第28話 あなたの負けです

「2人とも勝負はそこまでです」



 勝負に割り込んだのはアイリスのメイドだ。確かティスリさんとか言ったか? 立会人を買って出た人だが……しっかりとその役目を果たしてくれたぞ。ナイスタイミングで止めてくれた。我儘を言うならもうちょっと早く止めて欲しかった。だってふわっとだよ……足の風圧が僕に届いてるんだから。


 ところでお嬢様? 足早く閉じたら? はしたないよ??


 まぁいいや。君がそれでいいんだったらさ。

 

 てか……


 そうでしょう? やっぱり、決闘は終了でしょう?!


 互いに武器を失ったんだから、勝負はそこまでだって。



「ちょっと、ティスリ! なんで止めるの! 勝負は終わってない——私はまだ戦えるわよ!!」



 だってのに……おいおい、この令嬢まだ戦う気なのかよ。不満タラタラでメイドの元までズカズカ歩む。

 はぁぁ……まったく、どんだけ血気盛んなんだか。こういうのはなんて言うの? バトルジャンキー?? 絶対お近づきになりたくないランキング堂々一位にノミネートだよ。あ? これ、僕の自論ランキングね。てか、バトルジャンキー好きな奴っているのか?



「ダメです。お嬢様……」



 そうだ! そうだ! 


 ダメです! ダメです! ダメダメだぁ〜〜!!


 互いに武器を失ったのだから、決闘は終了。やっぱり剣を失うことには意味があったんだよぉ〜僕の予想通り。


 ティスリさん! 言っておしまい!!


 お嬢様の心をへし折ってやるのよ!!



「この勝負……残念ながら、お嬢様の負けです」


「……は?」



 ……は?



「「——ッはぁああああああ!!??」」



 ——ッちょ、ちょっと待ってくれ——どういうことだ!?



「——どういうことよ!? ティスリ! 何言ってるの??」



 そうだ! そうだ! 何言ってるんだ!?



「お嬢様。落ち着いてください」


「私は落ち着いてるわよ! むしろ、変なのはティスリでしょう? なんで私の『負け』だって……?」


「剣が折れてしまったからです」


「……へぇえ?」



 ……へぇえ? どういうことだ!?



「剣とは騎士の誇りと象徴です。それは騎士だけじゃない。貴族も同じです。お嬢様もこれは知ってますね」


「当然よ! 知ってるわ!! それがなに!!」


「お嬢様の剣は折れてしまった」


「——ッ!?」


「これは、象徴が砕かれたと同義です。お嬢様は知らないでしょうが……かつて、正式な決闘の場で剣が砕かれ勝負を決する場合がございました。あなたのお父様の経験です。その時は運が悪かったとしか言いようがなかったのですが……あなたのお父様は潔く『負け』を認めていらしゃいましたよ」


「……うそ、でしょう……」



 あら嫌だ。そんな過去がお父様にあったのね? アイリス様ったら膝から崩れ落ちちゃって……相当ショックだったみたい。

 でも、ダメよ。諦めたらダメ! めげずに前を向いて生き続けるのよ!!



 ネバーギブアップ♪



 ——ッじゃなくてぇええ!!



 どうするのこれ? じゃあなんだ。これ……僕の『勝ち』ってことか?! 『引き分け』は——!!

 いやいやいや……これは些か無理があるだろう? だって、僕の『誇り』バイ〜ンってどこか飛んでっちゃったよ。なんなら『誇り』なくしちゃいましたよ? これは恥でないと? 

 いや『誇り』は大切だと思うけどさ? 『誇り』素晴らしい理念だ。しかしだよ……戦場では『誇り』なんて無意味でしょう。んなもん、履いて捨てるかの様にぶち壊してくれるのが戦場だ!!


 まぁ……知らんけども……これ、冒険譚の受け売り!


 だから、諦めるなアイリス嬢! 君のヒステリックモードで見せた元気はどこへいったんだ!!


 今すぐメイドを屈服させて勝利宣言……じゃなくて、引き分け宣言をするんだ!!


 お願いだからぁああ!!



「……ッ」



 だから、そんな目の光を消して絶望して僕を見つめないでくれよ。



 彼女は一瞬震えたかと思うと、立ち上がって僕を見た。この時のアイリスの顔色は驚くほど真っ白で……目は希望を見失い、輝きはせている。



 この時——凄く嫌な思いを抱えた。



 なんだよ……これ?



「——ッ!?」



 アイリスは、僕の前までくると膝をつく。


 そして……



「……私の負けです。——何なりとご命令くださいませ」



 この言葉を小声で口にする。



 どうして……



 どうしてこうも……



 面倒くさい。





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