玉皐城《ぎょっこうのき》壱
白川の辺り小高い岡に立つ玉皐城(ぎょっこうのき)。
六芒星(ろくぼうせい)の形で稜堡式城郭(りょうほしきじょうかく)になっていて、城は城郭の一番北に築城されている。
元は太古よりあった六芒星形要塞で、すでに築いてある堀や曲輪(くるわ)などの石垣に5メートルに渡る荊のような柵を増築し防御を増強している。
さらに稜堡式城郭の南に向かって外側に堀や曲輪が突出しており南東の先端に
火ヶ峰砦(ひがみねとりで)、
南西の先端に
雷山砦(いかずちやまとりで)
が両翼で並ぶ、南の先端に
天ケ坂砦(あめがさかとりで)、
さらに南に獅子ヶ原砦(ししがはらとりで)
が縦に重なるように突出しており、稜堡式城郭の中には半農の兵(つわもの)が住む陣内(じんのうち)、さらにその下に広がる城下町には百鬼夜行から逃れた数百の民衆が棲みついている。
小高い岡にある玉皐城(ぎょっこうのき)より下は平地になっており、麦や米などを作っている。何年にも渡る籠城戦も可能であった。
飢饉に見舞われたことがなく収穫を迎えた麦穂はまるで黄金のように輝いている。
玉皐城(ぎょっこうのき)城主は寳女王28歳。
その娘、寳姫御子(たからのひめみこ)12歳、
比古姫(ひこひめ)11歳がいた。
城の周辺には鬼どもが彷徨いており、隙あらば城内の人を攫おうと狙っている。
城を守護しているのが星兜を賜り、前立てには玉皐の文字、背中にも玉皐の文字が刻まれ、腰の太刀は神刀剣、魔障調伏の銘が刻まれていた。
背中には破魔雷上の弓、兵破の矢を携えていた。
武者達は由緒ある武人では無かったが、百鬼を打ち破るその実力は西海道一と謳われていた。
玉皐城(ぎょっこうのき)にて寳女王が周辺警備の報告を受けていた。
「鬼界山百鬼夜行(きかいさんひゃっきやこう)が始まってひと月、周辺には鬼どもと亡霊の数が増えておりまする。」
物頭(ものがしら)が侍大将(さむらいだいしょう)の湛増(たんぞう)と寳女王に報告する。
「どうしても、白川から子供達が引っ張られますな。大人が付いてなければ危うい。」警護している武者達は今までにない鬼達と亡霊の数に警戒を強めていた。
「ひゃっほ〜!」その頃、比古姫(ひこひめ)が同じ年頃の男子たち子分を引き連れ早業を行なっていた。
森の木から木へ蔦を使って飛び移っていたり。川があれば岩から岩へ八双飛び。
草原であれば体を低くし、忍びのように駆け抜けていった。
すると目の前にライバルの男子たちがやって来て、お互い睨み合いになった。
「おい!ここは俺たちの縄張りだ!女子(おなご)はおとなしく貝覆い(かいおおい)でもやっておれ!」男子たちが言う。
「はぁ〜?考えが古いのう!そんな爺様のような考えをしておると髪が真っ白になるぞ!」比古姫が応酬する。
「なに〜!」ライバルたちの顔が真っ赤になる。「このやろ〜!」ライバルが歯軋りする。
「何が野郎よ!儂はちゃんとしたお姫様なんですからね!」比古姫が言い返す。
「お姫様が儂なんて言うか!この醜女!サル!」
これが合図で取っ組み合いの喧嘩になった。
「全くもう。なんで毎日、喧嘩やってんの〜。傷の手当てが大変じゃない〜。」
世話役の季子(すゑこ)が呆れている。「姫御子(ひめみこ)様からも大人しくするように言ってください。」
世話役の季子が側にいた寳姫御子にお願いする。
「みこ姉ぇは関係ないんだから、巻き込まんといて。」比古姫がふくれる。
「ひこは力が有り余ってるんだから、しょうがないわよ。ひこにはいつも助けてもらってるから。」寳姫御子が比古姫に後ろから抱きつく。
「あ〜ん、もう〜こそばゆい〜。」寳姫御子が比古姫の首に鼻息を吹きかける。「けけけ。ん?なんか、湿ってるんだけど、鼻息?鼻水!〜」比古姫がジタバタする。
「ひぃぃー!」大八車に家財道具と家族を乗せて男が命からがら走っている。
「ガガガー!」その大八車を追っている一匹の妖怪、一本踏鞴(いっぽんだたら)。
一つ目の巨大な猪であった。住んでいた村は鬼の被害に遭い散り散り、噂を聞き付け、助けを乞うように玉皐城(ぎょっこうのき)にやって来た家族であった。
「お城まで、もう少しだ!しっかり捕まってろ!」父親が最後の力を振り絞って大八車を引っ張る。坂道を下る。
ふと振り返ると一本踏鞴が迫って来ている。
前を見ると坂道がカーブになっていた。
