第2話 魔女の嘘
アタシ、
そしてアタシは、この魔女の血を絶やさないために子孫を作らなくちゃいけない。
ただ、一つ問題があって、魔女であるアタシと子供を作るためには、特別な体質を持った人じゃないといけない。その特別な体質を持った人は、かなりのレアで、そうそう居るもんじゃない。でも、アタシはラッキーなようで、産まれた時からその人は居た。
それが、幼馴染の
今、思い返してみても本当に仲が良かったと思う。あの日までは。
お母さん曰く、アタシは魔法の天才らしい。本来は何年も修行してやっと使える魔法も、一度見ただけで大抵のものは使えてしまう。そんなアタシを、お母さんもおばあちゃんも褒めてくれた。
だから、アタシは調子にのっていた。アタシは何でも出来る、すごい人何だと信じて疑わなかった。
小学校に上がって少し経った頃、アタシは珍しく魔法を失敗した。箒で空を飛ぶ魔法。魔女が一番初めに覚える基礎的な魔法だ。ただ、その時はちょっと調子が悪かった。軽く浮いた後に、魔力コントロールをミスって、アタシは箒から落ちてしまった。それだけじゃなく、使っていた箒も明後日の方向に飛んで行ってしまう始末だ。恥ずかし過ぎる大失敗。次からはこんな失敗をしないように、もっと修行をしようと意気込むところなんだけど、その時はちょっと違った。
総司君が見ていたのだ。総司君が見ている前で失敗したのは、その時が初めてだった。そんなアタシを見て総司君も驚いていた。でも、すぐに笑顔になってアタシ言った。
「姫乃ちゃんでも失敗するんだね」
多分、何も考えてない、純粋に思ったことを口にしただけの一言。それかアタシを気遣った言葉だったのかもしれない。
でも、その時のアタシには、刃物で切られたかのような鋭く痛い一言だった。
失敗したことによる、恥ずかしさや悔しさの感情。そしてなにより、総司君の前で失敗したという何とも表現出来ない感情がぐちゃぐちゃに混ざりあって、アタシは総司君にバカにされたと勘違いをしてしまった。
そしてアタシは、感情に任せた思ってもない言葉を総司君にぶつけた。
「うるさいっ! 総司君なんて大っ嫌い!」
これがまずかった。
この一言を言った瞬間、アタシは無意識に魔法を使ってしまった。いや、アタシの意思に反して、勝手に魔法が発動してしまったのだから暴走と言った方が正しい。
その魔法は、アタシの魔力が鎖のようなものに変化し、総司君の体に巻きついてきつく縛り上げた。そしてその鎖は、総司君の体の中に吸い込まれるように消えていったのだ。
何が起こったのか分からなかったアタシは、少しの間呆然と眺めていたが、すぐにはっとして総司君に駆け寄った。
「そ、総司君!? 大丈夫!?」
「……うるさい。触らないで」
「……え?」
「俺、お前のこと嫌い」
何を言われたのか分からなかった。
ただ、はっきりと覚えているのは、嫌いと言った総司君の顔はアタシの知っている優しい総司君ではなく、まるで汚物でも見ているような顔だった。
何も出来ずにいるアタシを置いて、総司君はどこかに行ってしまう。アタシはその後ろ姿を見ていることしか出来なかった。
辺りが暗くなった頃、ようやくアタシは家に帰った。どうやって、どこを通って帰ったのか今でも覚えてない。でも、顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いていたことだけは覚えている。
そんなアタシを見たお母さんは、慌ててアタシに事情を聞いた。多分、上手く説明は出来ていなかっただろう。それでもお母さんは、アタシの話を最後まで聞いてくれた。事情を何となく理解したお母さんは、すぐに総司君の家に向かって、原因を調べてくれた。
分かったことは、総司君にはある魔法がかかっていること。その魔法は、アタシのことを嫌いになる魔法だ。魔法の解除方法は不明。
お母さん曰く、その日のアタシは本当に調子が悪かったらしい。それに加えて、幼いがために感情のコントロールが上手く出来なくて、魔力を暴走させてしまい起きた事故らしい。
それを聞かされたアタシは大泣きした。だってアタシは総司君のことが好きだったから。でも、総司君はアタシのことを嫌いになってしまった。その現実が受け入れられなくて、アタシは大声で泣いた。
それから総司君は、アタシのことを避けるようになった。いつも一緒に居たのに一緒に居てくれなくなり、口も聞いてくれないし、目も合わさせてくれない。姫乃ちゃんとアタシのことを呼んでくれたのに、お前やおいに変わった。
月に一回、総司君の体に溜まった魔力を抜くために来る時も、仕方なくって感じで不機嫌な顔をしている。魔力を抜き終わると、一言も話すことなく帰って行ってしまう。アタシと総司君はそういう関係になってしまった。
悲しくて、悔しくて、どうしよもない気持ちでいっぱいだったが、これはアタシのせいなんだ。アタシが未熟だったから起きてしまったことだ。
総司君に呪いにも似た魔法をかけてしまった。だからアタシは、自分にも魔法をかけることにした。嘘の魔法だ。
総司君と仲良くしたい、一緒に居たい、笑い合いたい、そして総司君が好きだという気持ちを箱に入れて、蓋をして、鍵をかけて、心の奥底に封印する。
逆に、仲が悪く、距離を置いて、いがみ合って、総司君が嫌いになる。そういう嘘の魔法を自分にかけることにした。もちろん、そんな魔法はない。だから嘘。嘘の魔法なのだ。
呼び方も変えよう。嫌いなのに総司君はおかしいから。どうせだったら酷い呼び名がいい。最近はクソアマと呼ばれているから、それに近いやつにしよう。そうだ、ボケナスがいい。
「大嫌いだよ、クソアマ」
「アタシも大嫌いよ、ボケナス」
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大嫌いな幼馴染み魔女と許嫁になった 宮坂大和 @miyasakayamato
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