第47話 目的地は亀さん
だが、何事にも例外はある。
ここ69階層に関して言えば……
「ふわぁ〜〜!! デッカい、亀さん!!」
僕の“わしゃわしゃ”から逃げ出したヴェルテは、周辺の観察に戻っていた。彼女の喜色満面な歓喜に……ついつい僕の意識は彼女に吸い寄せられた。
そもそも、ここへ来た目的を果たしに行こう。
ちょうど、僕の意識を引くに至った彼女の歓喜——それを引き起こした元凶が本日のターゲットだ。
——グルルルルル〜〜。
生物の喉を鳴らす声が洞窟に響く。
それは、全長何百メートルにもなる甲羅が青く輝く大きな亀だった。
チュートリアルダンジョン69階層は巨大な洞型の階層である。上を見上げれば天井付近を輝く謎の発光体が、まるで星空のように美しく、そこに目が行きがちとなってしまうが……地表付近は、湿地となっている。そこに生息するのは亀の魔物。僕たち人間がまるでアリンコのようにちっぽけに見えてしまうほど、巨体の主張が激しい亀型の魔物が生息している。
【ブルーアイアンタートル】
それが彼らの名前だ。
背中を円錐状の尖りを見せる青い発光殻で覆われ、風貌は粗々しくあるが、その実、大人しい性格の魔物である。こちらから危害を加えることがなければ襲ってくることはない。
この階層はセーフティエリアと呼ばれる階層で、攻撃的な生物はおらず比較的安全なエリアだ。僕みたいな、か弱いゴミカス的存在がいきなり突貫をしたところで命を脅かす危険性は殆どない。まぁ、あの亀を故意に怒らせたなら別だが……
でだ。
何を隠そう。ここまで来た目的だが……
「それじゃ、行くよ」
「へぇ? 何処に……?」
「何処って……あそこ」
「……?」
僕は亀の1匹を指さして場所を示す。だが、ヴェルテは理解してない。笑顔はそのままだったが、張り付いた笑顔のまま首を大きく傾げている。口から覗く八重歯が実に肉垂らしい。
「あの亀のところに行くんだよ」
「——ッ!? 亀さんのところぉおお!!??」
ここで、ようやく重大なことに気づいたのか驚いて絶叫したヴェルテ。獣耳ピィーンと毛が逆だった。
「あの巨大亀さんのところに行くの!? 噛み付いたりしない!!」
「噛み付く?? 僕たちなんか、丸ごと一口で飲み込まれるだろう? あのデカさだと……」
「——ッヒィイ!!」
「まぁ、その点は心配するな。あの亀は肉食ではないし、こっちから攻撃しなけりゃ襲ってこない」
「……本当?」
「本当、本当……それより早く行くぞ。素材採取の時間だ」
僕は手招きでヴェルテを呼ぶ。すると眉を顰めつつではあったが、彼女は恐る恐る近づいてきた。
「——ッキャ!?」
そして、僕は彼女の肩に手を置き抱き寄せると、すぐさま【影移動】を使用した。小高いところにある岩影を利用しブルーアイアンタートルへと近づいていく。
そしてついに……
「はい……到着!」
「え? ついた??」
本日の目的地に到着だ。
「——何処、ここ?!」
ヴェルテは周囲をキョロキョロと伺う。それは、ここ69階層に到着した時に見せた好奇に輝く表情とは裏腹に、顔には怪訝さが張り付き不安そうだ。
まぁ、そうだろうよ。今居る地点は、周りが青々と眩しく鋭利な尖りを見せる岩に囲まれた場所だ。光景が少し毛色が違うと言えばいいか?
それに、少し揺れているんだよ、この場所。その揺れに合わせてヴェルテの耳がビクッビクッ——と反応している。なんだか面白いな。
「はい、これ——」
「……え? 重たい!?」
で、ヴェルテが不安がってるのをよそに、僕は鉄の突起状の部品と加工された木の棒とを組み合わせて1つのピッケルを作って、これを彼女に渡した。背中のリュックサックにバラバラにして持ってきていた採取用のキットである。
ばらして持ってきてたのはその方が運びやすいから……ピッケルのように形が複雑な物って仕舞うのに苦労するでしょう。だからバラす。そうすれば、鉄と持ち手の棒とで一緒に布に包んでおけるし扱いやすいんだよ。こういうのも、冒険者としての簡単な知識だ。
「じゃあ採取するよ。亀の甲羅」
「か、亀の甲羅?!」
「だってここ亀の背中……甲羅の上だからさ」
「——ッうわぁあ!!?? なんだって!!!!」
そう。僕が探しに来た素材はブルーアイアンタートルの甲羅……実はこの亀——背中の甲羅が金属の鉱石なんだ。
それも……
「この亀の甲羅は全部……“青魔法石”だからさ」
これで僕は一攫千金を狙う。
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