ある者は神と呼び、ある者はクソと称した
俺、
小学生の頃から触り始めて、中学生でエアブラシとか使ってたくらいには長く続けている。
だから、明日から夏休みというタイミングで新しいプラモデルを作ろうと行きつけの店である〈エンジョウ模型店〉に寄ったのはもはや習性の様なものだった。
そこで顔見知りである40代とは思えない、眼鏡をかけた青年(に見える)店主こと
「〈バープラ〉がどうかしたんですか?」
「実は、古野君に折り入って頼みたいことがあって・・・えーと、それがね・・・?」
頼みたいこと?
この模型店は確かに行きつけと言って良いほど利用させてもらってるし、遠条さんとも知らない仲じゃないけれど、これまで、あくまでも客と店員という関係を崩さなかった遠条さんが頼み事?
「何だって言うんです?」
どこか言いづらそうにしている遠条さんを見るに不本意なことではあるっぽい。
無茶ぶりをする人ではないとわかっているので、俺がやろうと思えばできることではあるのだろうと、続きを促した。
「実は〈バープラ〉を始めてほしいんだ。」
「・・・〈バープラ〉を?」
言いづらそうにしていたのだけは納得できた。
プラモデルという物は主に『鑑賞』する物だ。
作る楽しみだったり、可動部位を動かして遊んだりと、そういった楽しみもあるにはあるが、最終的には『鑑賞』に行き着く趣味であると思う。
そこに一石を投じたのが幅広いカルチャーの普及を掲げる企業〈バール・ロール
社〉だ。
VRゲーム市場にも手を伸ばしていた〈バール・ロール〉は老舗のホビーメーカーでもあり、電脳世界を気軽に遊べる様になった今なら、プラモデルも新しいステージに行ける、と〈バーチャル・プラモデル・オンライン〉を発売する。
バトルやレースなど、『鑑賞』という楽しみから続く、その先の楽しみ方ができたのだから、プラモデラーは新しい作品に力を込めた。
しかし、実際に発売されたのは、〈プラモの世界〉とは言えない物だった。
作ったプラモデルをスキャン装置のある店舗で読み取って、電脳の世界にログインすれば、実物大の大きさのロボットや車がそこにある。
それは良かった。
問題だったのは、プラモデルを作るのではなく鑑賞する人、いわゆる〈見る専〉向けの使用。
〈ゲーム内機体〉である。
これは文字通り、現実で作ったプラモデルではなく、ゲーム内で手に入れることができ、デザインはシンプルで種類が少ないものの、ある程度のカスタム要素もある機体。
恐らくは〈見る専〉の人間でもプラモデラー達と楽しめる様にという、配慮で作られたものだろう。
しかし、この機体のバランスが完璧すぎた。
スキャンした〈リアルプラモ〉で、〈ゲーム内機体〉に安定して勝てる人間が圧倒的に少なかったのだ。
〈ゲーム内機体〉は特にデチェーンしなければ安定した性能を常にだせる。
言わば、〈ゲーム内機体〉は完全なるバランスを実現した万能機。
基本的に苦手なことは無く、どの様な装備、状況にもアンサーが出せ、プレイヤーの技量が上がれば、上がるほど手が付けられなくなる。
逸れに比べて、〈リアルプラモ〉は性能に偏りがありすぎた。
顕著な例だと、プラモデル初心者とベテランプラモデラーのプラモデルの性能を比べると明らかな性能差が生じるといった感じで。
そんなんだから、素組み派の人間は速攻で〈ゲーム内機体〉に流れた。
さらに、プラモデラーというのは基本的に〈カッコ良さ〉や〈可愛さ〉を重視して作るのであって、そういうコンセプトでもなければ必ずしも〈動かしやすいもの〉を作る訳では無い。
総合すると、ある程度プラモデルをしっかり仕上げられる人間でないと、高性能な機体は手に入らないということであり、作れても結果的にできあがるのは、尖ったロマン機体がほとんどであったということだ。
仮に特化型と割り切り〈ゲーム内機体〉に何度か勝てても、一度でも対策され、攻略されてしまうと、もう勝つことは難しい。
要は、総合性能で〈リアルプラモ〉は〈ゲーム内機体〉に勝てなかったのだ。
むしろ、デザインのために保持力を進んで殺したりするからな、
ガチのプラモデラーが〈バープラ〉に居着かなかったというのもあった。
己が作品への愛ゆえに操作を練習したプレイヤーもいたと聞くが、そういう人間は元々、プラモが趣味の人間だ。
プラモも作る、ゲームの練習もする。
そんなことが、長く続く者は少ない。
そして、一番ヤバかったのは、せっかく苦労して作った愛機が、大した苦労もせず、ゲーム内で店売りされている機体に無残に負けるのが辛いという声だ。
