第4話 海へ行くお誘い〜結衣〜
水着を買った晩、わたしは珍しく、夜八時ごろに忍田先輩にライン通話をかけた。
「なんだい? こんな時間に」
先輩の穏やかボイスが心地よい。途端に、昼間の、花さんといた時のわたしはどこへやら。「桜澤結衣」は、語るべき言葉を忘れてしまう。
「いえ。えーと。夏休みだし、八月だし、お出かけしたいかなって」
てへへ、と愛嬌のある笑い方で誤魔化した。
「美術館? カフェ?」
「違うんです! わたし、行きたい場所があって」
心が焦る。この冷静な元生徒会長、ほんと憎らしい。
「海、です! 泳ぐんです!」
ああ。大きな声を出してしまったな。
先輩は無言だった。いつもならすぐに返してくれるのに。
「海、か。俺は泳げないけど。結衣は泳げるの?」
若干、何かを警戒してる口調。わたしは慎重に答える。ここで引いてはならない。わたしは日本画家、桜澤芳(よし)のたったひとりの孫娘。そう。おばあちゃんの孫娘。
「可愛い水着買っちゃったんですー」
語尾が音符に聞こえるように、意識してみた。
「あー。そういうことね。それは、海、行きたくなるよな」
先輩が急に優しくなった。
「鎌倉にでも行くか。それじゃ。親御さんの許可とれよ。いや。結衣はむしろ」
「おばあちゃんの許可!」
二人して言って、くつくつと笑う。
交渉成立だ。やったね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます