魔王と勇者と幹部共⑥

 テストの内容は幹部それぞれが働くにあたって必要だと思うものを実施する形となった。

 デルゼファー、ロルデウス、ガルゼブブ、そして最後にルルヴィゴールの順番だ。

 正直心配しかない。


 一人目のデルゼファーのテストは屋外で実施するようで、高くそびえる山々が一望できる平原に足を運んだ。


「っしゃあ!まずはオレからだなぁ!」 


「はい!お願いします!」


「お、元気いいじゃあねぇか!まるで王国騎士団の発声練習みたいな感じだぜ!」


「え!?あ、そ、そうなんですねー!」


 感じと言うかまさに王国騎士団のそれなんだが。

 鋭いんだか鈍いんだか……。


 デルゼファーは筋肉質な外見のとおりばりばりの体育会系。

 わざわざ外に連れ出したという事は、身体を動かす系のテスト――運動能力を計るものなどになると思われるが、果たして何をするつもりなのか。


 ちなみにここにいるのは俺とエリス、そしてデルゼファーのみ。

 他の三人は後のテストの準備に行っているため不在だ。


 自分よりも三回り以上小さいエリスを見下ろしながら、デルゼファーは快活に言った。


「オレのテストは単純明快!魔王様への忠義を見せてもらうってなもんだぜ!」


 初っ端から仕事とは全く関係ないものを放り込んできたな……。

 そもそも初見の相手に求めるものじゃないだろうに。


「忠義、ですか?」


「そうだ!忠義だ!と言ってもどうすればいいかわからねぇだろう!だからまずはオレが手本を見せる!早速行くぜ!」


 そう言うなり、デルゼファーは息を吐き出すと、端から見ても肺が膨らんでいるのがわかるくらいに大きく息を吸い込んだ。

 そして――。


『魔王様のお力は世界一ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!オイェッ!』


 やだ、すっごい恥ずかしい……。


 デルゼファーの耳を塞ぎたくなるほどの大声が大気を震わせさせながら彼方へと消えていくと、すぐに『ドドドドド……』と地響きが聞こえてきて、見えている山々が次々と噴火を始めた。

 声に魔力を乗せることで火山を活性化させたのだろう。


 噴火によって弾き出された火山弾が辺り一帯に降り注ぎ、俺達がいるところにもこぶし大のものから抱える程大きなものまで物凄い速さで飛んで来る。

 するとデルゼファーは、飛んできたものと同じ大きさの火球を作り出して次々に撃ち落としていった。


 完全に相殺させるには火球の大きさ、打ち込む速度、投るタイミング等、相当な精密さが求められるはずだが、デルゼファーはその全てを難なくこなして見せる。

 さすがに火魔法の取扱いについては火魔と呼ばれているだけはあるといったところか。


 結局俺達が被弾することは一度もなく、しばらくして噴火が収まると、デルゼファーは額の汗を拭いながらエリスにサムズアップして見せた。


「これが忠義だぜッ!」


 どれだよ。


 いや、そんなことよりも魔力を持たない人族に一体何を求めてるんだデルゼファーは。

 火山噴火させるのも火山弾撃ち落とすのも無理に決まってるだろうが。


 さすがのエリスもどうにもならないと落ち込んで――。


「すごい!すごいですデルゼファーさん!」


 ――はおらず、普通に喜んでいた。

 そりゃそうか。エリスだもんな。


「そ、そうか?だはははは!嬉しいねぇ!これ見た奴らは大抵びびって逃げ出しちまうんだが、エリィはよぉくわかってるじゃあねぇか!ちなみに俺はこのトレーニングを毎日三回、多い日には五回やっているんだぜ!」


 一体何をやっているんだ……。

 いや、魔法の練習をすることについては大いに結構だが、俺の名前を叫ぶのはやめなさいよ恥ずかしいから。


「よぉし!じゃあ早速やってみろ!」


 デルゼファーの無茶ぶりを聞いたエリスは俺にちらりと視線を寄越す。

 そして、自分の口を指さしてから山の方へと向け、手をぐーぱーと開いて見せたあと、剣を振るような仕草をした。


 なるほど。

 エリスが叫んだあと、俺が火山を噴火させ、飛んできた火山弾を剣で弾いてみせるということか。

 確かにエリスの剣技なら弾き返すこともできないことはないだろうが、エリスは今剣を持っていない。

 一体どうするつもりなのか――。


 そんな俺の心配をよそに山の方を向いたエリスは、両手を口に添えて大きな声を出した。


「ガロンさーん!いつも助けてくれて、ありがとうございまーす!」


「っ!?」


 ま、まずい……!泣く……!


 い、いや違う、泣いている場合じゃない。

 作戦どおり火山を噴火させなければ……。


 デルゼファーにバレないように地面を伝って火山に魔力を流し込む――が、エリスの言葉を聞いて情緒が不安定になっていたせいか流す魔力の量を間違えて十倍くらいにしてしまった。

 やっちゃった……。


 当然、そんなことをすればどうなるかは火を見るよりも――いや、火山を見るよりも明らかだった。

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