21話「見習いシスターは準備する」

 ブレンダが見習いという身分のシスターだということを知らされると、俺としてはかなりの不安が一気に込み上げてくるのだが、それでも今はビギナーズラック的な運要素に賭けるとして、深月と共に案内されるがままに教会の中へと入るべく足を進めるのであった。


 そして扉を開けて教会の中へと入ると目の前には綺麗な色が使われて何かしらの生き物が描かれた大きなステンドグラスがあり、それは太陽の光を反射させると何とも幻想的な雰囲気を教会内で作り出しているのが印象的である。


 しかし周囲を見渡してみれど教会自体はどの世界でも見られるような一般的な作りをしているようで余り目新しい物はなさそうだ。


 だが強いて違う所を言うのであれば、やはりステンドグラスの絵が見たこともない生物ということぐらいだろう。


 本当に何の絵が描かれているのやら。天使とか神に仕える何かしらの生物なのだろうか。

 まあ答えは分からないが形容しがたい何かということだけは明確に言えるな。


「おぉ、これが教会の中か……凄いなぁ」


 すると隣りでは深月が教会内を見渡しながらステンドグラスや、その他の装飾品に視線を向けては感心するように声を漏らしていた。


「ふむ、想像していたのとドンピシャだな。やはり例の王道RPGゲームの製作者は異世界帰りの人間か?」


 相方の独り言を聞きながら手を顎に当てると教会の中の雰囲気や見た目が某RPGのそれにかなり似ているとして、やはりあのゲームは誰かが実際に異世界で冒険したのを元に作られているのではないかと純粋に疑問が浮かんでしまう。


 現に俺達がこうして異世界に来られているのだから、その可能性がまったくないとも言い切れないのではないだろうか。しかし仮にこの説が的を得ていたならば、その人は魔王や大魔王を倒して世界を救うという難題を乗り越えたということだろう。


 ……そう思うと何だか妙な緊張感が湧いて仕方ないのだが、この世界ではまだスライムというか魔物という異業種を見ていないから、そういう意味ではまだ俺達の冒険は始まりを告げていないのだろう。


 だがまあ今はそんなことよりも深月の呪いが最重要事項だ。

 これを早々に何とかしなければ冒険も何も始められたもんじゃないからな。


「それでは今から呪いを払う為の準備を致しますので少々お待ち下さい」


 某RPGのことについてや深月のことを考えていると背後からブレンダが声を掛けてきた。

 どうやら呪いを払う為には準備が必要らしいとのこであり、それは恐らく儀式的な道具を集めたりすることであろう。昔某テレビ番組で祓魔師の特集を見たことがあるから分かるのだ。


「「分かりました」」


 そして意図せず相方と共に声が重なると妙な気恥ずかしさが僅かに生まれるのだが、彼女は返事を聞いて小さく頷くとそのまま歩みを進めて奥の部屋へと姿を消した。

 多分だがその部屋にこそ、呪いを払う為の道具や何かが保管されているのだろう。 


「んじゃ、俺達はブレンダさんの準備が整うまで待たせて貰うとするか」


 そう言いながら深月は近くの長椅子に視線を向けると、そのまま近づいてゆっくりと腰を落ち着かせていた。それから相方は自身の脹脛を揉むような仕草を見せると、この僅かな準備時間でさえも足を労ろうとしている様子である。


「……なあ? 本当にブレンダさんでだけで呪いを払えると思うか?」


 深月が脹脛を両手で揉んで頬を緩ませている姿を見ながらも、この質問は無粋だとは自分自身思うのだが、どうしても呪いを受けている当の本人に尋ねずには要られなかった。


「うーん、確かに不安はあるけど今は非常事態だよ。贅沢な事を言える状況じゃぁない」


 すると相方は依然として両手の動きを止めずに返事をしてくるが、意外と真面な事を考えているとして正直に言うと少しだけ驚いた。


 てっきり深月のことだから『無料で呪いが払えるかも知れないのなら、僕はそれに賭けたい! というかお金を取られないだけラッキーだし!』とか何とか言うと思っていたのだが、そんな邪な考えをしていたのは俺だけだったようだ。


 そして相方がそう決断したのならば後は結果を見守るだけであり、俺もブレンダさんという見習いシスターの底力を真実ることとして口を閉じる事にした。けれど改めて思うと何故この教会には見習いのシスターしか居ないのだろうかと言う疑問が残る。


 神父や他のシスター達は一体何処へ消えたというのだろうか。 

 まさかブレンダさん一人を置いて全員で旅行とかいう悲しいことは起きてないだろうな?

 

 ……だとしたら凄く聞き辛いし俺もそれを中学二年の頃に家族にされた経験があるのだ。

 まあその時は置き手紙と共に一ヶ月分の食費が置かれていたから困り事はなかったけど。


「えっほ! えっほ! えっほ!」


 ブレンダが一人この教会に取り残されている現状を勝手に考えて胸が苦しくなるが、それと同時に奥の部屋から彼女が出て来ると忙しそうな表情で、両手には色々と儀式で使いそうな怪しげな物を携えていた。


 それは蝋燭や魔法陣の描かれた敷布やらで本当にテレビで見たような祓魔師が使いそうな道具の数々である。そしてブレンダは抱えていた蝋燭などを慌ただしく床に設置すると、更に魔法陣が描かれた怪しげな敷布を床に敷いて準備を整えている様子であった。


「な、なあ。俺にも何か手伝えることはあるか?」


 忙しそうな光景を目の当たりにして自分も何か力になりたいとして、長椅子から立ち上がるとブレンダの元へと近づいて尋ねていた。


 せっかく深月の呪いを解いて貰うのだから自分も何かしなければならないとうい使命感に駆られたのだ。……いや、正確に言うと使命感とは違うかも知れない。

 ただ単純に女性にだけ何かをやらせるのは気が引けて仕方がないのだ。 


「大丈夫です! 全て私にお任せ下さい! ユウトさん達は今しばらくお待ち下さいね!」 


 しかしブレンダは準備に集中しているのか顔を合わせないまま手伝う事を断ると、どうやらこれは彼女の仕事ということから手を出してはいけないことを雰囲気的に悟ると、これ以上の口出しは無粋なものだとして口を固く閉じて再び長椅子に座り込むのであった。

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