父親は足を使いブレーキ。巧みにコーナーを曲がった。
一本踏鞴は真っ直ぐ突進。土手を突き破って落下。
「へへ。今のうちだ。」城が見えてきた。あと少しという時に道の横から鬼が現れた。
避けきれず大八車は転倒。
乗っていた家族も投げ出され地面へ転がった。
散乱した家財道具、車輪が外れた大八車、失神は免れ、すぐさま父親は女房と子供2人家族を抱き上げ自分の後ろへ匿った。
「包丁か棒切れは!」武器になる様な家財道具を探したが、気付けば土鍋を持っていた。
2匹の鬼が目の前に迫ってくる。
「けけけ。神妙にせぇ。」鬼が手斧を振り上げると、黒武者が割って入ってきた。
「あんたは!」父親が叫ぶと漆黒の星兜を着け、手には神刀剣、破魔雷上弓が携えてあった。
背中には玉皐の文字、武者が2人になった。
「くそ!あれで斬られたら終わりだ。一本踏鞴!来い!」
鬼たちは道の崖から落ちた一つ目の猪を呼ぶ。
「ブヒヒヒー!」鼻息荒く崖から這い上がってきた。
鬼達の背後から一本踏鞴が迫ってくる。
鬼達は一本踏鞴を避けて人間の方に突進させた。
「へへ。これで終わりだ。」鬼達も一本踏鞴の後ろからこちらへ近づく。
玉皐武士が霞の構え(かすみのかまえ)になると背後から放電が始まった。
「七剛斬峰(しちごうざんぽう)」と詠唱。
玉皐武士の神刀剣に炎が纏わりつく。一本踏鞴に目掛けて横一閃。
一文字斬りをすると刀剣が炎を吹き出しながら10メートルほど伸び、一本踏鞴と背後の鬼を一刀両断し、塵になった。
玉皐武士の背後で放電が大きくなると身固で体を隠していた日巫女(ひのみこ)が現れた。
「女神様!ありがたや〜、ありがたや〜。生きてるうちに神様に御目通りできるなんざ。いつ死んでもかまいやせん。
もうすぐ家族で常夜に行くのなか?」安堵のせいか泣きながら家族で手を合わせて拝んでいる。
「無事で何よりです。ちなみに私は人です。」泣いて安堵している子供の頭を撫でている日巫女の康子(ひらこ)であった。
「よし。まだ鬼が彷徨いている。城へ参ろう。」
武者が外れた大八車の車輪を嵌め込んで、どうにか動かせる。家財道具を載せてみんなで城へ向かった。
姿が見えなくなって暫くすると、ガサガサガサ。鬼が1匹出てきた。
「ん〜。あの城、あんな奴らもいるのか。一本踏鞴がひと撫でだったな。
とてもじゃないが城は落とせねぇ。結界も半端ねぇ。
これ以上近づいたら塵になるわ。
どおりで城を見に行かせた鬼どもが帰ってこないはずだ。
相当な力の陰陽師が中におるな。しかし、あんな頑丈な城が何でこんな所にあるんだ?やはり決戦の地は此処か。
大嶽丸(おおたけまる)様にお伝えせねば。」
鬼側の軍師、鬼同丸(きどうまる)が索敵を行なっていた。
「ん?」鬼同丸が茂みに隠れると「ま〜た、人を追っかけている奴がいるな…。狗神(いぬがみ)か。」
体長7メートルの妖怪・狗神、首から上は獰猛な犬、体は鬼で僧侶の格好をしていた。
親達と逸れた子ども5人を追いかけていた。
「しかし、でかいな。食う気か?」狗神は手を伸ばしながら5人の子供に迫っていく。
一人の子どもは幼子を背負っていた。
「お前ら、絶対、諦めるな!あそこの道が二手に分かれている。右に行くから、お前らは城の方角に行け!」
一番上の子供が少しでも多く生き残るように。走れず、背負っている一番下の弟と自分を囮にした。
「あんちゃん!」弟達が叫ぶ。「振り返るな!行け!」囮のため走るスピードを緩める。「グォォ〜!」狗神が囮の2人に迫ってくる。
「へへ。絶対逃げ切るぜ!」狗神は追いかけながら、木をへし折り、槍のように追いかけている子供に投げつける。
木が子どもの体を掠める。
「くそ!」逃げる子どものバランスが崩れる。
すると100メートルほど先の道は下に降るようになっていて、崖の中に道ができていた。
その崖の上から巨大な岩が落ちてきた。
上を見上げると鬼達がいた。逃げ道を塞がれた。
「チキショー!あんなところに鬼が!あいつらは大丈夫か!」逸れた弟達を心配したが、すぐ振り返り背負っていた弟を下ろして武器になる物はないか探した。
「こうなったら指の一本でも噛みちぎってやる!」弟を後ろに庇い、木の枝を持って狗神を待ち構えた。
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