第36話 凶器② 21時

僕が松平の前に

『マティーニ』の入ったグラスを置くと

松平はソレをクイッと飲んでから

「ぶひぃぃぃ」と大きく息を吐いた。

それはまさに豚の鳴き声にそっくりだった。


僕はたった今塚本の口から語られた言葉を

頭の中で反芻した。

「詳しく話してくれないかな?」

「・・先ほど片付けをしている時に

 気付いたのですが、

 引き出しの収納部分に

 1か所空きがあって・・」

「そこにキッチンバサミが収まっていたと?」

少女はこくりと頷いた。

六条が大きく息を呑む音が聞こえた。


遊戯室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「主催者はどうしても私達に

 ゲームをさせたいんですね・・」

塚本が小さな声でポツリと呟いた。

「どういうことだい?」

僕は彼女が話し易いように優しく訊ねた。

「気付かれましたか?

 ここが【犯人】にとって有利な環境に

 なっていることに。

 部屋の鍵の件もそうですが、

 この建物のすべての部屋は

 防音になっています。

 つまりドアを閉めてしまえば

 中で何が起ころうと外に音は漏れません。

 それに。

 厨房は凶器の山です。

 包丁や鋏だけでなくフライパンなど

 あらゆる物が凶器になります。

 もしかしたら。

 平原さんが亡くなった毒も

 この建物のどこかにあったのかもしれません。

 【犯人】は

 私達の知らないところで

 他にも凶器となる物を

 手に入れているのではないでしょうか・・」

そう言って少女はグラスの飲み物を

こくりと飲んだ。


重苦しい空気が遊戯室を包み込んでいた。


たしかに。

塚本の言うことにも一理ある。

平原が毒殺されたことは確かだとして、

その毒がどこからやってきたのかが

最大の疑問だったのだ。

【犯人】が予め毒を用意していたとは考え難い。

なぜなら

招待客はゲームのことを知らされずに

ここに集められたからだ。

しかし。

毒があったとして。

そんなに都合良く【犯人】が

ソレを見つけられるだろうか。

もしくは・・。


その時、

遊戯室の柱時計が

ボーンボーンボーンと21時を告げた。


「し、身体検査をしませんか・・?」

六条は不安げな表情でそう提案すると

『マティーニ』を飲み干した。

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