第35話 もう限界
「ご主人様。お下がりください」
数人の取り巻きを連れて怒声を飛ばすナメクジ君。アイリスはすかさず僕の盾になる様に一歩前に出た。
「アイリス! なぜ、その男を守るんだ!」
「私のご主人様です。守るのは当然でしょう?」
「——ッ!? つまり……奴隷になったとの噂は本当だったのか!?」
「ええ……偽らざる真実です」
やっぱりそのことか……ナメクジ君、なんかアイリスに好意でもありそうな気持ち悪い視線向けてたし。その彼女が、別の人物に奴隷として
「では、決闘に負けたというのも!?」
「えぇ、真実です」
「——ッッッ!? 信じられない! ——ックソ! オイ、貴様!! どんな卑劣な手を使ってアイリスを陥れた!!」
お〜〜と、謂れのない言いがかりだぞナメクジ君。
卑怯? 立派な魔力技術の応用を使っただけですけど〜〜?
「貴様のような、なんの取り柄のない愚民が、あのストライド公爵家令嬢のアイリスに敵うはずがない!」
さっきからなんだ? 君はアイリスのなにを知ってるんだ? この2人そんなに仲が良かったのか。
「オイ! なんとか言ったらどうだ卑怯者!」
あらら、もう卑怯者呼ばわりですか。ナメクジ君の中の僕の評価はどんどん下がる一方だ。
「ご主人様。こんな奴、相手をする必要はありません。行きましょう」
うん。アイリスの言う通り、僕もそうしたいのは山々なんだけど……いいの? この激昂ナメクジスプラッシュ状態を放置しても?
「はぁぁ〜〜なら、こうしよう。ほら、受け取れ!」
「……?」
——と、僕がどうしようか悩んでいると、ナメクジ君が懐から金ピカの短刀を取り出して僕に突き出してくる。
「貴様に決闘を申し込む!」
「「「「——ッッッ!?」」」」
そして、声高々と宣言した。その時の奇声は廊下中に響き渡り、この一触即発の空気を傍観していた生徒諸君の反応を買う結果に。各々が身体を跳ねさせ、嬉々として進捗を傍観している。
「ご主人様……受ける必要はございません」
アイリスは僕に一案を囁く。確かに僕は彼の言いなりになる必要がない。一方的に決闘だなんだと言い出してるんだから。僕にとってのメリットもないしね。
(ぐぅ〜〜)
そんなことよりも、お腹空いたんだけど……早くお昼を食べに行きたい。
「なんだ? 怖いのか……ふふふ……やはり、お前は卑怯な手を使ってアイリスに勝った様だな?」
いや、別に怖くはないよ。君に関してはね。
1番怖いといえば、隣にいるアイリスかな? さっきから、卑怯〜〜卑怯〜〜って、ナメクジ君言うけどさ。『私が卑怯な手で負ける様な雑魚だとでも言いたいのかしら〜?』って、鋭利な眼光をナメクジ君に向けてるんだもん。
向こうは向こうで熱視線だとでも勘違いしたのかウインク返してるし……
うん……馬鹿だなコイツ。
てか、アイリスさんや。お願いだから手を出さないでね。中身ヒステリックだから、やりかねないんだよ。君……
「決闘は一対一の真剣勝負。私が勝ったら、アイリスは私がもらう。もし負けることがあれば……そうだな。金貨100枚でどうだ」
お?! なにその魅力的な条件!! 僕にとっては負けても勝ってもいいこと尽くしじゃないか!!
負ければ、ヒステリックの付き纏いがなくなる。
勝てば生活費に困ることがなくなる。
「待っててね……アイリス。私が君を救い出してあげるよ♡」
「——ッひ!?」
あらら、アイリス。身体震わせて〜〜彼に救われるのが、そんなに嬉しいのか? ならこの勝負受けちゃおうかな〜〜?
思わずそぉ〜〜と腕を伸ばしたら、横から、ガシッ——とアイリスに手首を掴まれた。
あれれ〜〜? 拒否なの? お嬢様?
小刻みに首振ってるけど、なんだよ……嫌だったの? なら、嫌だってナメクジ君に言ってやれよ。
「オイ! どうなんだ。受けるのか受けないのか!?」
「ご主人様——受ける必要ありませんから! ——アルフレッド! 私は真剣勝負で負けたの、別にあなたに救ってもらう必要はないわ」
「あぁ……アイリス——君はそう言わされてるのか? 可哀想に……大丈夫、僕が必ず助け出してみせるから!」
「——だから、そんなんじゃないのよ!!」
ところでさぁ〜〜アイリスとナメクジ君が言い争うのもそうなんだけど、周囲では……
「おい、お前この勝負どっちに賭ける?」
「それはアルフレッド様に決まってるだろ?」
「いや、アイリス様に勝ったあの一般科の生徒……侮れないぞ!」
「あぁ……アイリス様が、あんな何処の馬とも分からない輩の奴隷だなんて……嘆かわしい!」
「でも、彼女を取り合って、白熱する男達は——うん! 良いわ! 凄く良い!! 」
「『俺のアイリスは渡さない』って? キャ〜〜♪」
生徒の面々も騒がしいこと、騒がしいこと……
あのさ。これどう収拾つけるの?
本当、凄く面倒くさいんだけど……
キャ〜キャ〜、ワァ〜ワァ〜と……
(ぐぅ〜〜)
お腹も空いた。
もう、ヤダ——……
「——ッ? おい、アイツは何処いった?」
「——ッ!? あの男——逃げたのか!! クソ! 探せ!!」
「——ッえ!? ご主人様!! 私を置いて、どこに行って……?! ご主人様ぁあ!!」
僕は、嫌になって逃げ出した。
あのさ〜〜僕……
人との関係も、騒がしいのも、面倒くさいのも……
大ッ嫌い——!! なんだよね。
僕にしてみれば、本当によく保ったほうだよ……
反射的に影移動を使って……再び、校舎裏の藪の中——たぶん、周囲の喧騒に紛れて消えた瞬間は誰にも見られてないだろう。
もう……見られる可能性とかさぁ〜〜気にすることなんてね。その時の僕は限界を迎えててさ。微塵も考えなかったんだ。
「……じぃ〜〜〜〜」
——ん? あら、またこの子?
なに、またこんな藪の中に居るの?
獣人だからなのかな? 野生を求めて藪の中に居るのを好むのかね?
まぁ、どうでもいいや。
「〜〜ッ?!」
はい。わしゃわしゃ〜〜と、頭撫でてやんよ。
ありがとう。名も知らない獣人っ娘。君に会えて、ちょっとは気分が晴れた気がしたよ。毛並みの触り心地は悪くなかった!
——では、さらばだ!
「……お……オバケさんに頭撫でられた!?」
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