魔王と勇者と幹部共⑪
ロルデウスのテストを無事終えた(?)エリスは、続いてガルゼブブのテストを受けることになったのだが、そのテスト内容は特筆することのない『祈りを捧げる』という至ってシンプルなものだった。
案の定仕事の何に使うのかはさっぱりわからない。
光魔ガルゼブブは『奇跡』の魔法が使えるためらしいといえばらしいのだが、そもそも腑に落ちないところもある。
『奇跡』を使うには神の寵愛を賜らなければならず、神の子である人族と敵対している魔族には本来使えるわけがないのだ。
それを普通に使えているというのは何かうまい抜け道でもあるのか、それとも全く別の神を信仰でもしているのか――聞いても『それだけはご勘弁を』と言ってどうしても教えてくれないので、本当、ガルゼブブには謎が多い。
ともあれ、なんだかんだで三人のテストを突破したエリスは、ついに最後のルルヴィゴールのテストを受けることになった。
ロルデウスの時と同じく俺は立ち合いを断られてしまったため、透明化して見守ることに。
来るなと言われた時点で既に嫌な予感は膨れ上がっていたのだが、再び俺の部屋の前に来た時その予感はすぐ確信に変わった。
幹部達は俺の部屋に何か恨みでもあるのだろうか。
エリスの前に仁王立ちすると、ルルヴィゴールは淡々と告げる。
「エリィ。先程は魔王様の手前ああ言いましたが、この際はっきり言いましょう。あなたが魔王城で働くのは無理です。特に、魔王様と二人きりでお茶しようなどと言う邪な考えを持っているあなたには」
まだお茶の話引きずってんのか。
さすがに心狭すぎない?
改めて敵意を向けられ顔を強張らせるエリスだったが、引こうとはせず、まっすぐにルルヴィゴールの目を見つめ返す。まるでやってみなきゃわからないとでも言うかのように。
普段の穏やかなエリスからするとかなり好戦的に見えるが、何がエリスをここまで奮い立たせているのだろうか。
そんなエリスをつまらなそうに眺めながらルルヴィゴールは続けた。
「とはいえ、一方的に無理だと言われるだけでは納得いかないのもわかります。ですので、その理由をこれからじっくりとわからせてあげましょう」
そう言うなり、ルルヴィゴールはおもむろに部屋のドアノブの鍵穴に右手の人差し指を押し当てた。
すると、指が見る見るうちに真っ白な雪へと変わっていき、ずぶずぶと鍵穴に吸い込まれていく。
穴に入った雪を氷にしてから手をぐるんと左に回転させると、ガチャリという音と共に鍵が開いた。
それにしても凄い自然に開けたな。
初犯でないのは間違いないだろう。
さっき(ロルデウス)のことがあったばかりなのに、また同じようなことをしようとしている幹部を見てエリスは何を思うのか。
『こいつらなんでやたらと魔王の部屋に無断で侵入しようとしてんだろう……』とか思われてるんだろうな。
身内の恥を晒すようでなんとも恥ずかしい限りだ……。
「あの、勝手に入っていいんでしょうか……?」
「エリィ。魔王様にお仕えする上で最も大切なことは何だと思いますか?」
答えなさいよ。
「大切なこと……ご指示どおりに物事をこなすこと、でしょうか」
「それは当然のことです。わざわざ聞くようなことではありません」
その当然のことが出来てない奴が何を言っているんだろう。
「魔王様のお考えを推測し、何をすればお役に立てるのかを自ら考え、そして速やかに実行に移す。それが魔王様に仕える上で何よりも大切な事です。言われたことにただ従っているだけでは成長につながりませんからね」
「推測し、考え、実行する……」
俺の役に立つ云々は置いておくとして、仕事をするうえでの心構え的にはとても素晴らしいものだと思う――のだが、ルルヴィゴールが言うとどうにも薄っぺらく聞こえて仕方ない。
多分いつも推測する時点で間違ってるからだろうな。一生懸命なのはわかるが。
「それではエリィ。部屋の中に入り、あなたがここで何をすべきか考えてみてください」
「え?それは、ええっと……」
躊躇うエリスに、ルルヴィゴールはにやりと笑う。
「どうしました?入らないのならテストは失格にしますよ?」
発想がロルデウスと全く一緒なんだよなぁ……。
年齢的にはルルヴィゴールの方が圧倒的に上のはずなんだが。
「わ、わかりました」
そう言うと、エリスは部屋の中に恐る恐る足を踏み入れる。
ちなみに、こんなこともあろうかと(普通ならありえないのだが)、ついさっきエリスには事前に俺の部屋を含めたどの部屋にも立ち入っていいと許可を出していた。
エリスなら悪さは絶対にしないだろうしな。
それに、俺の部屋に置いてあるのは本棚にベッド、ベッド脇のサイドテーブルくらいのものなので、見られたところで困りもしない。
一応寝室なので恥ずかしくないといえば噓になるが……まぁエリスだしな。
「お掃除、とか……?」
エリスがおずおず聞いてみると、ルルヴィゴールは意外にも相好を崩して満足気に頷いた。
「あら、よくわかっているじゃありませんか。そうです。魔王様がお休みになられる部屋が汚いなどあってはなりません。髪の毛の一本一本、切った爪の一つ一つ、指紋の一個一個に至るまで決して見逃してはなりません」
俺自身小まめに掃除するほうだが、やたらゴミが出ないなと思っていたら勝手に掃除されてたのか……。
ありがたいやら怖いやら。
そう言えばさっきロルデウスが部屋でお菓子を食べていたと言っていたが、なるほど、欠片一つなかったのはルルヴィゴールが掃除していたからだったんだな――いや何この気付きいる?
勝手に散らかされたものを勝手に掃除されただけじゃねぇか。
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