鉄砲玉は止まらない


 「・・・無理だろこれ・・・」


 「クリアさせる気無いな」


 「まだ、通行止めのエリアってことなんでしょうか?」


 

 全滅した俺達三人は〈工場〉エリアのロビーににリスポーンしていた。

 あの後さらに二回程、再挑戦してみたが、あの〈宇宙戦艦〉を突破できる足がかりは掴めていない。

 今は、〈セントラルタウン〉の町中にある個室のある酒場で小休止中だ。

 

 「問題なのは、戦闘開始時の敵との距離と砲撃の射程だ」


 むこうは最初っから最適な位置を陣取ってバカスカ好き勝手に撃ち放題なのだ。

 そんな砲撃の雨の中をプレイヤー側は進まなければならない。


 「あぁ、近づけないんじゃどうにもならねえ」


 「狙撃も効果無かったですもんね・・・すいません・・・」


 〈ジード・フリート〉の装備を変更して、実際に狙撃を試した〈ジーク〉が申し訳なさそうに言う。


 「〈ジーク〉のせいじゃねえよ」


 「狙撃したら明らかに優先的に狙われ出したもんな、大したダメージにもなって無さそうだったし・・・」


 「・・・〈リアルプラモ〉の狙撃銃なら有効打を与えられないんでしょうか?」


 「・・・確かに〈ゲーム内機体〉の奴より高威力な狙撃銃は作れるだろうが・・・」


 「あの砲撃の雨の中で、正確な狙撃を何回もできるとは思えないな・・・」


 狙撃が得意な仲間がいれば話は変ってくるだろうが、俺達は三人共、近・中距離を得意とする白兵戦向きの機体を使っている。


 「ロボ・・・お前、実は狙撃得意だったりしねえ?」


 「できなくはねえが・・・、見た感じ〈ジーク〉の方が上手かったな・・・」


 「使っかえ・・・ゲフン、ゲフン・・・」


 「・・・おいコラ、言いたいことがあるなら聞いてやるぜ?」


 「使えねー」


 「ブチのめす!!」


 軍服幼女と白スーツの女ギャングが取っ組み合いの喧嘩を始めるが、すでに〈ジーク〉は慣れてしまったのか、気にせず話を続ける。


 ちょっと寂しい・・・。


 「うーん・・・やっぱり、通行止めの線が濃厚でしょうか?」


 「あぁ・・・!そう・・・!かもなぁ!」


 「だがぁ!狙撃銃でぇ・・・!ダメ入った・・・!んなら・・・!倒すことは可能・・・!」


 〈ジーク〉が言っている通行止めとは、暗に今の状態では通ることはできない、とゲーム側からはじかれているということだ。


 要はレベル10のプレイヤーが通る道にレベル100の敵を配置することで回り道を強要しているというもの。

 

 「・・・水中で戦闘するには水中に適した装備が求められる様に、〈宇宙〉のエリアで動くには必要な物があるんじゃないでしょうか?」


 現状、足りない物があるから、あの敵は突破できない様になっているという考え方。

 もっともだ。


 だが、


 「でぇい!乳を掴むな変態がぁ!!」


 「ぐあ!!」


 取っ組み合いの喧嘩で軍服幼女を蹴り飛ばす女ギャング。

 絵面がやべえけど気にしない方向で・・・。


 「・・・はぁ、はぁ・・・!確かに、その線はあるかもしれないが、にしては中途半端だ」


 「中途半端・・・ですか?」


 「狙撃でダメージが通っただろ?倒せない敵として配置するならダメージは通らない様に設定するんじゃないか?」


 「・・・つまり、プレイヤーが挑むことは前提にされている・・・と?」


 「少なくとも、困難なだけで撃破は可能だと思う」


 現実で作ったプラモデルという、言うなれば好き勝手設定を盛れるキャラクターを認めている『バープラ』だ。

 極端な話、『一撃で敵機を消し炭にできる超兵器を搭載した機体』とかが出てしまう可能性があるのだから、本気で通行止めにしたいならダメージが通るなんて中途半端なマネはできないはず。

 だから、ダメージが通るということは倒せるエネミーであるはず、というのが俺の考えだ。


 「いや、でも・・・それって・・・」


 「言いてえことはわかる」

 

