お風呂、そして脱走

入院して五日目。木曜日。


なんとなんと!

点滴、もうしなくていい事になりました。

左腕から、点滴チューブを外してもらえました。


まあ、一日くらいは念の為に様子見するという事で、根本の針は刺さったままだけど。

こうしておく事で、もし緊急事態が生じても、そこから繋いですぐに点滴投与が可能なのです。


点滴の卒業。

これが何を意味しているのか?


つまりは、順調に回復してきており、血管への直接的な薬剤投与は必要がなくなって、内服薬の処方で十分な治療効果が得られる、という判断が下されたという事だ。


二日目から数種類の内服薬が処方されており、三日目にはさらに二種類の薬が追加され、その後一種類の薬の投与は中止されて、その代わりに別の薬に変更、と。そんな感じで内服薬の投与が進められている。


利尿作用のある薬、心臓の働きを補助する薬、血圧の上昇を抑制する薬、尿酸の生成を阻害する薬などなど。そしてそれらの適切な組み合わせと投与量のバランス、切り替えのタイミング。


切らずに治すを実現する、

芸術的にさえ感じる投薬術。

内科を専攻する先生の本領発揮といった感じだ。


それにしても、腕からチューブが外れるだけで、何という解放感!

上着の着替えが、自分でいつでも自由にできるのですよ。


今までは、左腕から点滴チューブが生えていたので、上着の袖を自分で抜き取る事ができず、新しい寝巻きに着替える時には看護師さんに頼んで、チューブを一時的に外してもらい、また取り付け直すという、地味にすごく面倒な事になっていたのです。


点滴つけてて風呂にも入れず、濡れたタオルで頑張って身体を拭きあげていたものの、上着は一日一回の交換で我慢してました。しかしこれで、気楽に自分の持ち込みTシャツにいつでも着替えられるようになりました。


そして、入院して以来、初めてのお風呂!

湯船にのんびりと浸かれる訳じゃないのですが、点滴が外れたので、一日一回、予約制でシャワー室の使用が許可されました。


シャワーだけでも、ありがたい!

リモートで心電図を飛ばす端末も、お風呂タイムの時だけは外してもらえます。

まあ、風呂からあがればまた看護師さんを呼んで装着する訳だが。


…ちょっと待て。

何かが引っかかるぞ。

落ち着け。

落ち着いてよく考えるんだ自分。


もしかしてこれは、チャンスではなかろうか?

監視装置は、外されている。

という事は…?


翌日、実行してしまいました、はい。

そうです。脱走です。


財布を隠し持ち、風呂上がりに抜け出して下階のコンビニで両替兼お買い物しました。

おやつを入手です。

チョコレート、美味しかったです。

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