青春と不安は紙一重

関ケ原 しらす

第1話 入学の奇跡

あの時、ほんと少しの出会いで高校生活が色づいた。


◇◇◇◇


高校の入学式前の夜。

着信音を小さく響かせ街を歩いている少女がいた。

彼女の名は如月 小梅きさらぎ こうめ

明日地元の、底辺高のТ高に入学する予定だ。

本来ならこれから始まる、高校生活に胸を踊らすことも出来ない。

小梅は未来が見えなくなりながら、暗い街を歩いていた。

すると「君、つけられてるよ」と暗闇を打ち消すような、明るい青年の声が聞こえたと思うと、腕を優しく掴まれた。

「誰…?」小梅は腕を振り払おうとした。「ごめん。怪しいかもだけど、それより後ろ…自分の危険を感じて」青年の言葉に小梅は後ろを少し見ると、人影を見つけた。

「とりあえず、こっち来て。ここは暗いから」青年は小梅の手を優しく引き、明るい所まで連れて行ってくれた。

「なにしんの?あんな暗い所で」改めて聞かれ、小梅は青年を見上げた。

青年は、明るめの茶髪で耳にはピアスが光っていた。そして、切れ長の目に整った鼻。小梅に明るい笑みを浮かべていた。

年齢的には、小梅と同じくらいだろう。

「聞いてる?」青年は小梅の顔を覗くように見つめた。

小梅は目線を逸らし「ちょっとした徘徊。学生にありがちなこと」と答え少し笑った。

すると、また着信音が鳴った。

「着信音鳴ってるよ?親が心配してるんじゃない?」青年の問いかけに小梅は首を振った。

「別に大丈夫。」小梅はスマホの電源を切った。

「なにかあった?」青年はフェンスに腰掛けた。

小梅は少し青年を見つめ「…高校に入ったのを機に陸上ができなくなったの」とポツリと呟いた。

「陸上?」聞き返され小梅は少し頷いた。「100mやってたんだけど、高校で一人暮らしするのと家のためにもプロを目指すのは辞めようと思って。」小梅は少し笑った。

「可笑しいよね。陸上に未練残さないように、陸上部が無い高校選んだのに」小梅はその場にしゃがみ、膝に顔を埋めた。

青年は黙って小梅の腰を摩った。

「絶対辛いよな。俺もサッカーでプロ目指してるけどさ、もしできなくなるって考えたらすげぇ怖い」青年の言葉に小梅は少し顔を上げた。

「でも、前を向くのを諦めるな。」青年の言葉に小梅はただ頷くだけだった。

「とりあえず。家まで送っていくよ。」青年は眩しい笑を浮かべた。

「ありがとう。」小梅は少し微笑んだ。

「そう言えば、名前は?」「如月小梅。」「小梅か。俺は楠木優也くすのき ゆうや

小梅の未来が少し見えたような気がした。


◇◇◇◇


次の日、小梅は鏡の前で新しい制服を確認した。

Т高の制服はYシャツに赤いリボン。紺色のスカートといった、よくある制服だ。

次に髪を解いた。

高校に入学する前、毛先だけ紅く染めた髪を今度は、インナーカラーにし、前髪も染めた。

そして、ピアスの数も両耳合わせると20個になった。

派手すぎると言われるかもしれないが、入学先は地元でも有名な底辺校。一応派手くらいがちょうどいいと思っていた。

「行かなくちゃ」小梅はカバンを持つとアパートの部屋を出た。

ちなみに、アパートは1LDKだ。


◇◇◇◇


「えっと、私はE組かな?」小梅は張り出されていた名簿を確認すると、地図を手に教室に向かった。


◇◇◇◇


教室に入ると目を丸くした。

小梅が座る席の後ろに見覚えがある人影があった。

「楠木君?」小梅は思わず声をかけた。

裕也は目を丸くし「小梅?!」と声を上げた。

すると周りがジロジロと見出し、小梅は少し頭を下げ席に座った。

「同じ高校だったんだ。」裕也はまだ信じられないと言う目をしていた。

「しかも、同じクラス。すごいね」小梅はふふっと笑った。

「小梅。昨日ちゃんと見えなかったけど、髪とかピアスすげぇな」「高校になって、ピアス増やしたの。髪も染める範囲増やした」小梅は少し自分の髪に触れた。

「なんか、昨日より明るくなったな。」裕也は小梅に優しく微笑んだ。「楠木君の言葉あれから考えたの。私もう1つ好きなことがあるから。そっちを極めようと思って。それに走るのは辞めないから」小梅はふふっと笑みが零れた。

裕也もははっと笑った。

高校生活が色づきそうだ。

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