27話「下着姿で言われても……ねえ?」
シスターブレンダがパニッシュメントなる魔法の言葉らしきことを口にすると、それに対して怒りを顕にしたエルド王が突如として突風のようなものを深月を中心として放ち始める。
しかしそれは次第に威力を増していくと教会内のカーテンや備品を全て後方へと吹き飛ばしていき、更に風は一段と強くなると留まることを知らず等々俺やブレンダすらも風の影響を受けて体が浮遊すると、そのまま後方へとまるで虫けらの如く吹き飛ばされた。
「うがっ!? ああ……クソッいてぇ……」
背中から壁に勢い良く衝突すると一瞬の息苦しさが生まれるが、それでも全身を駆け巡る痛みの方が鮮明で意図せずとして意識が保たれた。
そして俺と彼女が壁に衝突したところでエルド王は満足したのか謎の突風を収めると、
「うわっ! な、なんだよこれ!? 一体なにがあったんだよ!?」
漸くここで深月が正気を取り戻したのか周囲を見渡しては状況が何一つ呑み込めていない様子であった。
「なっ!? お、おい大丈夫かよ!」
だがそれでもブレンダが倒れていることに気が付いたようで、慌てるようにして相方は彼女の傍へと駆け寄ると安否を確認するべく必死に声を掛けていた。
「だ、大丈夫です……。それよりもエルド王の呪いを払う事ができずに申し訳ないです……」
弱々しい声で彼女は自らの怪我の有無よりも先に深月へと謝罪の言葉を口にしていた。
その言葉の中に今回の一連の出来事の結果が大きく含まれているのだが、
「今はそんなこと気にしなくていい。まずは自分の身を案じてくれ!」
相方は呪いの事なんぞ二の次らしくブレンダの体に怪我がないかしっかりと確認していた。
それから漸く体を動かすことが出来ると俺は急いで二人の元へと近づくべく歩みを進めたのだが、吹き飛ばされた影響で腰に物凄い衝撃を受けて痛みを負うことになると歩くたびに何とも劈くような痛みが迸る。
「い”っ”!? ああ、くそ……まじかよ……」
腰の痛みを少しでも和らげるために手で摩りながら歩くが、傍から見たらこれは中々に滑稽な姿なのではないだろうかと少しだけ思えてしまった。
しかしそれでもなんとか二人の元へと近付く事が出来ると、
「深月の言う通りだぜ。貴女は何も悪くない。寧ろこんなことに巻き込んでしまって俺達の方が申し訳ないぐらいだ。本当にすまない」
自分達のせいで危険な目に合わせたことを詫びると共に頭を下げた。
その際に雷が腰に落ちるが如く激痛を受けたが、謝罪の意を伝えることの方が大事だとして必死に耐え忍ぶ。
「いいえ、そんなことは一切ございません。大天使トゥゲエル様に仕える身として困っている人を見捨てることはできませんから……」
シスター歴こそ浅いもののブレンダのその言い方と信念については普通に尊敬できるものであり、自身の現状の力を全て出し切る勢いで深月の呪いを払おうとしてくれた彼女には本当に感謝しかないだろう。
これは結果がどうこう言う問題ではないのだ。心で理解することこそが大事なのだと思う。
そして奮闘してくれたブレンダの為にもここは自らの体に鞭を打ち、
「そうかい。まっ、取り敢えず怪我はなさそうだが一応大事を取って安静にしておいた方がいいな」
自分が一肌脱ぐとして腰に更なる負担を与えて彼女を横抱きして持ち上げる。
当然のことながら腰からは悲鳴が聞こえきそうなほどに痛いのだが、そすらも今は野暮というものだ。それに幾ら怪我をしていないとブレンダが主張しても、それが痩せ我慢である可能性は充分にありえる。
更にこの時は童貞としての気恥しさよりも、純粋に俺達のせいで危険な目に合わせたことに対する気持ちが上回り、興奮とか欲情という類の感情は一切湧き起こらない。
それは精一杯仕事をやり遂げようとした彼女を冒涜することになりえるからだ。
まあそれでも梯子から落ちてきたブレンダを横抱きで受け止めた時は、自分でも自覚できるほどに童貞感丸出しで今思い返しても普通に恥ずかしいけどな。
「雄飛ってたまにそういうこと自然にやるよなぁ」
すると横からは深月が何とも言えない視線を送りながら、そこはかとなく嫌味が込められていそうな声色で小言を投げてきた。
「たまにってなんだよ。それにこれぐらいは普通だろ。お前の為に体を張ってくれたんだからなシスターは」
相方に対抗するようにして敢えて目を細めながら返すことにすると、深月は何故か顔を逸らして唇を尖らせていたが本当になんだというのだろうか。謎は深まるばかりである。
「べ、別に私は大したことはしていませんよ。呪いも払えないただの役立たずですから……」
それから当の本人でもあるブレンダは頬を若干赤らめながら口を開くが、直ぐに自分の無力さを前へと出して段々と声が細いものへと変化していた。
けれど事実がそうだとしてもこれだけは真実だとして、
「いいや、貴女は深月の為に奮闘してくれた。それは紛れもない事実で、しっかりと俺の記憶に刻まれている。だから気に病む必要は一切ない」
彼女の頑張りは確かに俺が見届けたとして強く言い切り励ました。
「雄飛の言う通りだね。シスターは凄く頑張ってくれた。だから何一つ謝ることも自分を責める必要もないんだよ」
顔を逸らしていた深月が急にブレンダへと視線を合わせると、どうやら相方にも彼女の頑張りは通じていたらしく珍しく笑みを見せて口を開いていた。
だがそんな良い雰囲気の中で水を差すのは些か悪い気もするのだが、
「そう言えば深月はいつまで下着姿のままなんだ?」
それでもこの現実的な言葉を言わずには要られないのだ。
というかずっと気になりはしていたものの、いつ言うべきかと悩んでいたら時が過ぎていたまである。
「……うっ、うわぁぁぁっ!? しまったあぁぁあ!?」
しかしその現実的な言葉を聞いて深月は視線を下へと向けて表情を静かに固まらせると、次の瞬間には周囲の人間の鼓膜を破壊する程の勢いで女性らしい悲鳴を叫ぶと同時に、慌てて先程の突風により飛ばされた服達を取りに走り出していたのであった。
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