三十一話 泥沼

 目が覚めた俺は怪我をしていると言うのに生徒指導室に連れてこられた。


「何か申開きはあるか」


「申開きも何も俺は突き飛ばされただけです」


 目の前の男性教師、葛本くずもとに睨まれた俺は、そう答えるしかなかった、だってやってないんだもん。


「嘘を吐くな、端田はなだは泣きながらお前に襲われそうになったと言っていたんだぞ」


「なら、その事実は何処にあるんですか?」


 かなりマズイ状況だ、彼は完全に端田の側に付いている。

 彼女は真面目な生徒として通っていただけに、こういう時に信用される。

 俺だって真面目にやってきたつもりだが、これが男女の違いだろう。


「端田の服が乱れていたんだ、間違えようがないだろう」


「そりゃあの人が自分でやったんでしょう、だって俺やってないし」


「いい加減にしろ!」


 そういうとこの男性教師はテーブルをバンッと叩いた。うるさいなぁ。


「お前が素直に認めれば考えてやったところだが、この事はお前の親に連絡してやる!加えて停学処分だ、この馬鹿者め!」


「はぁ…それは不当処分というものでは?」


「そんなわけがないだろう、お前は女性を襲おうとしたんだ、処罰されて然るべきなんだ」


 だめだ、コイツは聞く耳を持たない。


「もし俺が襲ったってのなら、端田の服から指紋なりなんなり出ると思いますよ、そこら辺ちゃんと確かめてください」


「ふん、その必要は無い。どうせお前の立場が悪くなるだけだからな!これはお前のためだ!」


「あ?」


 コイツはマジで話にならない、そんなアイツの事を信じるのなら警察でも鑑識でも呼べばいいだろ。何故それをしない、腹が立つ。


「とにかく、話は終わりだ!今日からお前は十日間の停学処分とする!」


「あまりにも一方的ですね、まさか端田から何か賄賂でも受け取りました?」


 そう言うと彼は露骨に狼狽え、すぐに顔を真っ赤にした。


「ふっふざけるな貴様!教師を何だと思っている!この不届き者め!」


 そう言って胸倉を掴み持ち上げる。

 これは、黒だな。


「随分とお怒りのようで、何か気に触れてしまいましたか?」


 敢えて堂々とする、ちなみに音声は録音中だ、嫌な予感がしたからな。


「貴様…私が賄賂など受け取るわけがないだろう!そんな言いがかりを付けられて黙っていられるか!」


「言いがかりってのなら俺もですよ、今俺は相当怒ってる。やってもいないことでこんな扱いだ……ふざけるな」


 あまりにも不当な処分だ、完全な冤罪。

 本当の言いがかりというものはこういうことだ。


 男性教師は俺の胸倉から手を離す。


「ふん、まぁいい。とにかく今日は帰れ、お前の親にもしっかり言い聞かせておくからな」



 そういって俺は家に帰らされる事になった。


 その為に教室に荷物を取りに行くと、周りからの視線が刺さる。嫌な視線だ。

 優親ゆうしんが声をかけてくる。


好透こうすけ、大丈夫だった?」


「いんや、停学だとよ」


 教室の半数がざわめく。


「待てよ、いくらなんでもおかしいだろ!」


 そう言って高畠たかばたが声を上げる。


「なんだ、停学じゃ軽いってか」


「違う!お前がそんなことする訳ない、何かの間違いだ!」


 どうやら高畠は信用してくれるみたいだね。


「端田さん、どういうことかな?もしかして僕が関係してる?」


 気付けば優親は端田の元へ向かっており、恐ろしい雰囲気を纏わせながら彼女に問い詰める。


「違うの、私はただ伴田君と仲が良い天美あまみ君に話を聞きたかっただけ…それなのに天美君が…だから怖くて…ごめんなさい…」


 そう言って端田は机に顔を伏せる。


 舐めやがって…殺してやろうか。


「端田さん?そんなことで私たちが納得すると思うかな?」


「ちょっと無理やりすぎない?ウチもそれは信じられないなぁ」


 しおり小春こはる、そして優親と高畠の影響もあり男女共に割と味方はいるが、何せ端田は真面目で、また可愛い部類であるため半数は味方している。主に例のABCとか。


「そんなこと言っても……本当だもん!」


 そう言って端田は教室から逃げていく。

 それだけで彼女側の連中は俺に非難を浴びせてくる。


「やめてよ!好透がそんなことする訳ないでしょ!いい加減なこと言わないで!」


 周りの非難に激昂したのは栞。

 それだけで教室は一瞬にして静まった。


「でっでも、端田さん泣いてたし」


「いやいや、顔を隠してたから涙なんて見えなかったでしょ、もしかして君は透視能力でも持ってんの?ねぇ」


 言い返すクラスメイトに圧を掛けるのは優親。

 やられたやつは怯む。


「取り敢えず、今日は帰るよ。……面倒なことになりそうだ」


 そう言って俺は荷物を持って教室を去る。


 栞、優親、小春も着いてきた。

 いやお前らはダメだろ!


「好透だけだなんてダメ、とにかく策を練ろう」


 栞は鋭い眼差しでそう言った。


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