17話「教会とは求める者の前にこそ現れる」
深月に付与されている呪いを解くために教会を探すこととなったのだが、既に街を徘徊して三十分は容易に経過していると思われるのだが、一向に教会らしき建物は発見できずただただ時間だけが虚しくも経過していくのみであった。
そしてこの異世界に来てからというものずっと歩いている状態であり、段々と足の裏からじわじわと痛みが込み上げてくる始末である。だがこんなところで弱音を吐いていては、今後予想される過酷な旅路は乗り越えられないとして口を開くことはない。
「あっ、ちょっと待ってくれ」
隣から急に深月が足を止めてく口を開くと、その場に腰を下げて自身のふくらはぎを揉んで労わるような仕草を見せていた。
どうやら相方の足もそろそろ限界が近付いているようで、
「足が痛いのか? だったら少し休憩してもいいぞ?」
一旦何処かで足を休めることを提案した。
どの道、このまま歩き続けても教会が見つかる保証はどこにもないからだ。
それにもしかしたらこの街には教会自体が存在しないことすらもありえる現状だ。
これは早期に俺が予想していた最悪の展開なのだが、こうも街を歩いて見つからないとなるとそう思わざる得ない。
「いや、大丈夫だ。それよりも呪いを解く方のが大事だ!」
だが深月は休憩することを拒むと一刻も早く呪いを解きたいようで、腰を上げると共に握り拳を見せてまだ歩けるという気合を主張してきた。
「そうか、まあ無理はしないようにな。なんて言ったってまだ異世界生活初日だからな!」
そう、これだけ濃ゆい展開を数々受けている俺たちなのだが、まだ異世界生活初日だということを忘れてはならないのだ。
まさに色々とありすぎて何がなにやら状態ではあるのだが、その辺は追々なんとかなるだろう。
それから深月と俺は再び足の痛みに耐えつつ教会を探す為に歩き出した。
「あっ、そう言えばさ。お前のステータスって俺と比べるとめっちゃ低かったよな? なんで?」
歩き始めて数分後にふと頭の中に深月の冒険者の証に刻まれていた初期ステータスの数値を思い出すと、なぜ俺のステータスと違い雲泥の差ほどの開きがあるのかと疑問でならなかった。
だけどスキルの方ならばエルドの呪いで全滅しているのは受付のお姉さんから教えて貰った事だから理解できるのだが、ステータスまでもが呪いの影響を受けるとは一言も言っていなかったのだ。
だからこそ、俺としては深月のステータスに謎が深まるばかりなのである。
ちなみに相方の初期ステータスとしては、どの項目も俺の数値より低くて唯一高いのが知力のみであった。
「うぐっ。な、なんだよいきなり……。聞いてどうするんだよ?」
なにやら苦悶とした声が短く聞こえた気がするが、先頭を歩く深月は振り返りながら返事をする。
「いやぁ、なんとなく気になってさ」
「はぁ……あれだよ、あれ。僕が低いんじゃなくて、それが普通なんだよ。駆け出しの冒険者はみんなあれぐらいの初期ステータスなの。寧ろ雄飛の方がおかしいんだからね」
大きく溜息を吐いたあと相方は自らのステータスが低いことに関しての説明を行うが、どうやら駆け出しの冒険者……つまり初心者だとああいうステータスが一般的らしく、受付のお姉さんも言っていたが俺のステータスの方が異常ということらしい。
「んー、本当にそうなのか?」
「そうなの。分かったらさっさと教会を探すの手伝ってよ。日が暮れちゃうと面倒だよ」
俺の言葉に深月はきっぱりと答えると、そのまま体を前へと向け歩き出し教会を探すべく顔を至る方向へと向けていた。
「あ、ああ分かった。……いや、待てよ。ってことはあれか? これが異世界転生の恩恵ということか!?」
相方の言葉に生返事をしつつ考え込むと、異常なステータスという言葉が頭の片隅で残り続けていて、よくよく思案してみればこれが異世界転生の定番チート級の能力なのではという答えにたどり着いた。
「あー、何を今更なことを言っているんだ雄飛は。それならギルドで僕が言ったろ。聞いてなかったのか? ……はぁ。これならもっと異世界系のラノベを読ませるべきだったかも知れないな」
深月は足を止めて再び振り返ると今度は呆れ顔を晒していたが、何度目かの溜息を吐き捨てつつ右手を額に押し当てながら何かを呟いていた。
しかしギルドでは相方のことを妹感覚で見ていたがために、何か重要な事を言っていたとしても恐らく俺の耳には届いていないであろう。それに深月のステータスがどれぐらいのものかと受付のお姉さんと一緒に注視していたぐらいだからな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから深月と教会を探して更に街中を徘徊すると、気が付けば人気が一切感じられない簡素な場所へとたどり着いていた。先程までの賑やかな街とは大違いで本当に静かな場所である。
「うへーっ、こりゃ何もないところに来たなぁ。本当に教会なんてあるのかねぇ?」
周りを見渡してみれど辺り一面には畑しかなくて、ここまでくると教会なんて存在しないのではと思えてならない。できることならば街のリセマラをしたいほどである。
そもそも最初の街なんだから教会ぐらい用意してよけと、創世神アステラに対して怒りというか憎悪が満ち満ちと溢れ出てきて仕方がない。
「そんなこと言うなよ。もっと慎重に探せばきっと――――お”ぉ”っ”!?」
突然として背後から形容しがたい声が聞こえてくると、それは深月の声であり相方は何処か遠くを眺めたまま全身を硬直させていた。
「どうした? 腹でも痛いのか? だったら今ならちょうど人も居ないし、幸いにもここは畑だらけだから大丈夫だと思うぞ!」
周囲を見渡した時に人が居ない事を確認しているが故に、深月にその辺で済ませてくるように言う。恐らく先程の形容しがたい声は腹痛を堪えている時に希に漏れ出る声であろう。
ということは限界が既に近いことは明白であり、運がいいことにそれは畑の肥料になることから決して悪いことではない。
しかし相方は急に顔を赤く染め上げていくと、
「っ!? ば、馬鹿ぁ! なんてことを言うんだ雄飛は!」
歪んだ口から怒声混じりの罵倒を受けることとなった。
「えっ、違うのか? だってさっきの声って明らかに腹痛の時のあれじゃないか」
だけどそのいきなりの罵倒は不思議でしかなくて、自分は一体何を間違えたのかと思案するが特に思い当たる節は見つからない。
「違うわ! 雄飛はそうかも知れないけど僕は違う! っていうかそういう話じゃなくて、あれを見て! あ・れ・を!」
地団駄を踏み荒らして一人だけ騒がしい深月ではあるが、切迫した表情を見せつけてくると急に人差し指を前方へと向けていた。
「んー? ……どぅっえ!? あ、あれは俺たちが探し求めている教会じゃねえか!」
そして相方が指し示す方角へと視線を向けて目を凝らすと、そこには場違いなほどに金色の十字架が光り輝く建物があることに気がついた。
それは先程まで何故直ぐに気がつかなかったのかと疑問に思えるほどの主張をしていて、人は諦めを自覚した時に盲目になりやすい生き物だとこの時実感させられた。
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