九話 望まない者たちの愚行
今日は栞が泊まりに来る日だ。
ちなみに明日も泊まるし明後日だって泊まる。ぜってぇ抑えらんねぇ…うへへ。
今朝も昨日の朝と比較して少々激しいスキンシップにより起床し、そこはかとなく甘々度合いが増した様子で登校した。
「なんか…だんだん甘くなってるような…」
「気のせいだろ」
俺たちという(未来の)カップルを見て
「結局、付き合ってるの?」
「いや、もうちょっとしたら」
「あぁ、またそr…ってっえっマジ?」
いつもの返答じゃなかった事に驚いて、身を乗り出してきた。
「流石にな、そろそろ建前無しでもいっかなって」
「やっぱり建前だったんだ…」
一応頷いておく。
「なんならお互い好きって言ってるしな」
流石に恥ずかしい内容なので、少々小声で話す。
「え?それもう付き合ってんじゃん」
そうだよね、俺もそう思った。
「いや、もう少しだけ今の関係を楽しむことにするよ」
付き合ってからのことはそれからいくらでも楽しめる。
だから、付き合う前の関係性だって出来るだけ楽しみたいのだ、付かず離れずの距離感を。
付き合ってしまえばきっと、今以上に離れることなんてしたくなくなる…。
「こーすけ」
友人たちと喋っていたはずの栞がいつの間にかこちらに来ており、俺の顔を両手でそっと包んだ。その頬はほんのり赤くなっているように見える。
「今の顔、絶対他の子に見せちゃダメ」
「えっ…」
にやけていたかもと思っていたが、そんなに酷かったのだろうか…。
「あーわかる。今の好透の顔はなんて言うか良い雰囲気だったね」
「うん、あんなの見たら皆
さすがに
こんな陰キャのにやけ顔なんてそんないいもんじゃないと思うんだけど…なんで優親まで好評価なんだよ。
「さいですか…」
なんて言えばいいのか知らんのでそのまま流すことにした。
「あれ、好透照れてーら」
「うっせ」
困っている姿を見て優親がからかってきやがった。
この野郎いっぺん剥いてこいつのファンの群れに放り込んでやろうか、多分
「あ、そーだ好透。お母さんがよろしくねって」
「そうか、じゃあ問題なさそうだな」
唯一の懸念点だった親の許可は無事下りた。つまり今日から栞がお泊まり!
「ん?何の話?」
優親はなんの事かと首を傾げた。
男子でありながら可愛らしい顔立ちなので、中々に様になっている。
「今日はね、お泊まりに行くんだ♪」
嬉しそうな栞が俺の頭を抱き締める。
柔らかァ…幸せェ…。
「……そりゃよかったね」
流石に呆れ顔だ、当たり前だよね。
だってこれで付き合ってないとか言ってんだから。
そんなこんなで休み時間、喉が渇いたのでこないだの自販機にやってきました。
ちなみに栞も優親も友人と喋っていたので一人で来たんですよ。
「おい
飲み物を買って飲んでいると後ろから三人、同じクラスの男子たちがやってきた。
「なんだ?」
同じクラスではあるが彼らとは関わりが無い。というか避けられてる状態だ。
そんな連中が接触しに来たということは、そんな理由は一つしかない。
「お前さ、
…とクラスメイトA。
「それな、幼馴染だかなんだか知らねぇけど調子乗んなよ。お前みたいな陰キャが長名と付き合える訳もねぇんだから勘違いすんな」
…とクラスメイトB
「なんか最近やたら
…クラスメイトCは俺の耳元に近付く。
「ヤっちゃうぜ?あいつ」
「…あ?」
この
流石にムカついたからか、思わず低い声が出る。
俺の対応が想定外だったのか少し驚いているようだ。
先程スマホを使っていたので、そのままボイスレコーダーアプリを開き、録音を開始する。Cはそれに気付く事無く言葉を続ける。
「い、いいのかよ長名がどうなっても!」
Cは焦ったように言った。
「…というと?」
腹が立つので敢えて
後ろでAとかBがそうだそうだと便乗している。
「だから、長名のこと襲っちまうぞっていってんだ!」
「あ''ぁ''?」
舐めたことをぬかしやがったCに思わず唸る。
「…ぁっあいつは可愛いからな、ぉ俺らで貰ってやんだよ!そっそうすりゃっ、お前なんかどうでもよk…」
いい加減コイツの言い分を聞いていると吐き気を
苛立ちすぎて一歩前に踏み込む。三人とも後ずさって顔を真っ青にし、黙ってしまった。
Cの後ろにいるAとBなんて震えている。いやC震えてるわ。
これ以上聞きたくないので別の端末に音声データを送信してバックアップし、録音したデータをコイツらに聞かせた。
「取り敢えず、こればら
俺の脅しに光の速さで土下座した。
「すいませんでした調子に乗りましたァ!」
…と言うA。
「全然そんなつもりなんてないんだ!ただ天美と長名が仲良くしてるの見て羨ましくなっちまって…」
…と言うB。
「なにもしない!なにもしないから殺さないでくれ!」
…と言うC。
揃いも揃ってとんだ小心者だ、確かにこんな奴らにそこまで思い切ったことはできないだろうが、できるだけ栞とはお互い傍にいたほうがいいだろう。
最低でも人目のある所にいてもらった方がいい。
ただコイツらを安心させる必要は無いので、
殺さないでくれってなんの事だ?
