第13話 やっちまったぁああ!!

 以前、『夢境』で神器『虚と影』の発動技【虚影】を見せたと思うが、アレは結局魔法ではないんだ。まぁ、一定の魔力は使うし、発動する事象は魔法っぽいんだけどね。

 ああいう神器を介して発動する技は、魔力を消費する技で略して【魔技マギ】と呼ばれる。瞬間移動というトリッキーな事象はとても驚異的だが……結局は発動は神器ありきなモノであり、魔法のように個人プレイの技は今の僕には扱えない。それこそ、僕自身のレベルを上げなきゃね。元も子もないんだ。

 よく考えてみれば、アイリス嬢の見せてくれた【抜刀『焔』】は、武器を介した技だから、【魔技】だと言っても過言じゃなかったのかもしれない。

 

 で——今、僕が何をしようとしてるかだが……


 先ほど、2人の見せてくれた魔法モドキにとてもいいヒントが隠れている。


 まずナメクジ君の放出だが……


 僕は魔法が使えない代わりに、生徒の中でも軍を抜いて膨大な魔力量がある。


 え——!? どこに!!


 と聞かれれば、神器の中にである。


 なら、僕はその魔力を僕自信の身体を通して放出してみればいい。これなら別に神器を顕現させなくとも再現はできると思う。


 で——次にアイリス嬢の見せてくれた圧縮。


 彼女は剣の鞘の中で、魔力を圧縮し、刀身で蓋をする形で炎の威力を溜めていた。アレも実に良いヒントになる。まぁ、僕は彼女みたいに蓋のできる武器を持っていないので100%の真似はこの場ではできないが……僕の内には、しっかりとその代わりが存在する。


 もう、お分かりだと思うが……神器である。

 

 アレは言ってみれば魔力の貯蔵庫だ。なら僕はその貯蔵庫内で魔力を圧縮し、放出すれば、形を維持した魔力球を撃ち出す事が可能なのではないかと考えたのだよ。

 しかし、あくまでこれは魔力を固めて撃ち出すだけで、魔法と呼べるシロモノとはいかないだろう。

 精々、人を弾き飛ばす程度の威力にしかならんと思う。

 だけど、今はそれでいい。あくまで『魔法のようなモノ』を披露するのが今授業なんだから。


 では、そうと決まれば……早速……


 ギュッとやって、スルッとして、ババッとやってギュバン——しますか?



「——ッギュバァ〜ン」



 別に声を出す必要はないが、取り敢えずポーズだけは取っておこう。魔法初心者っぽい振る舞いになりそうだし。僕にはうってつけだ。

 僕は手を前に突き出した。そこから、掛け声と共に……『ポンッ』と黒い球体が出現する。『影』の魔力球だ。

 ちなみにだが……この時、僕は手加減して魔力を放出している。間違ってもナメクジ君やアイリス嬢に勝る威力を叩き出すわけにもいかないからね。

 フワフワと飛んでいって……パチンッと鎧の表面で弾けるシャボン玉ぐらいのイメージが最高かな?

 別に『しょぼwww』と笑ってくれていいさ。それが、僕のベストなんだから。しみったれたクソガキにはちょうどいい評価だろうしね。



「何アレ? 黒い球? 魔法なのアレ?」

「ゆっくり飛んでるな。アレ、的に届くの?」

「なんかダサくね」



 はい……適切な評価をいただきました。狙い通り——生徒の反応もすこぶる良好だ。

 ここまでは僕の想像通り——あとはこのまま鎧の表面で魔力球が『パチン』と消滅してくれれば……



「てか、今更だけど……あの的にしてる青い鎧ってなんなの?」

「お前知らねぇ〜の? 青魔法石だよ。青魔法石の鎧! アイリス様の剣と色が同じだろ」



 ん?! ちょっと待て……そこの男子生徒君。今、なんて……?



 青魔法石!? まずい——!!



 と……思った時にはすでに遅かった。

 魔力球は既に打ち出された後。ここからあれを打ち消すすべは僕には残されていなかった。


 賽は投げられている。


 補足——青魔法石とは、鉱石の一種なんだが、正体は魔力の塊だ。


 そして、僕の持つ魔力の属性『影』だが……性質の一部にする効果がある。


 つまり……



——ガボォオオオーーーン!!!!



「「「「「——ッッッ!!??」」」」」



 僕の魔力球は鎧を貫通した。


 鎧の腹部を丸くくり抜き、断面はヒビ1つ無し。奥の景色がこれ見よがしに『こんにちは!』してしまっている。


 今——何が起きたのか?


 僕の魔力球が、鎧の材質を溶かして貫通してしまったのだ。

 側から見ると魔法で破壊した印象を与えるだろう。



「——ウィリア君? アナタ……魔法の才覚があります!!」

 


 この場で喜んでいるのはフェル先生だけだ。

 あとの生徒は、沈黙して訝しむ視線を向ける。その全てが僕に突き刺さる。



「——グググ〜〜!!」



 そして、ナメクジ君は敵視に染まる殺意の視線を向け。



「…………」



 アイリス嬢は目を細めてジトォ〜〜とこちらを見ている。


 

「——は、ははは……」


 

 もう、乾いた笑いをこぼすことしかできなかったよ。僕は……



 ははは……



 はぁ……



 ……や……やっちまったぁああ!!

 

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