気持ちは痛いほどわかる。
合わせ目、ヒケ、色分け塗装・・・プラモとは突き詰めようと思えばいくらでも突き詰められる物。
本気のやつほど、膨大な時間をかけていることだろう。
一ヶ月かけて制作した機体がプレイを始めて1時間の機体に手も足もでないのはやべえよ、続けられんて・・・。
そんなこんなで、〈バープラ〉の評価としては、『グラフィックや操作性は優秀で、使える機体が少ないことに目を瞑れば神ゲー』とゲーマーは言ったが、主な客層として想定されていたプラモファンからは『コンセプトが活きていない、さすがにプラモゲーとは呼べない』としてクソゲーと称された。
ゲーム内での展示会みたいなイベントだけは高評価だったみたいだが、結局プラモデルは『鑑賞』というステージから先に進むことは出来なかったのだ。
当時の俺は新作プラモか〈バープラ〉を買うかで迷った結果、新作プラモを選んだためプレイはしなかったが、その悪名は購入しなかった俺までしっかり轟いた。
遠条さんは俺がゲーマーではなく、プラモデラーだと知っているはず。
そうじゃなくたっって、この人なら〈バープラ〉をクソゲーと呼ぶ側の人間のはずだ。
「なんでまた、〈バープラ〉なんです?」
ぶっちゃげ、オンラインゲームというだけでやりたくない。
あの〈バープラ〉ならなおさら。
だが、俺がクソゲーと呼ぶであろうゲームをわざわざ進めて来るのは気になる。
「大型アップデートがあるらしいんだよ。ほとんど別ゲーになるくらいの新要素を取り入れるんだってさ。」
「新要素?」
「最近のゲームは、発売後でもアップデートによってメーカーが色々イジれるからね。特にVRゲームなんてのは今までのコントローラー式じゃないからさ。ユーザーが感じるストレスもダイレクトに伝わる分、長く楽しんでもらうには足したり引いたりする必要がある。」
「え?じゃあ〈ゲーム内機体〉消えるんすか?」
「それは無理だろうねー。個人的には、あれが無ければクソゲーとまでは言われなかったと思うけど・・・、さすがに大会決勝戦にまで出た機体を今更、消したりナーフするのは反発が予想されるし、メーカーとしては初動でプラモデルファンが推してくれなかった以上〈見る専〉の人達は切り捨てられないだろうし。」
だよなぁ・・・、じゃあ、やっぱり〈リアルプラモ〉の方にテコ入れが入るのか。
「でさ、この間スキャン装置をメンテに来たメーカーの人がアプデのことを教えてくれたんだけど、あそこの塗料棚に飾ってある古野君のプラモが気に入ったみたいでさ。」
そう言われて塗料コーナーの方を見ると確かに俺が作ったプラモがある。
確かにあれは目立つだろうし、好きな人は好きなタイプのプラモだ。
確か、あれは・・・。
「あの遠条さんにあげたやつですよね。」
確か買う時に塗料と一緒に買ったら、「3割引するから、作ったら作例として飾らせてくれない?」と言われて、「飾ってくれるならあげますから半額にしてください。」と言って作ったプラモだ。
「うん、でも制作者は君だからさ。で、是非ともこのプラモの制作者に生まれ変わる〈バープロ〉をやってほしいと言われてしまってね・・・。」
生まれ変わると来たか・・・こりゃ、そうとうなテコ入れしたか?
でもなぁ・・・。
「あのプラモが気に入ったなら遠条さんがやれば良いじゃないですか。なんなら店のロゴでも入れますよ?」
ロゴ、・・・デカールはもちろん無いから、どうにかしてそれっぽく自作するしかないな・・・、・・・ダッァル!
言ってしまってから超後悔した。
「店員が僕しかいない店で、ゲームなんかしてる暇あると思うかい?」
「無いですね、はい。」
面倒くさい工作はせずに済んだが・・・、俺を〈バープラ〉から守る盾が消えた。
「うちみたいな個人商店にも便宜を図ってくれてる人だから、できれば無下にもしたくないんだよ。・・・まあ、物があの〈バープラ〉だから、もちろん無理にとは言わないけど。」
確かに個人でやってるにしては品揃え良いんだよな、この店。
それはつまり、俺のプラモデルライフを間接的に支えてくれている人と言って良いかもしれない。
だが、それとこれとは別だ。
そもそも、プラモを作る時間が減ってしまっては意味が・・・。
「それにメーカーの倉庫に眠っている再版未定のレアキットを卸してくれるように取り計らってくれるって言われてしまってn「やりましょう。」
次の入荷日とそのラインナップを聞いて、俺は〈バープラ〉を購入した。
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