〈スケルトン〉発進!

 「・・・クエストの説明は以上です。」


 「なるほど・・・、了解だ」


 「ただいま町の周辺にプレイヤーが大勢集まっているそうです。何が起るかわかりませんので、お気をつけて。」


 「?・・・どうも・・・?」


 細々とした準備がやっと終わり、いよいよプラモを動かして遊んでみよう!ということで、ラウンジに戻った。

 カウンターにいる受付嬢のNPCに話して、初心者向けっぽい簡単なクエストを受注したのだが・・・、何か不穏なことを言われたな?


 『プレイヤーが大勢いる』で、『何が起るかわからない』か。

 『プレイヤーが大勢いる』ってのは〈セントラルタウン〉が新規プレイヤーのスタート地点で今日がアップデート初日だからだな。


 新しく導入されたスキルシステムとかの使用を試したい古参プレイヤー、俺のようにクソゲーでは無くなったかもしれないと聞いて始めた新期プレイヤーとかがゲームの感触を確かめているのかもしれない。


 問題は『何が起きるかわからない』の部分だ。

 

 『気をつけて』って言われたし何か危険なことだろう。


 プレイヤーが多いから、気をつけろ・・・初心者狩りとかか・・・?

 ゲームを始めたばかりで慣れてないニューピーを狙ったプレイヤーキラーPK


 あり得そうなんだよなぁ・・・。


 今回のアップデートは要するに〈リアルプラモ〉に対するアッパーを行なうことでゲームバランスの調整を行なうのが目的だ。

 そうなると、〈ゲーム内機体〉を愛機として使っていた連中は面白くないだろう。


  ゲームだから、マナーとかモラルみたいなのは現実より重視されないし・・・それが良いところでもあるんだけど。

 

 ヘタしたら、同じプラモデラーが「あのプラモ気にくわない」とか言って襲いかかって来かねない・・・。


 うーん・・・、先人が初心者にゲームの『楽しさ』よりも先に『理不尽さ』を叩きつけるのは、そのコンテンツにとってマイナスでしかないのだが・・・、殴れる理由があれば殴れちゃうのがゲームという物だ。


 そして、俺は今その初心者側だ。

 まだ、〈楽しさ〉を味わったとは言えないし、このゲームに対するスタンスも決まっていない。

 

 あー、やっぱロボ野郎と日付合わせるんだったかなー・・・。


 だが、・・・・・・まあ、しょうがない。

 そういうバカは一定数いると割り切るしかないな。

 ここまで来て、一度も〈スケルトン〉を動かさないで帰るというのはさすがに無い。


 ここはオンラインゲームの中だ。

 PKされても、それは俺が足らなかったのだと呑み込もう。

 そして、足りないモノを埋めた時、襲撃者に報復をしよう。


 人の恨みを買うということは、お天道様の下を歩けなくなることだと教えてやるぜ。

 


 「よし!行くか。」


 俺は、〈出撃滑走路〉へと向う。

 そこから自機に乗って、町の外へ出られるらしい。


 普通にラウンジを出て、工場エリアを見物しながら外に出ても良いのだが、それは後で良いだろう。

 

 〈出撃滑走路〉に出て、メニューウインドウを開き、〈スケルトン〉を選択する。

 〈起動〉のボタンをタップすると、表示が二種類でた。


 操縦方法の選択だ。

 一体型と運転型の二種類だな。


 一体型は、自分の身体を動かすのと同じ感覚でプラモデルを動かせる。昆虫や美少女プラモなど操縦席が無いタイプのプラモデルは一体型でプラモを動かすことになる。メリットは単純に動かしやすいこと。デメリットは四肢の欠損などがあった時の制御が不安定になることに加えて、頭部と胸部にクリティカルダメージが入った場合、即死すること。

 

 運転型は、コックピットに入り、操縦桿やハンドルを操作してプラモデルを動かす。車やロボットなど運転席のあるプラモデルが選択できる操縦方法だ。操作には熟練やセンスが求められるが、運動神経に自信がない人間やリアルで運転技術を持っている人間からは、むしろ運転型の方が動かしやすいという意見もある。さらに、一体型にあるデメリットが軽減されるというのもあって、継戦能力が高い操縦方法だ。


 うーむ・・・、コックピットに座るのに憧れないわけはないのだが、最初は動かしやすさ優先で行くべきだろう。


 一体型を選択。


 一瞬、視界が光に包まれると、目線が高くなり景色が変った。

 手を見ると、ハンドパーツ・・・機械の手だ。


 「うお!!」


 と、思わず驚いた声を出してしまった。

 〈スケルトン〉は硝子の様な外装を纏っており、内部のフレームが視認できる。

 下を向いたことで視界に入ったのだが、胸部のコックピットに白い女ギャングが座っているのだ。


 アバターも描写するのかよ・・・。

 コックピットの位置弱点、丸わかりじゃん・・・。

 

 ポン!

