最幸福の限界値
倉予 入琉
来福
私の中で大切にしていること、譲れない信条がある。
朝、起床してすぐにカーテンを開けること。熱があっても、体の節々が痛んでも、そこが自分の家である限りは絶対。
朝ごはんは絶対に自分で作ること。
コーヒーを淹れ、買い置きのパンでBLTサンドウィッチを作る。一日の始まりは絶対大切にしたい。
「信条」の割合半分は、始まりに傾倒している。
流す音楽から、見える景色、大きく皴のないベッド、鼻腔に一番に入る匂い。
すべてが私の管理下になくては気が済まない。
だから想定外は論外。
例えば、頭に響く大きな着信音。なるべく朝から外的刺激を受けたくない私に、十分すぎるダメージを負わせるバイブレーション。
例えば、頑張って出た電話の内容で頭を真っ白に染められること。
高校卒業後、一人で生活を送り、ルーティンが確立した二年間史上最悪が来た朝。
二〇二四年 五月 十日、親友が死んだ。
煙草を吸い続け、最後の一服まで済ませてから死んだのか、そんなことが無性に気になった。
彼氏でも何でもない。ただひたすら仲の良かった男だった。ただ一年、叶わない恋を捧げた親友の人生は、成人を迎えることなく幕を下ろした。
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稜の好きだった小説を書こうと思う。
これを、容量の悪い私からの、せめてもの供物とする。
ゆっくり人生でも、始めようと思ったときが来たら、その時は良ければ読んでくれ。
何者でもない君の親友の二年を。
最幸福の限界値 倉予 入琉 @nonnames
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