七十八話 気にしないで
「お兄ちゃんごめんなさい…」
「大丈夫だよ」
よしよしと
そもそも怪我なんぞ起こること、衣織ちゃんが気にすることではない。いやマジで。
そう思った俺は彼女の目を真っ直ぐに見た。
「衣織ちゃん、怪我なんてよくある事だよ。全然気にすることじゃない」
「でも、私が揺らしたから……」
「それこそ俺が止めれば良かったんだよ、衣織ちゃんのせいじゃないさ」
全然気にしてないし怒ってないし本当になんて事ないのでそれをちゃんと伝えるが、如何せん衣織ちゃんはとても良い子なのでついつい気にしてしまうみたいだ。
ちなみに傷はちゃんと処置を施してあるので大丈夫だ、小さい切り傷なのでね。
絆創膏を貼っとけばどうとでもなる。
「でもっでも!うぅ…ごめんなさい……」
「ふむ…」
多分これは気にするなといっても気にするヤツだな、良い子すぎて気にしてしまうのか……
それならしかたない、お互い様という事にしとくか。本意ではないがそろそろ衣織ちゃんには立ち直って貰わないとこっちまで凹んでしまう。
そう思い彼女にその旨を伝えるが中々元気にならない。なので俺は強行手段に出ることにした。
「ほい」
「あっ…」
立ち直らない彼女を抱えて俺の部屋に向かう。
その意図を察したのか顔を赤くしているが抵抗はしない。当然か。
ここらでいっちょ、分からせてやりますか!
「んん〜♪」
「可愛すぎ」
あれからまた身体を重ねた俺たちであるが、衣織ちゃんは俺の胸に顔をグリグリと押し付けながら嬉しそうに声を上げている。かわいっ!
立ち直ってくれた彼女に安心してその身体を抱き締めると、背中に手を回してくれる。
しばらく抱き締め合ったあとは改めて晩御飯の用意である。
といっても米は炊けたしあとは肉とかを焼くだけなので大したことは無い。
すぐに用意は終わりテーブルに着いた。
二人してご飯を食べ終えて皿を洗う。
衣織ちゃんにはテーブルを拭いてもらってるが、当然俺より早く手が空いて俺を待ってくれている。かわいい。
ほどなくして皿を洗い終えた俺は彼女をギュッと抱き締めた。
「じゃあね!お兄ちゃん!」
「おやすみ衣織ちゃん」
衣織ちゃんを家まで送った俺は彼女に手を振りながら家に帰る。
ちょっとしたハプニングはあったものの別れは笑顔だったので終わりよしだ。
次の日の朝、俺はいつも起こしに来る
もう目は覚めているので寝たフリだけどな。
俺の部屋の扉が開き、パタパタと足音が聞こえてくる。
「おはよぉー」
そう言いながら俺の布団に入ってきたのは栞…ではなく衣織ちゃんであった。
しかし彼女だけという訳ではなく、それとは別にもう一人が布団の上に覆いかぶさってくる。
もう一人といっても当然栞だが。
「おはよっ!こーすけ!」
「おはよう」
二人に向けて挨拶。ニコニコ顔の二人が良い目覚ましである。
俺の部屋から出て朝食の準備をする。いつもより一人分多いが大したことじゃない。
すぐに用意も終わりテーブルについて朝食をとった。
「んーじゃ、行くか」
「うん!」
「はーい!」
着替え終わった俺の声に姉妹そろって元気な返事をしている。かわいい、尊い……
家から出た俺たちだが、例によって俺を挟むように二人が腕を抱いている。当然であるがとても幸せだ。
「そういえば、昨日は大変だったみたいね」
「あー」
衣織ちゃんから聞いたであろう昨日の出来事を栞は言っているのだろう。
衣織ちゃんは腕を抱く力を少しだけ強めた。
「昨日はごめんね、お兄ちゃん」
「もういいって。気にしないの」
昨日のことを思い出した衣織ちゃんは少しだけ表情を暗くしてそう言ったが、もう過ぎたことだし、これから気をつければいいだけなのだ。
教訓みたいなものだと思えばいいさ。
「怪我は大丈夫なの?」
「うん、何にもないぞ」
そう言って怪我した手を見せようとしたらその腕を抱かれていたのでまぁいいかと諦めた。
ぶっちゃけ指先を包丁で切るだなんてよくある話だし、料理するというのに小さな傷程度なんていちいち気にしていられないよ。
……まぁ、そんなに怪我するもんでもないけどさ。実際本当に大丈夫なのだ、あんまり気にされても困る。
「次から気をつければいいんだし、それで終わりにしよう」
「うん…ありがとね、お兄ちゃん」
気にしなくていいというのに、衣織ちゃんはそう言って笑った。
やっぱり笑顔が一番なのだと、そう思った。
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