 立ち上がった〈ロボキチ〉が何かを思い出す様に言う。


 「難易度調整の仕方にも色々あるだろうが・・・ありゃぁ特に性質タチが悪いタイプだ。制作者は相当な性悪だな」


 一度目の挑戦移行にわかったことは三つ。


 ・ワープゲートの場所は一度使用すると〈廃都〉内のどこかにランダムで移動する。


 ・〈宇宙戦艦〉は逃げても、追撃をしてくる。


 ・〈宇宙戦艦〉の数は挑戦プレイヤー数に比例する。


 「・・・再挑戦にワープゲートの場所が変るってのも面倒くせえけど、パーティーメンバーを増やすと難易度が上がる仕様だもんなぁ・・・」


 そうなのだ。

 まず、二度目の挑戦の時、ワープゲートのあったビルに向ったが、そこにあったはずのワープゲートは無くなっていた。


 一度キリの挑戦か、やはりプレイヤーの挑戦は想定されていなかったのか、とも思ったが、〈廃都〉内を捜索してみると、エリアの反対側に同じような大穴の開いたビルを発見することができた。


 そこでワープゲートは一度使用すると移動する、ということが判明したのだ。


 だとすると再挑戦が面倒だ、という話になり、三人パーティーの中で二人だけゲートに入り、一人この場に残れば、『まだ全員入っていない』、『これから最後の一人が入ろうとしている』という判定になって、ワープゲートの位置を維持できるのではないか?という案が出たのだ。


 思いついた時はシステムの裏を欠く様な妙案だと思ったものだが、しかしそう甘くはなかった。

 一定時間経つとワープゲートは消滅し、階下の床が見えるただの穴になった、とはジャンケンで負けて残った〈ロボキチ〉の言。


 そして、俺と〈ジーク〉の二人で足を踏み入れた二度目の〈宇宙〉。


 情報収集と無重力空間での機体操作に慣れることを主目的としての挑戦だったが、そこにいた〈宇宙戦艦〉は三艦ではなく二艦だった。


 その時点で嫌な予感がしていたが、続く三度目の挑戦で確信してしまった。


 それなりの時間をかけて、ワープゲートを再発見し、今度は三人で〈宇宙〉エリアに向うと、現れた〈宇宙戦艦〉の数は三艦だった。

 

 思わず舌打ちが出たのは記憶に新しい。


 敵戦艦の数はプレイヤーの人数に比例する。

 それはつまり、数で押せばどうにかなる類では無いということ。

 ヘタしたら大艦隊と決戦することなる。


 「・・・とりあえず、今日はもう止めといた方が良いんじゃないでしょうか・・・〈ロボキチ〉さんのプラモを再スキャンして、スキルが使える様になってからの方が良いと思います」


 「そうだな、場合によっては〈スケルトン〉じゃなくて別のプラモを新たに用意しないとダメかもしれないし・・・」


 「ああ、じゃあ、この件は他言無用にしとこうぜ」

 

 「?別に、発表するつもりはないけど・・・?」


 〈ロボキチ〉が情報を独占しよう、的な発言をしたので、別に隠さなくても良くね?と思った俺が不思議そうにしたのを見て言葉を続ける。


 「バグだと思って誰も入らなかったゲートに、リスクを背負って飛び込んだのは俺達だぜ?あれがワープゲートだとわかった途端にほいほい入られたら腹立つだろうが」


 鉱山のカナリア役で終わるのはごめんだ、って話らしい。

 まあ、わからなくはない。


 「せめてあのクソッタレな戦艦を叩き落として、何かしらの報酬をもぎ取ってからじゃねーとな」


 「わかりました、この件は三人の秘密ということで。・・・それじゃあ、この後はどうします?もう良い時間ですし解散しますか?」


 〈ジーク〉が話をまとめて、この後どうするかを問う。


 「あー、もうそんな時間かぁ・・・悪いけど俺はこの辺で落ちるログアウトかな」

 

 すると、ロボ野郎が今日はもう寝ると言い出した。


 「え?朝まで連れ回すつもりだったんだけど?」


 「さらっと外道なこと考えてんじゃねえよ。・・・明日は予定があんだよ」


 「・・・じゃあ、僕も今日はこの辺で。ちょっと手を付けたい物もありますし・・・」


 どうやら、〈ロボキチ〉が抜けるということで〈ジーク〉も流れに乗って解散する様だ。

 まあ、仕方ない。


 「そうか、じゃあ解散だな。次いつ集まるかだけ決めようぜ」


 


 



 ・・・


 「じゃあまた」


 「おう、またな」


 「お疲れ-。・・・・・・・・・よし、行くか」


 

 


 俺は今日夜更かしするつもりで来てるからな。

 もう一戦くらいやって行くとするぜ。

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