そんなことを考えながら教室に入ると栞と目が合った。
手を振ると栞は嬉しそうに手を振り返してきた。
「ん?あー天美君ね」
「なんだ彼氏かー」
「そーだよー♪」
笹山を含めた栞の友人たちは、俺たちの関係を好意的に捉えてくれているようで、それをネタに少々からかってはいるが、応援してくれていることはその態度から見て取れる。
しかし先程のABCのような連中も少数ではあるが存在しており、あぁやって陰キャな俺に文句を垂れ流してくる。
いつもの事ではある。
「栞、ちょっといい?」
先程のことを話すべく、栞に近付いて話しかけた。
「ん、どーしたの好透♪」
嬉しそうな栞を見るとあまり嫌な話はしたくないが…仕方ない。
彼女の肩に手を置いて、耳元に顔を寄せる。
「大事な話があるんだ」
真面目に告げると、只事ではないと察したのか栞の表情もしゃんとしたものに変わる。
「え、いいよ。ごめん、ちょっと行ってくるね」
友人たちに断りを入れて立ち上がった栞は、そのまま腕に抱きついてきたので、その状態で廊下へと出る。
先程の出来事を音声データを聞かせて話した。
さすがに内緒にしていいことではないと思ったのだ。
「えぇ…これって
「ごめん、気持ち悪いだろうけど何かあってからじゃ遅いから」
嫌そうな表情を浮かべる栞をそっと抱き締めて、安心させる為に背中を撫でる。
「ううんありがと、これから気を付けるね」
「うん、これからはもっと一緒にいた方がいいかもな」
ああいった台詞を聞いた以上は、警戒するに越したことはない。
それもあって言ったことなのだが、栞は目を輝かせた。
「そだねそだね!ずっと一緒にいようね!」
栞はぐりぐりと俺の胸に顔を
なにかニュアンス的なものが違っている気がするが、喜んでいることだし全くもって違うというわけじゃないだろうから、まぁいいだろう。
話を終えて栞の席に戻るが、腕を離そうとしない。
「あの、栞さん?席に戻りたいんですけど」
「一緒にいよって言ったじゃん♪」
しまった…。
優親ならまだしも他の女子がいる状況でこれはヤバイ恥ずかしい。
「えーめっちゃラブラブじゃーん!」
「なんの話してきたのー?」
あまり広めることでは無いか…と思ったけど完全にアイツらが悪いので広まったところで知ったことではないので栞に任せることにした。
栞に目配せすると、彼女は頷いた。
「鈴木君たちが好透に変なこと言ったの」
「変なこと?」
一部の連中が俺たちをどう思っているかを知っている笹山らは少し顔を
「そ、私を襲うとかって言ったみたい、録音もしてあるから間違いないよ」
内容を聞いて場が凍りついた。
「へー、あいつらそんなこと言ったんだー」
「さいってー、キモすぎるでしょ」
「ていうか普通に襲うとか犯罪じゃん」
ABC終わったな、まぁ知らんけど。アホなことしたアイツらが悪いよね。
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