第29話 どうするの これ?
「あのぉ〜ティスリさん。ちょっといいですか?」
「……はい」
僕はこの時、メイドのティスリさんだけを呼んで離れた場所で話をする。
「これ、どうにかなりませんか? 僕は別にアイリス様を奴隷にしたいだとか、一切思ってないんです。この決闘も非公式のものであるなら、今から無効になりませんか」
と聞く。事は起こってしまった後だが、妥協に留められないのか、参考人から聞こうと考えたんだ。
だけど……
「申し訳ありませんが……なりません」
嘘だろ。彼女は速攻否定してきた。あなたアイリスの侍女だろう? 薄情すぎない?
「はぁぁ……」
その時——ティスリは大きくため息を吐く。憂いを外に吐き出すかの様に……
「本当、お嬢様には困ったものです。今回の決闘も、いきなり言われて『何考えてるんだ。この人?』って速攻で疑問に思いました」
そして、凛とした姿を消すと妹を呆れる姉かの様に愚痴を吐露し出した。この人……淡々と支えるような冷たい印象だったが、この時のティスリさんは意外と人間味を内包している。こちらの方が本来の彼女なのか。先ほどまでの彼女は仕事スイッチの入ったティスリさんだったようだな。
「なら……」
「ですが、いくら非公式の決闘とは言え、ウィリア様の提案は難しいでしょう」
「……え? なんで……」
「できる事ならあなたの提案、今すぐお受けしたいですよ。幸い、あなた様を観察させてもらった感覚では、お嬢様を
だったら、問題ないようだけど。
「ですが、お嬢様がお認めにならない」
「えぇ〜〜……」
「非公式でも決闘は決闘です。公爵令嬢を奴隷にするのは大問題ですが……これをお嬢様の口からしてしまっている。通常では、こんな条件は認められませんし、このままでは御当主様が飛んできてしまいます」
……嘘だろ? 凄くめんどくさい。
「ですが、成立してしまったからには覆りません。ウィリア様の気遣いは痛み入る申し出で、今すぐにでも私は実行したところですけど……お嬢様、あれで凄くプライドが高いから、絶対に受け入れません。自分で言っておいて反故にする人じゃないですからね」
「うわ……凄くめんどくさい女……」
「私も同感です。めんどくさい年頃なんです。あ、今の言葉……不敬罪に該当しますが、聞かなかったことにしといてあげます。状況も状況ですし、私はウィリア様に同情してますからね。お口にチャック。それに、今のお嬢様は奴隷ですから」
「そ、その言葉もどうなんですかね?」
「あら嫌だ。私ったら……なら、これで共犯です。2人だけの秘密ですね♪ ふふふ……」
「…………」
いや、笑えないんだけどティスリさんや。あなたアイリス嬢が心配じゃないのかね?
「ですが、お嬢様を心配してます。これは本当ですよ」
おっと……心の声が漏れていたのだろうか? ティスリさんがピンポイントな発言をしてきたぞ。
「私はお嬢様が小さい頃から見守ってきました。失礼かもですけど、妹の様に思ってるつもりです」
「だったら……あんな形でアイリス様の負けを言い渡さなきゃよかったじゃないですか? 適当な理由で僕を負けにすれば……」
「ダメですよ。お嬢様が大切なので彼女には真摯に応えないと……彼女が私に立会人を求めたのなら、それを全力でまっとうしなくてはお嬢様に失礼ですから」
「…………」
「でも、お嬢様を変な方だと勘違いしないでください。彼女はあれでとても人思いなんです。今回の決闘も……病気で遠くに行ってしまった奥様を思っての行動なんです」
「……え」
「あの、ラストダンジョンの最上階に登ると願いが叶うとは聞いたことありますよね?」
「まぁ……」
「お嬢様、あれを真剣に信じてて、願いを叶えるんだって……奮闘してるんです」
「…………」
「あなたを私のモノにすると言ったのも、本当はあなたの能力に希望を見出したからなんです。ウィリア様は珍しい能力を使うそうですね。あんなに楽しそうに他人の話をするお嬢様初めてでしたよ」
なんてこと……アイリス様はそんなにも健気に……全ては病気で遠くに行ったお母さんのためだったなんて……あら、涙が出ちゃう。
と、そんな冗談はどうだっていい。僕の涙は枯れてるんだ。
で、なんで僕はこんな話を聞かされているんだ。これでどうしろって言うんだ。
「あのぉ……話はわかりました。で、それで彼女をどうしたら……」
「う〜〜ん、と……可愛がってあげてください♪」
「おい、冗談も大概にしろよ。心配する侍女から出る言葉じゃねぇ〜ぞ?」
「……テヘ♪」
「おいおい、それで誤魔化せると思ったら大間違いだぞ!」
結局、メイドと話しても何も解決にならん。正直、もうここだけで解決する問題ではないぞ。
どうするんだこれ?
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