 という音と共に目の前にウインドウが表示される。


 『一体型は自分の身体を動かす感覚で機体を動かすことができます!人体に存在しないパーツ(ブースターや内蔵武器)はそのパーツへ意識を向け、音声入力をすることで操作できます!やって見ましょう!』


 音声入力は暴発防止のためかな?

 まぁ、いいや。

 

 中腰になり、背中と脹脛ふくらはぎのバーニアの向きを揃える。


 「〈スケルトン〉発進する!〈ブースト〉!!」


 機体が発進するなら名乗りは当然いるよな!


 背中と足の脹脛からバーナーの様な炎と共に、猛烈な風が吹き出し、推進力へと変換され、俺は若干上昇しながら、斜め前方向に飛び出していく。


 「おぉー!!さすが、手ぶらなだけあるな!まだ全力じゃないはずなのに結構なスピードじゃないか!!お!あれが〈廃都〉エリアか?」


 やがて、街の外縁部を越えると、隆起した岩がゴツゴツと辺りに聳え立つ〈荒野〉へと着地する。


 さて・・・、上昇して、遠くの方も見えたが、〈荒野〉の先にボロボロの街が見えた。


 機体を我武者羅に動かして、あの〈廃都〉を真っ直ぐ目指すのも一興ではある。

 しかし、降り立った時点で、すでにクエストのウインドウが出てしまっているので、行くならクエストをこなしながらだな。


 クエストの内容は:暴走ドローンの討伐。

 クリア条件は:暴走した10機の監視ドローンが別のエリアへ逃走する前に破壊すること。

 〈セントラルタウン〉内の情報流失を防ぐっていうフレーバーのミッションらしい。


 『クエストを開始しますか?』

    『YES』/『NO』


 『YES』を選択。

 すると同時に、背後の〈セントラルタウン〉の外壁を飛び越える影が10機。

 マップに動く赤い点が10個現れる。


 空中を飛ぶプロペラ付きが5機!

 地面を走る6脚タイプの蜘蛛みたいなのが5機!


 「〈ブレード〉!展開!〈ブースト〉!!」


 右前腕部に内蔵された赤い光を放つエネルギーブレードを起動。

 一番近い目標に狙いを定める。

 

 「優先は空の奴からだな!!」


 飛び上がり、プロペラドローンをまずは一体斬りつける。

 ドローンはまっ二つに溶断され、爆発。


 続いて、

 

 「〈バルカン〉!!」


 胸部から、ガガガガガガガガガガッ!!!

 っと、衝撃と音が響く。


 胸部バルカンを視界に入ったプロペラドローンに放ったが、それはハズレてしまった。

 

 「バルカンはもう少し近くないとダメか・・・そんじゃあ、〈ハイ・マニューバ〉!!」


 スキルを起動し、猛スピードでプロペラドローンに接近、すれ違いざまにブレードを当て、撃破。

 そのまま、別の目標へ接近し、斬りつける。

 3機目撃破!


 ガクンっ!!と、ブースターが停止し、推進力が消える。

 〈ハイ・マニューバ〉が切れて地面へと落下を始めるが、着地先に蜘蛛型ドローンを確認した。


 「〈一刀入魂〉!!」


 叫ぶと同時にエネルギーブレードの出力が上がり、ブレードの色が赤から青へ変色する。

 ブレードを蜘蛛の背中に刺し込む。

 バガァァァァァンン!!!


 蜘蛛型ドローンは内部から弾けて爆発四散。


 「うっわ・・・、衝撃映像だろ、今の・・・。」


 ともあれ、これで残りはプロペラ2機に蜘蛛4機だ。

 この分じゃすぐクリアできるかな?


 そう思ったのが良くなかったのか。


 蜘蛛型ドローンの一機がこちらに向いて、口にあたる部分から銃口を展開する。


 「え?うそ、お前逃走中だろ?反撃あんの?」


 撃ってくる前に〈ブースト〉で・・・。

 あ、〈ハイマニューバ〉のせいで、一定時間バーニア使用不可だわ・・・。


 ガガガガガガガ!!!!


 「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ダッシュで岩場に飛び込み、回避ぃ!!!


 「危ねえぇぇぇ・・・!〈ブースト〉使えなくなるの結構、致命的だな?これ・・・」


 地面を走るのもリアルの俺よりは早い感じがしたけれど、〈ブースト〉を使用した時とは比べるべくもない。

 機動・近接特化の機体で、防御と遠距離火力捨ててるからな・・・、起動力が一時的とはいえ死ぬ〈ハイ・マニューバ〉は使い所を考える必要がありそうだ。


 視界に表示されている情報では、あと10秒でブースターが復活する。

 〈ハイ・マニューバ〉や〈一刀入魂〉はリキャストタイムで使えないが、使えずとも、ドローンごときに負ける性能はしていない。


 「まずは、あの蜘蛛から叩っ斬って・・・ん?」


 影?

 

 ふと、上を見てみると・・・プロペラドローンが銃口を展開していた。


 ・・・。

 

 ガチャ!ガガガガガガガガガ!!!!


 「おわぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!」


 10秒間逃げ回った。

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