゃねぇよ!お前らがバズってる件だよ!」

「それがあなたと何の関係が?」

「俺らも1年以上Dtuberやってるのに、ぼっと出のお前らに先越されてイライラしてんだよ!」

「はぁ…」


何を言っているのだろうか。完全に奴当たりだ。早くお帰りになって欲しい。


「で、結局内容はなんですか?怒ってることは分かりましたけどそれを俺達にどうして欲しいのか。まずはそこが無いと話しにならないんですけど。後そろそろ名乗って」

「あぁ?名前なんてどうでも良いこと気にすんなよ。で、内容だったか?俺達と勝負しろ。」

「勝負?俺達が殺しあうってことですか?」

「そうじゃねぇ、ダンジョンの宝箱からアイテムを集めてその合計金額を競う。平和的に行こうや。俺達の行き場のない怒りの奴当たりに付き合ってくれ」

「奴当たりって自覚はあったんですね。でもその勝負、俺達にメリットが無いように感じますが。」

「お前らが勝ったら俺がなんでも言うこと聞いてやるよ」

「いや要りませんけど…」


需要の無いヤンキー君のなんでも権。

やばい鳥肌が…とか辟易して葵の方を見ると、葵の様子がおかしい。うずうずしてる。


「葵?どうした?」

「あの〜。あなた達のチャンネル教えてもらっても良いですか?」

「あ?なんでそんなことしなきゃならねぇ」

「これって、つまりあなた達が言いたいことはコラボしたいってことですよね?じゃあ相手のことを知って、精査してから受けるのが普通じゃないですか?」


葵がまともなことを言っている。いつものふざけているが、ネット方面も実は頼りになるのだ。


「……確かにその通りだ。分かった。チャンネル名は【レジスタンス】登録者は6400人」

「ふむふむ…お、これかな?レジスタンス〜動画は〜って、え!!」

「葵、何か問題あったか?」

「いや、見てこれ。」

 

そう言って葵は画面を見せてくる、そこには…


「え、【ダンジョンで20匹倒す耐久】【ダンジョンの宝箱開けてみた】…めっちゃ普通〜」

「なんだぁ?文句あんのか?」

「いや……このラノベみたいな流れで迷惑系じゃないことあるんだって…」

「失礼だよな?俺馬鹿だからわかんねぇけど、もしかして喧嘩売られてるか?ぁ?」


まさかの一般配信探索者だったヤンキー君。見た目ヤンキー過ぎるがただの陽の者であった。なんで最初あんな絡み方してきたんだ?とか思うこともあるが、とりあえず…


「で、どうするんだ葵。俺はお前の決定に従うぞ?」

「う〜ん。実は昨日、佳奈さんからお詫びとお礼を兼ねてコラボしないかってDM来てたんだよねぇ〜…私はレジスタンスともコラボして良いと思ってるけど、とりあえずは佳奈さんが先になっちゃうかな?それでも大丈夫?」

「おぉ。コラボは速い奴順だからな。別に構わねぇ」

「えそこも譲歩出来るの!?まじでなんであんな絡み方してきたんだよ…名前も教えてくれないし…しかも後ろの二人は全然喋らないし…」

「あれはイライラしてたし緊張してたんだよ!後ろの二人が喋らないのは話しがややこしくなるからだっ!」


ヤンキー君が後ろの二人にもう良いぞと言うと、二人の内女の方が自己紹介を始めた。


「改めて。さっきはこいつがいきなり怒鳴っちゃってごめんなさい。私も内心ヒヤヒヤしてたかのよ。私は長谷川茜はせがわあかね。よろしくね?」

「俺は谷口淳也たにぐちじゅんや。趣味は寝ること!よろしく〜。」


茜はインナー赤の黒髪で赤い目。アニメキャラかよ!とツッコミたくなる見た目だ。淳也は金髪黒目。チャラ男という印象。なのに趣味は寝ること…ギャップ萌え狙ってる?

奏斗は急に自己紹介する流れに付いて行けないが気合いで返答する。


「あぁ、はい。よろしく。」

「よろしく〜!」


葵は何故か付いて行けてるらしい。

奏斗は疲れたように言う。


「で、あなたはなんて名前ですか?これまで3回くらい無視されましたけど、そろそろ名前教えてくれますよね?」

「いや俺は…」

「こいつは山葉玲夢やまばれむ。自分のガタイの良さと名前のミスマッチが割と悩みで名前を教えたがらないんだ。別にそんなことないと思うけどな、笑える〜!」

(玲夢…なるほど、俺から見たら別に合ってない訳じゃないと思うけどな…まあそこは本人しか分からない悩みがあるだろうし、俺が考えることじゃないか。)


玲夢はインナー黒の金髪…より黄色寄り。顔はびっくりするほどイケメン、でも傷が多い。

ちなみに勝手に名前を教えた淳也は思いっきりげんこつを喰らってた。自業自得だけどやり過ぎでは?


「まあとりあえず、俺達のことは知ってるかもしれないけど改めて。俺は瀬良奏斗。奏斗と呼んでくれ。こっちが浅月葵。呼び方は〜「葵様で!」却下。お前ほぼ初対面に様付けで呼ばせようとすんな。」

「えぇ〜…じゃあ葵でいいよ…」

「なんで不満そうなんだ…」


本気で言わせるつもりだったのだろうか。茜にクスクス笑われている。

割と会話に夢中だったなと奏斗は周りを見回す。いつのまにか俺達を見に来ていた人間は更に増えており、奏斗はまた恐怖で震えだした。


「あ、奏斗また発作出てる。いい加減慣れな〜。じゃあ3人とも、コラボは来週の土曜で大丈夫?今週は佳奈さんとコラボがあるから。」

「了解した。」

「てかあれ?これお前らが勝った場合何が報酬なんだ?」

「……じゃあ俺達のチャンネルの宣伝権ってことで。」

「じゃあ?勝負を挑んで来たのに何も考えて無かったのか?てか、そんな物でいいのか?俺達割と貴重な物持ってるぞ?」

「考えて無かった訳じゃねぇ、タイミング逃しただけだ。後そういうのはいらねぇ、自分で集めてこそだろ。」


こいつはわかってる。奏斗は勝手に同志判定しながら返す


「そういうことなら了解。じゃあ来週また」

「じゃあな、首洗って待ってろ」


玲夢達はそんなベタなセリフを吐きながら帰っていった。帰った瞬間奏斗にどっと疲れが押し寄せる。


「嵐みたいだったねぇ〜てか奏斗、いつのまにか敬語無くなってたね。」

「下手に出る必要も無いと思っただけだ。あぁ〜…どっと疲れた。授業は寝る。起こすなよ〜」

「怒られても私は知らないからね」


葵は授業の準備をしつつそう答える。

(知るか知るか!今日も配信あるんだから体力回復だ。戦略的休息だ!)

奏斗は頭の中でそう言い訳しながら眠りに落ちる。ちなみに授業始まる前から寝ていたため先生にしこたま怒られた。ひどい。



────────────────────

やあやあどうも。これ執筆時点でプロローグと1話が公開されて、既に10人くらい見てくれてるのが本当に嬉しいゆーれいです!


作品公開するのって怖いねぇ、Xでポストとかは簡単に出来るのに、いざ作品ってなると震えて奏斗君みたいになっちゃいます笑


ここから2章です!頑張ってノリと勢いで書いて行くので最後まで見て行って下さい!


それではまた

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