第3話 言えない気持ち〜結衣〜
カラオケルームで勉強してる時に、「こんな近くで勉強してたら、自分たちは『なるようになって』しまうんじゃないか」と何度も思った。でも、先輩はいつも優しい目をしていた。
世の中の恋人同士、手を繋ぐよりもっとすごいことをしてるはずなのにな。
ただ、そんな先輩にも例外はあった。
あれはわたしの不注意だったと思う。七月七日の学園祭へのお出かけの時だ。
ノースリーブのワンピースというヒラヒラした服で、しかも絵本カフェで子供みたいに足を投げ出しちゃったせいだね。
先輩、すごく「何か」を堪えてる表情をして、若干わたしから離れてしまった。「苦悶の表情」って感じがした。おまけに、わたしが密かに好きな「スミレ色」のメガネをかけてるし。
すごーく眼福でした。美しかったです。もっと苦悶に打ち震えてください。先輩。
でも、あれ以降は、もとのクールフェイス、ポーカーフェイスの先輩に戻ってしまった。わたしとしては物足りない。
丸岡ビルの四階で、花さんと水着を見てた時に、そんなことをぼんやりと考えてた。
「結衣ちゃーん。また『絵』のこと考えてるでしょ」
花さんに笑われる。
「絵はどうでもいいんですよー。あの生徒会長を悩殺! です!」
わたしは張り切った様子を見せる。花さんはぷっと笑い、「えー。そっちの悩み? 結衣ちゃんってすごく奥手なイメージあったのに。じゃあさ、こんなのどう?」と水着を持ってきてくれた。
ワンピース型でセパレートになってる水着。色も藍色とおとなしめ。だけど、わたしが着たらとんでもなく似合いそうな感じがした。
「いくらですか?」
「五千円。でもいいよ。結衣ちゃんにわたし、プレゼントするよ。むっつりメガネをこれで悩殺しなきゃね!」
花さんは片目をつぶってみせた。
結局、その日、花さんは自分の水着を買わないで、わたしの水着一着のみ購入してくれた。買う前に試着してみたけれど、わたしは「シンデレラになった気分」ってこんなかあ、と夢見心地だった。
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