第37話 堪忍袋の緒が切れる

「——ッ!? うぅ……眩しい」



 僕は太陽の煌々に眩しさを覚えつつ夢境を出た。


 しかし、この時はダンジョンクリア時に通る奔流——ではなく、スライムをキャッチ&リリースして通路を引き返して出てきていた。


 何故だかわからないが……あのスライムを倒す気にはなれなかったんだよ。それは、彼の弾力に癒され活力を取り戻す貢献に大いに買ってくれた——もそうだが……


 スライム君とは……なんだろう? こう……心が通じ合った——と言えば良いのか? そんな気がしてね。情が湧いてしまったんだ。

 彼はポヨポヨしているだけで、何を言ってるかわからなかったけど、きっと元気のない僕を鼓舞していてくれたに違いない。本当に、何を言ってるかわからないけどね!? 

 そんなエールを送ってくれた相手を……まさか殺すなんてね〜〜できるはずがなかったんだよ。僕は彼の存在を背中で感じ、クールに手だけ振って帰ってきたのさ。

 心が通じ合った仲さ。きっと最後の僕の挨拶もスライム君に届いてるはず。そうだといいな。



 と——こんな現実逃避もここまでだ。



 それよりも、僕は明日以降どうするべきだろうか? 


 今日一日を振り返って……アイリスを「奴隷」として連れ歩く行為は針のむしろでしかなかった。

 周りは変な目で見てくるし、ナメクジ君だって押しかけてくる。こんな状態が毎日続くのだと考えると、とてもじゃないが僕の学園生活は安念が訪れる事は決してない。


 もう……ヒヤッとしてしまうよ。


 それにしても……あぁ、夕日が眩しい。そっか〜〜僕夢境に数時間に渡っていたんだな。



(ぐぅ〜〜)



 もう、お腹も空いた。結局、昼食抜いて……午後の授業はサボりだ。これのどこがジミ〜ちゃんなのかね? 地味に授業受けてろよって話だよ。


 はぁぁ……とりあえず寮に帰ろ。夕食まで抜くことにまでなったら、洒落にならないしな。


 明日のことは……そうだな〜〜夜にでも考えよう。



 …………ん?



 いざ帰ろうと、校舎に向かって歩き出した僕だけど……あれれ、誰かこっちに来る? 

 ちょうど夕日が逆光でうまく見えないんだけど……薄暗い夢境内に居たからね〜〜?


 と、あれは〜〜……



「ハァ、ハァ……ご、ご主人様!? や、やっと見つけた!」



 ——っげ!? あ、アイリス嬢!!



「まったく……なんで逃げるのよ! せっかく、この私が奴隷やってあげてるって言うのに〜〜!」



 おいおい、え? 何?!


 探してたの?


 僕のこと?


 あれからずっと?


 しかもご機嫌斜め??


 あらら、すっかり口調を乱して……

 あのさぁ〜〜昼間の奴隷丁寧口調プレイはどこいったのかな〜〜? あと、敬語は——?? 

 既に、アグレッシブさを取り戻しつつあるぞ? この令嬢……

 昼間のあれは、だいぶ無理してたのかな?


 それにさぁ……



「頼んだ覚えはないんだけどな」


「——ッ!? ハァアあああ!!??」



 おっと、しまった……つい、心の声が……


 いやだってね——



「何? 奴隷やってるって??」


「——ッ!?」



 って——もう、いいか……そんな事は……


 僕は自分のことを、心の広い『慈愛のウィリア』だと思ってるよ? ちょっとやそっとじゃ怒ることのない優しい奴だって自負してるさ。


 だけど……



 僕だってね——



 


 限界はあるんだよ?





「この私が探しに来たのよ! もっと嬉しそうにしたらどうなの!?」


「そんなの僕は頼んだ覚えはないですけど……」


「——はぁあ!? 何よそれ!! ——ってどこ行くのよ! 待ちなさい!!」



 僕は、アイリスを無視して彼女の横を通り過ぎた。だけど、目尻を釣り上げて彼女は僕の肩に手をかけて振り向かせる。



「なんで? 寮に帰るんですけど……?」


「この私を無視して!? 何様なのよ! あなた!!」


「……? あなたは僕の奴隷じゃないんですか?」


「——ッ!? ぐぅ……分かったわ……です。寮までお供しま……」


「要らないです」


「——ッえ!?」



 僕は断った。だって……要らないんだから……



「お供は結構です。明日以降もね」


「……え!? そ、それは……」


「明日から自分の日常に戻って良いですよ。奴隷は不要です」


「——待って、いや待ってください! ご主人様!」


「……ん?」



 慌てた様子でアイリスが僕を静止させる。一体、何に不満なんだ?



「そ、それは……困ります」


「なんで? 奴隷やらなくていいって言ってあげてるんだけど? 君にとって嬉しいことじゃないの?」



 奴隷なんて、やりたくてやるもんじゃない。何がいけないってんだ。



「私——家から勘当されて……あなたを支えろってお父様に——」


「知らないです。僕帰りますよ?」


「だから……待ってって!? 最後まで話を聞いてよ! 私は、あなたを支えなくちゃいけないの! これは私の罰で——決闘の見返りだから!」



 アイリスは声を荒げてこれを言う。


 だけどさぁ〜〜それって……



「だから?」


「……え?」



 だから、なんなんだよ——って話なのよね?


 心底——


 僕にはどうだっていい……




 

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