第69話 ムカつくんですけどぉ〜〜!?
「——おっッと……ウィンド」
男が一瞬驚くように声を漏らすと身体の周りに風が吹き荒れる。僕のレイピアの糸を乱し、隙間を縫うように距離をとってみせた。咄嗟の行動とは思えない完璧で流麗な動きを見せる。
「あれれ〜〜君は一体誰だい? いきなり危ないじゃないか〜〜まったく……」
おいおい、よく言うよ。余裕な様子で対処しておいて、何が危ないって言うんだか。謙虚は時に嫌味となると聞いたことがあるが、このことか?
だけど『ムッ』としたところで事実は無情だって分かってるんだ。憎たらしいことに流石であることには変わりないんだから。
——憎たらしいことにね!? ムカつくんだけど!!
大事なことなので2度言いました〜〜。これで僕がどれだけ『ッム』としてるか分かっていただけただろうか?
不意をついたつもりだったんだけど、簡単に避けられた。僕の瞬間移動にも慌てることなく対応して見せた。
——ふむ。なかなかに悔しいなぁ……。
僕はバトルジャンキーではないんだけど……それでも悔しいと思ってしまうよ。ついね。
「面白い武器を使うんだね〜〜奇妙な糸が繋がった2本のレイピア……ははは……面白いね。その輝く糸は魔法の類かな? 君——何者だい?」
男は、舐め回すように僕を見つめてくる。
突然の乱入者を観察をしているようだ。
興味津々に屈託なく笑い語ってくる。
非常に気持ちわるい感覚が僕を襲ったんだけれど……僕が注目を浴びるのは正解さ。アイリスを追わせるわけにはいかないからね。
これでいい。
「さっきの少年の仲間なのかな? このタイミングってことは……お嬢様(アイリス)を追わせない気かな?」
さて……ここで1つ疑問に思うことはないだろうか?
さっきから、男は僕の正体を聞き出そうと言葉を口にしているが……
——あれ? さっき会ってたでしょう?
と思うところだろう。
僕、部屋から【影移動】で脱出した時に思わず近くに落ちてた黒い外套を掴んでたんだ。いかにも〜な悪者さんが着てそうなコートみたいなヤツ。たぶん盗賊さんの私物かな?
まぁ、ちょうどいいやって思って着たわけよ。僕の姿を隠す意味でもね。だってバレたくないじゃん。ここから逃げた後に報復とかあったら怖いじゃん。だから、是が非でも僕の正体は知られたくないんだ。
男は吹き飛ばした僕が完全に死んだものだと疑ってないんだろうな。勘違いしてる。
時に、このコート……
たぶん、普通のコートなんだろうけど、僕が着たらぶかぶかロングコートになってる感じだな。これ。
おい?! 今、『馬子にも衣装』って言葉を思い浮かべた奴いるだろ! ふざけんなよ!!
ここから脱出したら、寮のおばちゃんから大量の牛乳をもらってガブ飲みしてやる! 僕は育ち盛りなんだ! クソ!!
「あれ〜〜黙り? もしくは喋れないとか……」
「……いや? 喋れるよ」
「——ッお!? はは……やっと口を開いてくれたね〜〜嬉しいね〜〜」
「僕……いや……私は嬉しくないかな? あなたとお喋りに興じるつもりは微塵もないからね」
「……あらら〜〜俺、嫌われてる〜〜?」
この時の僕は、アグレッシブ盗賊さんの成長を促した時の“殺し屋”を演じた時の声を真似てる。僕の正体を知られたくないからね。人畜無害しみったれたクソガキのウィリアに実力があるのを晒せないからさ。
「ちょっと時間稼ぎに付き合ってもらうよ。ボス?」
「んあ? 俺のこと知ってるの〜〜? あっちゃ〜〜アウトローである俺としたことが。しくったな? どこでバレたんだろ? やっぱり、オーラ??」
ちょっと、かまをかけてみる。この反応は、遺跡を根城にする盗賊の『ボス』で間違いなさそうだ。
「あぁ〜〜なら、仕方ないな…………ッと!!」
——ッガキッキッキ——ン!!
「……ん? あらら……弾かれた??」
男がポケットから手を出す。そして、2、3度タクトを降るような挙動で腕を動かす。それに合わせて僕は高速で剣を振るう。すると、何もない空間にも関わらず金属を打ちつけるような音を奏で、周囲にこだまする。
「いや〜〜驚いた。君——僕の魔法が見えてるね? こんなに簡単に攻撃が弾かれたのなんて久しぶりだよ〜〜」
そう。僕には見えていたんだ。男が発動させた風魔法。その魔力の揺らめきが……
魔防 Lv.5>Level up!>Lv.7
——魔防の値がLv.7になりました。
>>>新スキル【魔力感知】を覚えました。
神器【虚と影】Lv.28>Level up!>Lv.30
………Level MAX………
>>>これ以上レベルは上がりません。
>>>上限を開放してください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます