第34話 僕に与えられた社会的な死
このままではホームルームはおろか、授業にも支障をきたす可能性があった。
そこで僕は……
「アイリスさん。あなたは貴族科の教室で、例日通りに授業を受けてください」
そう、『命令』をして、彼女自身の教室に帰ってもらった。
最初は……
「いえ、私はご主人様の奴隷ですので、あなた様のお側に控えさせていただきます」
とか、言い出すものだから……僕が下したのは『命令』だったんだよ。
「なら、命令です。自分の教室に帰ってください! お願いだから!!」
「…………かしこまりました」
ここまで言ってようやく、唇を尖らせ不承不承と帰っていった。この令嬢は、是が非でも僕を困らせたいのか?
その後の授業は最悪だったね。
「あれ、ウィリア君……なにしたの?」
「なんでもアイリス様と決闘して負かしたらしいよ」
「え!? ありえない!!」
「それで、なに? 奴隷?? うわ、最低〜!!」
と、必須教科の授業中、同級生は言いたい放題。僕のことをチラチラと観察してくる。それならまだマシだけど、中には汚物を見る様な視線を向ける奴までいた。
それに……
「おい、なんだよアレ?!」
「なんでアイリス様が!?」
「どうなってるんだ!?」
「あの野郎〜〜!!」
冒険科での授業。アイリスは従順にも僕に付き従い、片時も離れようとしない。その姿に周りからの視線が痛かった。特に貴族科連中と野郎の視線だな。
「ご主人様。あの失礼な輩を黙らせてきましょうか?」
「やめてください……僕の居場所がなくなっちゃうから……」
「……? ですが……」
「お願いだからやめてください! 社会的に死んじゃうからぁあ!!」
「……申し訳ありません。出過ぎた真似でしたか?」
さらに……それを無神経にも蹂躙しようとするサイコパス令嬢。おい、お前は奴隷になってまでも戦いに飢えているのか? どれほどのバトルジャンキーなんだよ。
これ……もしかして、奴隷の身となってまで僕のことを殺しにきてるのか?
社会的な死を与えるために……
そしてお昼休み——
「ご主人様。お迎えに参りました」
アイリスは教室に現れた。
——迎え?? 頼んだ覚えはないんだけどな〜〜??
「……なんで??」
「ご主人様の昼食をご用意してありますので、お迎えに……」
「求めてないんですけど……」
「……え?」
そうだよ。昼食なんて用意してもらう必要なくないか? だって、学食で一食無料なんだもん。僕は学食に向かうだけだ。用意も付き添いもいらない。僕ってそんなに1人じゃなにもできない奴に見えるの?
舐めるなよ! 僕は既に田舎を出たシティーヒューマンだ。アイリスの施しなんていらな……
「一流シェフにコースを用意してもらいましたが……私は奴隷とあっても学生のうちは令嬢だった立場を利用できます。それは全てご主人様の為に使わせていただきたく……その……」
「うん、行こうか」
「……!? はい、こちらへ……」
おいおい、それを早く言ってくれ!
令嬢が毎日食べてる昼食ってなんだよ! コースってなんだよ!?
田舎者の僕が一生味わうことのない令嬢メシ……ジュル……
べ、別に食欲に負けたわけじゃないからね……だって、アイリスの口ぶりだと昼食は既に用意されている。これを断って無駄にしちゃうのは勿体無いし……第一、そのコースとやらを用意してくれたMr.シェフ=イチリューに申し訳ないよね!
ここは……そう! 仕方なく! 仕方なく食べてあげるんだから!!
「「「「……ザワザワ!」」」」
相変わらず、アイリスと並んで歩いていると周りは騒然としていて、それでいて視線は冷たいが、そんなの知るもんか! 僕は今から、令嬢メシをいただくんだ。ふふ〜んだ!! 羨ましいだろ愚民ども!! ふっはっはっは〜〜♪
「——オイ!! そこの愚民!!」
——と……ん!? 愚民?? まったく誰だよ僕を愚民呼ばわりする奴は……って……
「貴様だ、貴様!! 周りをキョロキョロしたって無駄だ! 貴様しかいないだろうが!!」
——お! お〜〜と、ナメクジ君ではありませんか!
久しぶりの登場だね〜〜こりゃまた〜〜♪
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