第38話 拒絶
「それ、僕となんの関係があるの?」
「……え、それはあなたとの決闘の見返りで……」
アイリスはボソボソと僕の質問に答え始めた。そこには、初めて彼女と会った時の凛とした風貌や、戦闘時のアグレッシブさは微塵も存在しない。どこまでも弱々しい女の子だった。
「それ……あなたが勝手に始めたことでしょう?」
だけど……だからなんだって話だ。そんな弱った姿見せたって、僕の中に生まれた『怒り』は収まりを見せない。このまま行かせてくれればよかったモノを……
僕は、らしくもなく反論を口にするのだ。
「そもそも僕は奴隷なんて求めちゃいないんですよ?」
「……あ……え、とぉ……」
「あなたが勝手に言い出したらことですからね?」
『奴隷になる』それはアイリスが勝手に決めた条件だ。おそらく負けるとは
「僕はね〜〜普段のありふれた日常で幸福を感じるんです。田舎出身のちっぽけな人間ですからね。ご飯が美味しいとか? 四葉のクローバーみっけとか? そんな、どうでもいい小さなものがね?」
「わ、私はあなたの役に立とうと……今日一日……支えて……」
「だから……そんなの求めてないの。普通のありふれた日常が僕の幸福なの。どこの日常に……公爵令嬢を奴隷にする日常があるんだよ?」
「……ッ!? え、えっとぉ……」
「今日一日、あなたと一緒にいたことで、周りから白い目で見られてました。どうしてくれるんですか? 僕の日常を壊してくれましたが?」
「——ッッッ……」
意地悪な言い方だって分かってる。本当はここまで言いたくないんだけどね。
相手にも事情があることはわかる。昨日のアイリスパパが言ってたことをザックリと察してしまえばね?
だけど……
じゃあ、僕の事情は?
彼女の軽率な行動は僕を困らせてばかりだ。いくら貴族だってな。やって良いことと悪いことがあるだろう?
「だけど……もういいです。僕にこれ以上関わらないで貰えばいいんで……」
「——ッ待って!? わ、私にも事情があるの……だから……」
「——はぁぁ……知らないですよ。そんなの……事情、事情って……あなたが勝手にしたことでしょう」
「——うぅ……」
「勝手に決闘を挑んで——勝手に条件を決めて——勝手に負けて——勝手に奴隷をやってる。僕の事情をまったく度外視して? ねぇ〜貴族ってなんですか? ただ偉ぶって、地位を傘に着て好き勝手やる生き物ですか? そうやって僕の
「…………」
僕はこれだけ言い切ると彼女を視界から外して、再び歩き出す。だけど……
「——ッ付いて来るな!!」
「——ッビク!?」
薮の草木を踏み抜く足音が聞こえたものだから……思わず僕は叫んだ。
あぁ……一体いつぶりだろう。
声を大にして叫んだのなんて——?
あれは……そうだな〜〜5年ぐらい前、僕の故郷で……
村の近くに出没した盗賊に怒鳴った時以来か……? 確か、あの時も……こんな薮の中での出来事だった。
「言ったでしょう! 迷惑だって——!!」
「……で、でも……わ、私……」
「だから——知らないって! これ以上、僕に付き纏うな! どっか行けよ!!」
「——ッ!?」
この日——最後に彼女の顔を見たのがこれで最後だ。僕の叫びにビクッと怯えて俯いて……
ただ、僕はそのあと振り向かなかったんだ。
だから……
俯いた彼女がどんな気持ちで……どんな表情をしてたかなんて……
覚えてない。
僕はそのまま寮に戻って……何事もなかったかのように日常に戻っていった。
次の日——
昨日を境に、アイリスは学園から姿を消した。
そして、何日か経っても……
彼女を見ることはなかった。
【第1章 突然知る驚愕事実 僕の胸には野望が芽生えるも 邪魔をするのはアグレッシブ令嬢】
——閉幕——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます