第17話 1門解放っ! させて貰えなかったバカ

 アウトローギルドを出たニィヤン達は以前、ジュン達がレッサーデーモンと戦った場所の近くにやってきていた。


 それは操られていたとはいえ、あれだけの数のゴブリンがいたという事は近くに集落があるのではというニィヤンの見立てである。


 そんな3人は戦った位置から推測でニィヤンがアタリを付けた場所を目指している。


 黙って向かっているかと思えばそうでもなく、ニィヤンはジュンに肩に腕を回されて顔を寄せられ鬱陶しそうにしていた。


「なぁなぁ、兄(にい)やん、兄弟の間に隠し事はナシやと思うんだけど、どうよ?」

「……」

「あの姉ちゃんのナイスバディをどこまで確認したん? 詳細を隠さんとさ~」


 アウトローギルドを出てからずっとこの調子である。


 ジュラに白い目で見られている事に気付いてない、いや、気付いているかもしれないが気にせずにニィヤンに迫るジュン。


 いい加減鬱陶しさが限界に近付き、アイアンクロ―で黙らせようかと思い始めたニィヤンであったが集落を発見する。


 これでジュンの気を逸らす事が出来るとホッと紫煙を吐くニィヤン。


「集落あったぞ。やはりこの辺りだったな」


 ジュンはニィヤンが指差す方法に顔を向けるとそこにはゴブリンの姿があった。入口の辺りだけでも20匹はいるように見える様子から奥にはもっといると思われる。


 これは3ケタはいるかもしれない。


 ジュンはニィヤンの肩を解放すると捲る袖もないのに腕捲りをする。


「さあ、ジュンちゃんの無双タイムが始まるでぇ」


 早速、大剣片手に飛び出そうとしたジュンであったがニィヤンが止める。


 止められた事を不服そうにするジュンが半眼で振り返る。


「なんや? ワイにやらしてくれんのか?」

「そうじゃない。昨日の戦いの前にゴブリンと意思疎通出来かけたらしいな」


 ジュンは連れションからの生まれかけた友情があった事を思い出し、「ああ」と何でもなさそうに頷く。


「もうちょっとって感じやったけどアカンかったわ」

「らしいな。だが、お前は失敗した。何が足らなかったか分かるか?」


 はぁ? と言いたげだったジュンだったが分からないらしく首を横に振る。


 ニィヤンはそんなジュンに1つ頷くとポシェットから布切れを取り出し目の前に突き出す。


 突き出したのは腰布、ゴブリンが着けていそうなのを見せてくる。


「お前に足らなかったのはこれだ。嫌いじゃないだろ、潜入して大元から潰すのとかスパイとか」


 そうニィヤンに言われたジュンは不敵な笑みを浮かべるとワンディの真似かと言いたくなるようにタンクトップの胸部分を掴んで脱ぎ放つ。


 実際はワンディのように早脱ぎ出来た訳ではないのでモタモタと脱いだだけだが全裸になる。


 全裸なのに無駄に胸を張るジュン。


 パオ――ン


「きゃあああ!!」


 ジュラは悲鳴を上げて手で顔を覆う。


 いきなり臨戦態勢のジュンのゾウさんを見せられたら少女としての反応として当たり前だ。


 と同時に顔を覆う手の指の隙間が大きく空いていて前が塞ぐ役目を果たしていないのもそうなのかもしれない。


 ちょっとおませさんのジュラをニィヤンはスル―しているとジュンは男前な顔をして突き出される腰布を手にする。


「ワイに任せておけ。やり遂げて見せるで、長官」

「誰が長官だ。いいから行け」


 呆れるニィヤンにテヘペロするジュンは敬礼と共に腰布を装着すると悠然な歩みで集落を目指す。


 見送るニィヤンに顔を手で覆っていたジュラが質問してくる。


「どうしてジュン君にあんな事させてるの?」

「ああ、色々実験したい事があってな」


 そう言うニィヤンはポシェットから各種色々な小瓶を出し始める。


 解毒薬、消毒薬、病気関係のも多種多様に出しているようだ。


 何をしようとしてるか分からないジュラに出し終えたニィヤンが集落の入口に到着したジュンの背を見ながら言う。


「ジュンもジュラも怪我はするからポーションの効き目などの実証検証は済んでるが他のはまったく出来てない。このままだと売っていいか分からんからな」

「へぇ……んっ!?」


 思わず流しそうになったジュラだがある事に気付いた。


 今、ニィヤンが言うようにジュラ達は怪我はそれなりにするがニィヤンに鍛えられ、教えを受けていたおかげで薬が必要になるような病気、または毒にかかるような事は上手く避けてきた。

 確かにニィヤンに口酸っぱく注意されていた事を順守していたからであるが、記憶を遡ってもやはり病気らしい病気をジュラ達がした記憶がない。


「村に居た頃に何度か使う機会があって多少は実績はあるが試せてないのも色々あってな」


 ニィヤンが見つめる先ではジュンが入口のゴブリンと何やら話しているようで陽気な様子からファーストコンタクトは成功したようだ。


 少し顔を青くしたジュラがニィヤンに


「ジュラ達で実験……」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何でもないです」


 突っ込んだら駄目、とジュラは首を横に振って喉まで出かけた言葉を飲み込む。


 2人が見つめる先のジュンの様子に変化が生まれる。


 最初は上手く行っていたようだが、失敗したようで腕を噛みつかれるジュンの姿があったがすぐに切り替えたらしく逆に噛みつき返す。


 それを見ていたニィヤンの口の端を上げて笑みを浮かべるとドカッとその場で胡坐を掻く。


「想定内だ。さすが俺の弟だな。兄貴想いの弟を持てて嬉しいぞ」


 満足そうなニィヤンを横目にジュラは天に祈るように目を瞑る。


「ジュン君、無事で……」

「大丈夫だ。100や200のゴブリンなど素手でもジュンの敵じゃない」


 集落にはジェネラル級もいるとニィヤンは気付いているがそれも問題ないと告げる。


 だが、ジュラの言いたい事は違う。


 ジュンの身近に生かさず殺さずを平気でやる危険人物が居る事を嘆いた事にである。


 過去の訓練を思い出したジュラは元からこの人はそういう人だったと静かに涙したのであった。



 それから2時間ぐらい経過した。


 3人はゴブリンの魔石を回収し終えてジュンはニィヤンに渡された各種薬を飲んでいた。


「くはぁぁ! ニィヤンの薬はよう効くわ。さっきまでダルかったり熱っぽかったのに」

「まあ、ゴブリンの不潔だから病原菌の塊みたいなとこあるしな。効いて何よりだ」


 元気100倍と言いたげなジュンを見て何やらメモを取るニィヤン。


 ジュラは何やら言いたげな表情をしているが黙る事を選んだようだ。


 やる事はやったから帰ろうとした時、ニィヤンはある事に気付く。


「これはジュンのパンツ? おい、履き忘れ……」


 そう言いかけたニィヤンの言葉にビクりと肩を震わせるジュンを見て嫌な予感がする2人。


 すると脱兎の如く逃げ出すジュン。


「わ、ワイはフリータイムなんやっ!」

「お前、変な性癖に目覚めかけてるだろっ! 後、フリータイムじゃなくてフリーダムの間違いだ」


 逃げるジュンを追いかける為にニィヤンは走り出す。


 それを見送るジュラは深い、深い溜息を零す。


「やっぱり変な兄弟。ジュラだけはちゃんとしないとね」


 その場に2人が居れば突っ込みを入れただろうがお姉さんぶるジュラは2人を追いかける為に走り出した。



 モルプレに着くまでに無事? ジュンにパンツを履かせる事に成功。


 エグエグと泣くジュン。


「おパンツはイヤ~。ワイはガン○ムなんや」


 何やらニュータイプが搭乗しそうなモノになったとのたまうジュン。


 確かにガ○ダムはパンツは履いてないかもしれない。


 新しい性癖への扉を少し開けちゃったジュンは錯乱しているようで訳の分からない事を言っているが2人は無視する。


 呆れる2人はジュンを引きずるようにしてモルプレに入り、門を抜けたと同時にニィヤンの足に軽い衝撃があった。


 ニィヤンはそちらに目を向けると軽装ドレス姿の金髪幼女が抱き着いている。


「おや? お嬢ちゃんは……」

「やっと見つけた。鬼のお兄ちゃん!」


 そう、モルプレに向かっている最中にオーガに襲われていた幼女との再会であった。

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