第68話 あのさぁ〜クソガキ相手に追撃とか大人のやることじゃないと思うんだよね?

「……ハァハァ……あぁ……危ねぇぇ……」



 はい。本日2度目の危機回避です。


 あの野郎——追撃してきやがった!


 あのさぁ……やっていいことと、悪いことがあるだろう?! クソガキ相手にやっていい戦法じゃない! 大人気ないぞ!!



「ふむ……死んだかな〜〜? はは……」



 死んだかな? じゃね〜〜んだよ。本当に死ぬところだったぞ!?


 僕は遺跡の上部から下を眺めている。ちょうど目の前の眼下にはさっきの黒服の男——粉々になった部屋を見つめて笑ってやがる。はい、世間一般ではこれを変態って言います。

 アイリス以来の変態認定をあの男に送ってやる。どうだ! まいったか!!


 で、あの男が何をしたのかは明白だ。多分魔法だろう。メカニズムはわからんがな。

 あの空気の揺らめきと口笛のような『ピュ!』って音は、魔法が破裂する予兆なんだろう。つまり、アイリスを襲った瓦礫も奴の仕業ってことだ。僕は、直前で2つの事象を確認してるからね。

 アイリスを狙って適当に撃った魔法が近くの遺跡を破壊して破片が崩れてきたんだろうな。

 まぁ、それはいいんだ。僕が助けてしまったから。問題なかった。


 それより……


 変態男さんや。あなた……普通ガキンチョ相手に追撃かましますかね? 壁に叩きつけられて、そのまま突き破れば人間誰しも死ぬんだよ! それなのに、部屋を風魔法で切り刻む爆弾投下もしやがって……人畜無害の可愛い可愛いウィリアちゃんの身体がグチョグチョのグチャグチャの木端微塵切りになってしまうじゃないか!? 


 少しはガキンチョを労れや!


 普通は死ぬんだからな!!


 僕が、普通じゃなかったからよかったものを——まったく!!


 実は、風の爆破が巻き上がる直前、僕は咄嗟に魔技【影移動】を使用した。影と影を移動する能力だが、あまりにも咄嗟のことだったから、どこに飛び出すかわからなかった。

 遺跡の上に飛び出たのは運がよかったよ。男の前に出てたらどうなっていたことか……賭けに近い行動だ。


 だけど……運が悪い部分もある。


 僕の視界の端にヒラヒラと蝶の羽が散る。そう……さっきの攻撃、かすってたんだ。

 影移動ってっさ。影に潜るような挙動なんだけど……ちょっと潜るまでに時間がかかるんだよね。さっきの爆発に弾き飛ばされるように影の中に放り込まれたもんだ。これがダメージとして出たんだよ。

 てか、今思うとアイリスの剣に殴られてなくて本当によかった。あれ、喰らってたら、今頃僕、死んでるぞ? 


 ——ぶるり!?


 おぉ……お、思わず悪寒が……ヒステリックもほどほどにしてもらいたいものだ。巡り巡って人を殺しかねないからな。



「さて……お嬢ちゃんを追わないと〜〜」



 と、そうこうしていると男に動きが……


 死んだと思われる僕を忘れて、アイリスを追うために踵を返した。


 うぅ〜〜ん? この男……放置するのはマズいよな?


 魔法の威力と振る舞いを見ていると、只者じゃないってのは必然的にわかっちゃうんだ。さっきのアグレッシブ盗賊さんとは明らかに違う。

 もしかして……この男がアグレッシブ盗賊さんが言っていた【ボス】なんじゃないか?

 て、考えると盗賊の中でも特にヤバい奴——つまり1番、出くわしたくない奴ってことさ。

 こんなのにアイリスを追わせてしまうと、僕の予定が狂う可能性がある。アイリスは捕虜のはずだけど……あの無差別に魔法をぶっ放す姿を見ていると、死んでも構わないと思ってる可能性もあるな。こんな狂った奴を行かせていいものか?


 はぁぁ……仕方ない。


 ここは……



「……ん? なんだ? 針?」





 足止めさせてもらおうかな。





「——ッ!?」



 男の前に僕の神器——漆黒の刺突剣『虚』を投げた。そして、すかさず魔技【虚影】を使う。瞬間で男の目の前に出現する。


 そして……



「……糸術——操糸!」



 2本のレイピア間を繋ぐ伸縮自在の紫紺の糸を張り巡らせ、男を捕縛しようとする。


 だけど……














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