俺の恋人はやみかわいい

九戸政景

本文

「……きて、ねえ……」

「ん……」



 そんな可愛らしい声を聞いて俺は目を覚ました。目を開けると、そこには俺の恋人の先斗ぽんと都古みやこがいた。部屋には鍵をかけておいたはずなのに。



「あ、起きてくれたね。いつき



 都古は嬉しそうに言う。明るい雰囲気で中性的な顔立ち、そしてサラサラした青い前髪が綺麗で華奢な体格の都古は今日も可愛かった。



「おはよう、都古。今日も鍵をかけておいたはずだけど?」

「そんなの当然ピッキングしたに決まってるじゃないか。新しい鍵にしたようだけど、こんなのちょちょいのちょいだよ」

「そうだろうな」

「さて、本題に入ろうか……」



 都古は怖い顔をする。そして俺の携帯を手に取ると、電話帳が表示された画面を見せてきた。そこには昨夜はあったはずの異性の連絡先が全て消えていた。



「ダメじゃないか。ボクというものがありながら女の子と連絡先を交換するなんて」

「必要だったんだから仕方ないだろ」

「君にはボクだけいればいいんだよ? 恋人のボクだけがいれば……」

「そうもいかないだろ。世界は俺達だけじゃないんだから」

「ボク達だけでいいのに……まあ消したからそれはいいんだけどさ」



 都古の表情は今にも泣き出しそうなものに変わった。



「樹、どうしよう……! 女の子の連絡先を消してたら他の連絡先も間違えて消しちゃったよぉ……!」

「あー……どうりで何人かいないと思ったよ」

「ごめんね、樹。本当にごめん……!」

「いいよ、こうなると思ってバックアップは取ってるからさ」

「いづきぃ……!」

「それより飯にするか。データを戻すのは後でもいいしさ」



 その瞬間、都古の目がキラリと光る。



「ご飯ならもうボクが作ってあるよ。君への愛情たっぷりのご飯をね」

「おお、それは助かる」

「ふふ、愛する君のためにいーーっぱい愛情をこめてあげたんだよ?」

「愛情と一緒に今日も何か入れたんじゃないか?」

「ふふ、それはどうだろうね……?」



 都古の目には狂気のような物が宿ってるように見えたが、いつもの事なので俺は気にせずに都古と一緒にリビングに行った。すると、そこにはホカホカと湯気を上げる茶碗に山盛りのご飯とこんがりと焼けた鮭、そして美味そうな香りを漂わせる味噌汁にほうれん草の煮浸し、ひじきの煮物まであった。



「おお、今日も美味そうだな」

「そうでしょ? さあ、早く食べてよ。さあ、さあさあ!」

「そう急かすなよ」



 俺は椅子に座ると、いただきますと言ってから味噌汁を口にした。しかし、その味に俺は思わず咳き込んでしまった。



「ごほっ……! あ、あまっ……!?」

「え、甘い? どれどれ……」



 都古は俺が口をつけたところに口をつけて飲み始める。そして驚いた顔をしてから同じように咳き込んだ。



「ごほっ、ごほっ……ほ、ほんとだ。どうして……?」

「都古さ、たしかお前の家では塩を初めに入れるんだったよな?」

「そうだよ。その方が具が早く煮えるから……あ!」

「たぶん、塩じゃなく砂糖を間違って入れたんだよ」

「ご、ごめん……! ボク、また間違って……!」

「このくらい良いって。今から味を調整すればなんとかなるからな」

「いづきぃ……!」



 涙目の都古は可愛かった。因みに、他のメニューも味がおかしかったりしたのでその度に都古が謝ってきたが、本当に慣れているから問題ないと思っている。何故なら、都古はちょっとヤンデレ気質なところもあるドがつく程のポンコツなのだから。


 出会った時から都古はこういう奴で、そういうところに惚れたと言っても過言ではない。だからこそ、そこも都古の魅力なのだ。


 そしてその後も都古は見事なまでにポンコツ具合を発揮し、その日の夜、正式に泊まりに来た都古は本当に落ち込んだ様子でため息をついた。



「はあ……今日もうまくいかなかったなぁ」

「そういう日もあるって。ほら、慰めてやるからさ。脱げよ、都古」

「樹……うん」



 都古は顔を軽く赤らめながら脱ぎ始め、俺も同時に脱ぎ始める。そして窓から差し込む月明かりに期待の視線を向ける都古の顔と薄い胸板、そして怒張する都古の欲望の塊が照らされ、俺はその大きさに思わず笑ってしまった。



「はは、ほんとお前には驚かされるよな」

「樹さ……いつも思うけど、ボクが恋人で本当に良いの? 独占欲強いし、失敗続きだし……樹と同じ“男”だし……」

「自分が男を好きになった時は色々悩んだけど、今は都古が恋人でよかったと思ってるよ。お前の独占欲が強くてポンコツ、だけど精いっぱい頑張ってくれる努力家で優しいところは好きだからな」

「樹……」

「それに……」



 俺は都古に口づけをする。



「お前の床上手な一面を知ったら、女になんてなびかないって」

「樹……ボク、嬉しいよ」

「さあ、都古」

「うん、樹」



 そして俺達は今夜もお互いを求めて愛し合った。世の中には俺達のような関係を気持ち悪いとか都古を異常者だとか言う奴はいるだろう。だけど、これだけはたしかだ。都古はポンコツ病み可愛い。

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俺の恋人はやみかわいい 九戸政景 @2012712

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